65 ただいま我が家
お待たせしました、更新再開していきます!
7月15日に1巻が発売されますので、よければそちらもよろしくお願いします!
「……今回の買い付けは疲れました」
王都に帰った日の夜、アグリア様と晩餐を取り、私の部屋でお茶にするときに私はつい愚痴をこぼしてしまった。
あまり仕事の愚痴を言ったことはなかったと思うので、一瞬アグリア様がぎょっとしたようにしてから、そんなに? と恐る恐る聞いてきた。
「えぇ、私は沈黙はさほど気にならない性質ですが……一緒に行ったイーリャンがよくわからないのです。私に対して好意的でない感情を持っていることは理解できますし、仕事の面ではそこを出さないところはいいのです。ですが、自分を好ましく思っていない……ありていに言えば嫌っている人間との旅は、そこそこ疲れもします」
これは、フェイトナム帝国にいたときの、日々の食事や必要な会談の場で感じていた類のストレスだ。
何か攻撃されるわけではないのに、ただ自分に対して悪感情を持っている、というのがはっきりとわかる人間のそばにいる、会話をする、というのは結構なストレスを感じる。
当時はその後自室に暫くひきこもるなり、本に没頭するなりで過ごしてきたけれど、今は温かく迎えてくれる家族がいる。それで、つい口から出てしまったことに、しまった、と思って片手で口を押えた。
「いいから、話して。クレアの考えていることならなんでも聞いておきたい」
そんな私の手をそっとアグリア様の手が握って膝に置く。いつもの微笑みでまっすぐに見つめられて、私は、はい、と見とれながら返事をした。
心でも読めるのだろうか。私が、うっかりと気を許してしまったことを……咎めるのではなく、どこか喜んで受け入れてくれている気がする。
「イーリャンは、どんな理由からかわかりませんが、私を嫌っています。ただ、質問には誠実に答えようとしてくれますし、私も知りたいことは聞く性質なので、今回の旅で会話のきっかけはあったのですが……それ以外の雑談というものはなく、また、結局私の知識不足で聞くことは適いませんでした。おかげで沈黙したままドラグネイト王国から帰ってくることとなりまして」
「ははぁ……、イーリャン。あぁ、あの南国の出の官僚だね。うん、クレア。君は嫌われているんじゃなくて……なんといえばいいのかな、この場合。嫉妬でいいんだろうか」
私はぽかんと口を開けてアグリア様を見つめてしまった。彼は、少し困ったように笑って頬をかいている。
「バルク卿は仕事に対してはストイックな人間だ。そのバルク卿が目を掛け、右腕として今まで大事に育ててきたのがイーリャンで……、君が来てからというもの、バルク卿は君の護衛兼相談役だったからね。イーリャンは暫くバルク卿の日常業務の補佐に回って、あまり顔合わせの機会もなかったらしい。だからこう、君にバルク卿をとられた、と思っているんじゃないかと思う……予想でしかないけどね。やっぱり本人に聞いてみないとこういうのは分からないな」
「嫉妬……、まさか。バルク卿はそのような不公平は行いません。事実、責正爵についての仕組みづくりに入ってからは私とはあまり一緒にいませんし、元に戻ったはずです」
「うん、だからやっぱり本人に聞いてみないとね」
その、本人に聞くというのが、とんでもなく難易度が高いんですが。
とはいえ、明日は時間を作ってもらって宗教の仕組みを教えてもらう予定だ。
「そう、ですね。本人に聞いてみようと思います」
「さて、それじゃあそろそろ本題に入ろうか。どんな石を買ってきたのかな?」
そういえば、主目的については簡単な報告だけを上げて休ませてもらったのだった。
私は殿下に、どんな石があり、どんな風に選んだのかを詳らかに話したが、イーリャンの儀式のようなあの行為については、なんとなく口にするのが躊躇われて濁して話した。
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