≪武人のアパート≫ ー3ー
目を覚ました康人は、二、三回まばたきをしたかと思うと、ガバッと起き上がった。
『武人!今のは何だ?』
『いや…あの…』
武人が返事に困っていると、田中が声をかけた。
『おじさん…』
『おお。田中君か。』
康人は、そう言った後、顔を見合わせている武人と田中を見て、
『何を隠してる?』
と言った。
『いや、別に何も隠してなんか…』
武人はそう言って、田中を見た。
『武人!』
康人は強い口調でそう言うと、
『だったら、俺の目を見て話せ。』
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武人は、もう隠し切れないと思った。
長年刑事として現場に出ていた康人は、勘がいい。
そして、すぐに嘘はバレてしまうのだ。
『どうするんだよ。タケやん』
『でも、…信じないだろ?』
そう言い合っている二人を交互に見た康人は、
『信じないって、何を?』
と言った。
それでも、まだ話しにくそうな二人に、
『いいから、話してみろ。何だか知らんが、話してみなきゃ、信じるも信じないもないだろ。』
と言った。
武人は、観念したのか、
『フゥ!』
と、息を吐くと、
隣の部屋の方を向いて、
『堪介!もう出て来ていいぞ。』
と言った。
『かんすけ?』
康人はそういうと、
『誰だ?』
と田中に聞いた。
すると、田中が答えるより先に、部屋を隔てる襖が開いて、堪介が顔を出した。
『武人殿…。』
その忍者姿を見た康人は、
『な……』
と、驚いた顔をして武人の顔を見た。
『さっき、気を失う前に見ただろ?』
武人はそう言った後、堪介を見ると、
『こっち来ていいぞ。』
と言った。
『他の者は?』
『ああ。みんな出て来ていい。』
襖が一杯に開いて、ぞろぞろと忍者姿の十一名が出てくると、康人は目を丸くして、
『俺…さっき見たのか?』
と言った。
武人が、なんとか事情を説明し、康人の反応をうかがっていると、
『わかった…』
康人は一言だけ言った。
『信じるのか?』
武人が逆に驚いて聞くと、
『お前は嘘をついてない』
康人はそう言った後、堪介達を見渡すと、
『こいつらの目も、嘘はついてない。』
と言った。
康人はしばらく黙った後、武人の方を向いて、
『それで?…』
と聞いた。
『それで、とは?』
『こいつらが過去から来たってのは分かった。
で、お前は何がしたい?』
『いや、別に何がしたいって訳じゃ…』
『武人。』
康人はそう言うと、武人の目を見て、
『何も、お前が責任を感じる事はないんだぞ。』
『分かってる。でも…』
『無理だ。
お前は、こいつらを、過去に戻してやりたいと思ってるんだろ?』
武人は、そんな事は一言も言っていなかった。
それなのに分かってしまうのは、親子だからというだけではなく、やはり康人の洞察力の賜物だろう。
『こいつらを助けたいなら、この時代で生きていく方法を考えてやる事だ。』
康人がそう言うと、田中が口を開いた。
『でも、おじさん。こいつら、タイム・スリップすら理解出来ないのに、この時代で暮らしていくなんて無理だ。』
康人は、
『大丈夫だ。
忍者ってのは、順応力もIQも無茶苦茶高いんだ。』
と言ってから、
『何かで読んだ。』
と言った。
そして、心配そうな顔をして見守っている堪介達を見渡すと、武人と田中の方を向いて、
『お前達、タイム・スリップって言ったのか?』
と言った。
『他に言いようがないだろ。』
武人がそう言うと、康人は堪介達の前に行き、
『堪介…っていったな?』
『は!』
『ここがどこだか知りたいか?』
『教えて頂けるか!』
堪介達は身を乗り出した。
『おう!教えてやる!』
『は!』
多少芝居がかった康人の話し方に、武人と田中は顔を見合わせた。
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