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派遣の忍者『月光』  作者: ヒロっぴ
3/35

現代へ   ー1ー





──武人たけとはその時、目の前に現われた奇妙な格好をした人間を見ると、


『近くでロケでもあるんですか?』


と聞いた。



男は黒装束に身を包み、ジッと武人の目を見据えている。


そう、それは数百年前に雪原から奈落へと落ちていった堪介だった。


『あの…』


そう言って武人が手を伸ばした刹那、堪介は跳躍し、武人の目に指を突き立てようとした。


普通の人間なら、間違いなく目を貫かれていたであろう。


だが、武人は、ことカラテに関しては右に出る者がいないといわれる程の男だった。


前に出していた方の足を軸にして身体をひねると、

そのまま堪介の後頭部へ廻し蹴りを入れていた。


もんどりうって倒れた堪介は、しばし頭を振っていたが、いきなり起き上がると、再び飛び掛かっていった。


流石にこれには武人も度胆を抜かれた。


飛び上がった堪介の身体はゆうに二メートルは宙に浮き、真上から武人を襲ってきたのだ。


しかし、驚きはしたものの、武人にとっては余りにも直線的で単調な攻撃であった為、そのまま軸足を反して回転後ろ蹴りを入れると、堪介は三メートル程飛んでいった。


そのままピクリともしないので、心配になった武人が近寄ると、堪介はまた突然襲いかかってきた。


だが、いくら忍者とはいえ、忍具を持たずに武人にはかなわない。


再三再四攻撃を仕掛けても、みんな跳ね返されてしまう。


いいかげん気力もなくなった堪介は、自分から仕掛けなければ、相手が攻撃をしてくる様子もない事に気付くと、


『お主…やるな。…それは…何という体術だ?』


と言って座り込んでしまった。


武人は何かおかしいと感じながらも、


『カラテだけど…、お前は?…』



と言った。



堪介はきちんと正座しなおすと、




『拙者か。

拙者は、甲賀新鋭衆として修業に出ている者達の代表で、佐々木堪介と申す。』



『は?』




武人は、一瞬思考回路が止まり、夢と現実が分からなくなるような錯覚におちいった。





『実は我々29名が修業をしていると、突然雪が崩れ、奈落へ落ちたと思ったのだが、気が付くとこの地におった。


これは一体どうした事か。


町なかとはいえ、師走にこんなに暖かいはずはないのだが…』




そう言って首をかしげる堪介を見ながら、武人は、




『師走?おい、今は七月だぞ。』




『しちがつ?』





またまた堪介は首をひねった。




いよいよおかしいと武人が思っていると、






『堪介さ~ん!』



と言いながら、黒装束の一団が駆け寄ってきた。




『堪介さん。ここは一体どうなっているのですか?』



先頭にいた男は、そう言ってから武人の存在に気付くと、



『や、貴様は何者…』



と言って身構えた。



それと同時に後ろの集団がサッと動いたと思うと、一瞬のうちに武人を取り囲んだ。




その素早さには武人も目を見張った。




『待て!お前達。この御仁は敵ではないらしい…


…それに…


…かなわないぞ。』




堪介が、そう言ってみんなを止めると、別の方角から一人の忍者が走りよってきた。



『堪介、これは一体どういう事だ?』



『おお、平太。何か分かったか?』



『分かったも何も…


俺は、どうかしてしまったのか?


……さっぱり訳が分からん。』





平太はそう言うと、その場にあぐらをかいて座り込んでしまった。



すると、その後ろから、



『堪介さん、そこらに乱立している巨大な城を見ましたか?』



『ああ、信じられんが、山のようだった…』



『では、もの凄い声で走り回っている魔物は?』



『見た。

…しかし…分からん…』



堪介はそう言ってから、振り返って武人の方を向くと



『お願い申す!どうかこの者達に、ここが何処だか教えて頂きたい。』


と言って、その場に手をついた。



それに習って、他の者も一斉に手をつく。





慌てたのは武人だった。


武人を取り囲むようにして、黒装束の怪しげな集団が、全員で土下座をしているのだ。



まるで武人を崇めるように…




『ちょ…ちょっと待ってくれよ。』



武人がまわりを気にしながら堪介の腕を取ると



『それでは、教えて頂けるか。』




堪介は顔を上げて武人を見た。




『いや、そう言われても…』




すると、堪介はまた頭を下げ、




『お願い申す!』



と言った。




それに続いて、他の者も一斉に、




『お願い申す!』



と、頭を下げた。



物凄い声だ。




武人は慌てて堪介を引っ張り起こすと、




『分かった!分かったから止めてくれ!』



『では、教えて頂けるか!』





堪介がそう言うと、武人は『フゥ!』と息をついてから、




『何とか考える!』



と言って空を見上げた。




堪介が合図をすると、みんな一斉に立ち上がる。



武人はしばらく考えあぐねていたが、



『よし!じゃあ、俺が戻るまで、ここで待っててくれ。』



『しかし…』



『必ず戻ってくるから。


…いいか、誰が来ても、何を聞かれても、絶対に手を出すなよ。


分かるな。おとなしくここで待っててくれ。いいな。』




武人はそう言って、彼らを公園に残すと、走って公園の外へ出た。




.




  



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