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3 立ち寄った街中で

 王城のあるバラトニア王国の首都に向かう途中、何度か街に立ち寄った。


 高級な宿屋や、その土地のご馳走を並べてくれる食堂、街中の散歩とかなり自由に歩き回れた。が、図書館も書店もない。地図も売っていない。


 それをアグリア殿下に尋ねると、苦笑いして頭をかいていた。


「この国には紙の製造法が無いんだ。未だに羊皮紙か、木簡を使っている。市民の間に紙が普及させられたりすればいいんだけど……」


「そうなんですね。交易で紙を得ることはしませんでしたの?」


「そうだね、紙は交易品に入っていない。あぁ、あとインクもだね。そんなに使わないから」


 私は少し考えた。バラトニア王国は広大な森があるし、何なら山に挟まれた平野で作物を育てているといってもいい。


 禿山でもないし、こんもりとした森は遠目からでも針葉樹林だと分かる。そこまで木々を伐採する必要はないだろう。それに、すぐに植えれば十年もせずに立派な森に戻るはずだ。


 森林を少しずつ削って紙を作るとして、穀物と酪農で生計を立てている人がいるのなら、獣害も考えなければいけない。知識はあるが、すぐにこうしましょう、と言える物では無い。


 もっとバラトニア王国を知らなければ、迂闊なことは言えない。


「私は本が好きですの。雑貨屋などを見て、紙の加工技術は問題なくあると思いました。他にもクリアしなければいけない問題はありますが……、この国に紙を普及させることは、不可能ではありません」


 そして、その土地の口伝で伝わることを本にしてほしい。私は喜んでそれを読むだろう。


 アグリア殿下はぽかんとした顔でこちらを見ていた。いきなり、紙の普及、などと私が言い出したから呆れているのかもしれない。


「す、すみません、出過ぎた真似を……!」


「いや、そうじゃない。そうじゃないんだ、クレア。君は……紙の製造法を知っている? 必要な機材も?」


「え? えぇ、はい、図面も引けますよ。そんなに難しい構造ではな……」


 いですし、とは言えなかった。


 いきなりアグリア殿下に抱きしめられて、私は顔を真っ赤にして固まってしまったからだ。


 王宮にあった本はあらかた読んだ。その内容は『全て頭に入っている』。木簡を使っているくらいだから、木の伐採量はそこまで気にしなくてもいいかもしれない、とか現実逃避したくなるので離して欲しい。


 背中をポンポンと叩くとようやく私は解放された。


「君はすごい。やっぱり君に来てもらえて、本当によかった。紙の事はまた王城でゆっくり話そう。あぁ、欲しいものがあったらなんでも言ってね。叶えられる限り叶えるから」


「? は、はい」


 すごく喜ばれているけれど……、やっぱり不思議だ。


 殿下の、私でよかった、私がよかった、という態度には慣れない。


 しかし、これはほんの序章に過ぎなかった。

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