≪武人のアパート≫ ー2ー
『…う~ん…』
武人のベッドで、目を覚ました康人に、武人は、
『おやじ、大丈夫か?』
と聞いた。
『俺は…一体?…』
まだ朦朧としている康人は、状況がつかめないでいた。
『いや…き、急に倒れたから、ビックリしたよ。貧血じゃないのか?』
と、武人は、冷や汗を隠しながら言った。
勿論、堪介達忍者は隠れている。
『俺が…貧血?…』
康人はそう言うと、上体を起こしてから、頭を振った。
『だ…誰かに…
…ボディプレスされた……気がする…』
康人がそう言うと、武人は尚更冷や汗をかきながら、
『ゆ、夢でも見たんじゃないのか?』
と言った。
『そうか…、まだ頭がハッキリしないんだけど、夢だったのか?』
『そうだよ。
……ところで親父、なんか用だったんじゃないのか?』
武人は、なんとかごまかそうと必死だ。
『おお、そうだった。お前、いつから俺の手伝い出来るんだ?』
そう言われて武人は、もう一つ、はぐらかさなければならない問題があった事を思い出した。
『いつからって、まだ手伝うとは…』
『言った!
お前、ハッキリ、カラテの大会で優勝したら手伝うって言ったぞ。』
『いや、あれは言葉のあやで…』
薮をつついて蛇を出した形である。
『あやじゃねぇよ、あやじゃ。
あれから三連覇もしといて、まだ手伝わないつもりか?
それとも、今の武道家には、『武士に二言はない』ってのは、当てはまらないのか?』
さすがに元警部。
痛い所をついてくる。
『分かったよ。
でも、なんで今日になって急に、そんな事言い出したんだ?』
『いや、昨日、斉蔵が来て…』
と言った瞬間、隠れていた忍者達が一斉に飛び出して来た。
『あみゃ~~…』
康人は、奇妙な声を発すると、再び気を失った。
『馬鹿!出てくるなって言っただろ!』
飛び出してきた堪介達には、武人の声も届かないらしく、しきりに、
『お頭、お頭はどちらにおわすんですか?』
と言っている。
『おかしら?』
武人は、そう言うと、
『いや~、良かった。』
『これで帰れる。』
等と言って喜んでいる他の忍者達を横目に、
『何言ってんだ?』
と聞いた。
『いや~、武人殿とお頭が知り合いとは…』
武人は、そう言って喜ぶ堪介の両肩を、掴んで揺すると、
『おい!
だから、お頭って何の事言ってんだ?』
と言った。
堪介は、そんな武人を見ると、
『いや、さっき、そちらの御仁が、お頭の名前を…』
と言って、未だ気を失っている康人を見た。
『名前?
…斉蔵おじさんの事か?』
『そうでござる。』
真剣な眼差しの堪介に気圧されながらも、武人は、
『あのな、堪介。斉蔵ってのは、俺の叔父で、お前らのお頭とは違うんだよ…』
『そんな…』
武人は、ガッカリした堪介を気の毒に思ったが、どうしてやる事も出来ない。
どこかにタイムマシンでもあればいいのだが、あるはずもなく、今は堪介達の存在を隠すしかないのだ。
もし、マスコミにでもしれたら、大変な騒ぎになる。
きっと、堪介達は耐えられないだろう。
『…堪介…、お前達の行き場所はちゃんと考えてやるから、今はちょっと隠れててくれないか。』
武人はそう言うと、堪介達をクローゼットや押し入れに隠した。
その後、康人にどう言ってごまかそうかと考えている時、ドアが開いて、コンビニのビニール袋を両手に下げた田中が入ってきた。
『おーい、タケやん……なんだ、こりゃ…』
玄関に散らばる天井の残骸に目を丸くした。
『タケやん、これ、どうしたんだ?』
そう言いながら、残骸をよけて部屋に入ってきた田中は、ベッドで横になる康人に気付いた。
『あれ?
おやじさんか?タケやん、何があったんだ?』
武人が事情を説明していると、ふと康人が目を覚ました。
.