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派遣の忍者『月光』  作者: ヒロっぴ
5/35

現代へ    ー3ー





扉が閉まり、太陽の光が遮断されて室内灯だけの明かりになると、堪介は武人の顔色をうかがいながら、






『武人殿、この明かりを消すように言ってもらえまいか?拙者はどうも…』


『いい加減にしてくれ!俺はお前達と違って、暗闇は嫌いなんだよ!』




武人はそう言うと、荷台前部の壁に背中をつけ、あぐらをかいた。





まぁ、おとなしく乗ってくれたからいいか。



武人はそう思って堪介達を見渡したのだが、そのおとなしいのも、ここまでだった。






トラックのエンジンがかかると、またぞろ騒ぎだしたのだ。




『や…、こ…これは…』


『武人殿。魔物が吠えておりますぞ。』







エンジンがかかっただけで、この騒ぎである。


武人はもう諦めた様子で、壁にもたれかかると目を閉じた。



その途端、トラックは『ガクン!』と凄い勢いで発車した。




急発進、急ハンドル、急ブレーキ。




荷台の中で、武人達の体は前後左右に大きく揺れる。




どうやら田中は、面白がってわざとそういう運転をしているらしいのだが、堪介達の慌てようといったら、なかった。





『や、やはり、魔物だった!』



『武人殿。な…なんとか魔物を静めてくださらんか?』






中には素直に恐怖を表して





『助けてくれ~!』


『母上~!』




と叫ぶ者もいた。



いくら忍者とはいえ、何百年も未来に来てしまったのだから、堂々としていろというのは、無理な注文なのである。




武人は、パニック状態の中で、一人座ったまま、


『タナケンめ…』


と呟いた。





公園から武人のアパートまでは、車で10分足らずなのだが、武人はその10分間をえらく長く感じていた。



もっとも、堪介達には、何時間にも感じられたに違いない。



なにしろ、公園を出てからというもの、ずっと騒ぎっぱなしだったのだ。



その間に、何回『武人殿』と呼ばれたか分からない。



『武人殿、なんとかしてくださらんか。』




なんとかしろと言われても、ただトラックが走ってるだけなのだから、なんとかしようもない。


もっとも、田中の運転に問題があるのも事実だから、


後で文句を言ってやろうと思っているのだが、今はどうしようもない。





『武人殿、…な…なんとかこの魔物を退治出来ないのですか。』





トラックを退治したなんて話は聞いた事もない。






『た、武人殿…。こ、こやつは、こんなに暴れまわって、疲れないのでしょうか?』




こんな事で車が疲れるなら、都内の車はみんな、ガソリンに栄養ドリンクでも混ぜなければならない。




『武人殿、…武人殿は、平気なのですか?』




平気も何も…。


堪介達が騒がなければ、平気なのに。




『武人殿、何か武器を持っておらんのですか?』



『武人殿、この者達が、気分が悪いと…』




武人殿…、武人殿…、武人殿…



いいかげんにしてくれ!

俺の名前は合言葉じゃないんだぞ!







武人がうんざりしていると、やっと目的地に着いたらしく、エンジンが止まった。



今まで騒いでいた堪介達は、お互いに顔を見合わせると、




『どうやら、静まったようだな…』




と、辺りをうかがっている。



運転席のドアが開き、『バタン』と閉まる音がすると、堪介達はビクッとして、



『あれは…?』




と顔を見合わせた。



そして後ろの扉がガタガタいいだすと、みんな一斉に前のほうへ飛びのいた。



武人が、あきれた様子でそれを見ていると、扉が細く開いて田中が顔を覗かせた。






『着いたぞ。』




そう言ってニヤニヤしている田中を見ると、武人は『お前な…』とため息混じりに口を開いた。




『楽しかっただろ?』




荷台での騒ぎを知らない田中が、そう言いながら細く開いた扉を一杯に開けようとした時…


荷台の一番前で固まっていた堪介達は、一斉に表へ飛び出した。




さすがに本物の忍者だけあって、それは武人の目の前を、一陣の風が吹き抜けていったかのような、一瞬の出来事だった。



気がつくと、外から堪介が、





『さぁ、武人殿も早く…』




と手招きしていた。



武人が苦笑しながら降りようとすると、外で田中が大の字に伸びていた。


どうやらさっき、堪介達に弾き飛ばされて伸びてしまったらしい。




『自業自得だな。』




武人はそう言って笑った。






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