表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この夏、ヒーローを見つける  作者: 川住河住
11/25

ドキドキ

 夏休みの自由研究として始めた、ぼくと陽平くんのキサラギジャックさがし。

 最初は、いるかどうかもわからない存在だった。

 けれど今は、本当にいると思えるくらいの存在になっている。

 図書館司書の清里みらいさんから貴重(きちょう)目撃証言(もくげきしょうげん)を聞くことができたから。

 城江津市(じょうえつし)のヒーロー、キサラギジャックの正体は、小さな男の子。



 必要な情報はまだまだある。

 それをみらいさんから聞き出すため、今日もぼくらは図書館へやってきた。

「キサラギジャックとどこで会ったの? どこに行けば会える? なあ、教えてよ」

 いつも決まって陽平くんがたずねる。

 たくさんの本に酔っていた陽平くんも、通いつめるうちになれてきたみたいだ。

 今ではトントントンと階段をのぼって図書スペースに入っていく。

「陽平くん。図書館ではおしずかに、おねがいします」

 みらいさんは、いつも決まってこう返す。

「キサラギジャックは、どこにいるんだよ。どこに行けば見つかるんだよ。おれたちは、夏休み中にさがさなきゃいけないんだ。たのむよ。教えてくれよ」

 必要な情報の一つ、キサラギジャックの居場所。

 どこで会ったのか教えてもらう。

 ただそれだけを聞くために毎日のように図書館へ通い続けている。

 けれどみらいさんは、いっこうに教えてくれない。

「おねがいだよ。みらいさんだけがたよりなんだ」

 陽平くんは必死に食いさがる。

「ダーメ。教えません」

 みらいさんは、返却(へんきゃく)された本を棚にもどしながら答える。



「きれいなおねえさん。お願いします」

 思わずドキッとした。

 陽平くんが女の人にこんなことを言うなんて思わなかった。

 クラスの女の子に対しては「うるさくてきらいだ」なんて言ってるのに。

「あら、うれしい。ありがとう。でもダメでーす。教えませーん」

 みらいさんは、ふたたび作業にもどる。

 今日もまたこのまま帰ることになりそうだと思った。

 けれどもう8月。まだ夏休みとはいえ、時間がたっぷりあるわけではない。

「あの、みらいさん」

 不安に感じたぼくは、勇気を出して声をかける。

 キサラギジャックさがしは、ぼくもいっしょにやっているのだから。

「なあに、拓也くん」

 みらいさんは作業の手を止めて、しっかりとこちらを見てくれた。

 またドキッとする。あつくなった顔をかくしながら伝える。

「きさらぎあさひさんの本、読みました。すごくおもしろかったです」

 きさらぎあさひさんは、みらいさんオススメの小説家の先生だ。

 おもに小学生向けの本を書いている人らしい。

 ぼくもいろいろな本を読んできたけれど、この人の作品は知らなかった。

 気になってパソコンで調べてみると、2年前を最後に書いていないことがわかった。

 今なにをしているのか、どこにいるのかもわからないらしい。

 どこでなにをしているかわからないなんて、キサラギジャックみたいだ。

 それでもみらいさんは、また新しい物語を書いてくれることを待っているらしい。

 それは、ぼくも同じ気持ちだった。

 まだ1冊しか読んでいないし、どんな人かもよくわかっていない。

 けれど、胸がドキドキワクワクする物語を書いてくれる人だと思う。

 だから、きっと今もあたらしい物語を書くじゅんびをしているはずだ。

 そのことを伝えると、みらいさんの表情がパッと明るくなった。

「気に入ってくれたらわたしもうれしい。次はなにをオススメしようかな」

 ぼくの胸がもっとドキドキとする。

 最近になってようやくこのドキドキの正体がわかった。

 これは、ときめき、というらしい。

「あの、それで、キサラギジャックはどこに……」

「ダメです。それは教えません」

 ぼくが言い終わる前に却下(きゃっか)されてしまった。

「キサラギジャックにはわたしも会いたいよ? でもあそこはあぶないから。ごめんね」

 みらいさんは、持っていた本を棚に入れてどこかへ行ってしまう。

 もうすこし話したかったけれど、そのまま見送る。

 これ以上は仕事のじゃまになってしまうと思ったから。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ