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1 生贄の花嫁

「はぁ……」


 揺れる馬車の中で私はため息をついた。もうこの国には二度と帰ってくる事はないだろうし、正直生きていられるかも分からない。


 それでも、私は行かなければならない。この国の第二皇女だから。


 去年、隣国のバラトニア王国と、我がフェイトナム帝国は戦争になり、バラトニア王国が勝った。


 制圧戦争ではなかったため、和平協定が結ばれ、その中の一つの項目にフェイトナム帝国の皇女を嫁によこすようにという項目があったのだ。


 私は第二皇女で、第一皇女の姉と、第三皇女の妹がいる。他に、兄が2人。第一皇子と第二皇子だ。


 バラトニア王国には王子が2人いるだけで、当然皇子2人は除外。3人の皇女の中から選ばれたのが私、クレア・フェイトナムだ。


 選ばれた理由は分かっている。


 2歳年上の姉、ビアンカは絶世の美貌の持ち主と讃えられていて、愛想もよく、淑女教育も完璧だ。……性格は、どうかとは思うけど……、高位貴族に降嫁するなら問題ないだろう。


 そして1歳年下の妹、リリアは、可愛らしさと愛嬌があり、こちらも淑女教育は完璧。性格は……まぁ、どうかと思うけど……、これもまた国内の高位貴族や属国に嫁ぐなら問題ない。


 私はというと、特段美人でも可愛くも無く、上と下から物心がつく頃には見下されていたので性格には一番難がある。卑屈で愛想も愛嬌もない。淑女教育の敗北ともいえる鉄仮面ぶりで、正直姿勢も良くないが、家庭教師に匙を投げられた。


 その代わり、勉強にのめり込んでしまった。王宮にある本は粗方読み尽くし、他国の本にも手を出したので語学は堪能、歴史、経済、政治、芸術はできるが、女にそんな物は求められていない、というのが父母と兄2人と姉妹の言だ。私もそう思う。


 だけど、仕方ないじゃない?


 貴女は美しくないわね、と言われて。


 お姉様は笑うのが下手ですね、と言われて。


 なぜもっと可愛らしくいられないのか、美しくいられないのか、と親兄弟に責められたって、姉にも妹にも馬鹿にされているように、私は見た目ではとても敵わない。


 灰色の瞳に白に近いウェーブのかかった髪。このぼやけた顔は、姉や妹のような鮮やかな金髪やルビーの瞳の色彩の前では霞んでしまう。顔立ちも、美女でも可愛くも無い。不細工とは思わないけど、やはり姉妹の中では一番見目は良くない、と思う。正直美醜はあまり分からない。


 親にも真っ先に生贄に選ばれるような私が、何にハマろうともういいじゃない、という半ば開き直りから私は勉強に没頭した、というわけで……。


(将来は官僚の誰かとくっついて、私も官僚として働きたかったな……)


 そんな僅かな夢を叶える事もできないまま、私は敵国に嫁いでいる最中だ。


 戦争の理由は……フェイトナム帝国は属国をいくつか持っているのだが、バラトニア王国は植民地として充分な広さがあり、穀倉地帯を抱え、ちょうど反対側に海がある国だ。


 バラトニア王国は数代前にフェイトナム帝国が植民地として属国に下したが、土地柄からフェイトナム帝国と違っておおらかな交易を行っていたため、力をつけて独立戦争を起こし、見事独立した、というわけだ。


 だから元々仲が悪いわけではないけれど……、今まで自分たちを下に見ていた国からの輿入れなんて、歓迎されるはずも無い。


 仕方ない。私は死ぬかもしれないが、国民の為だと思えば耐えられる。親兄弟のためだと思うと気が萎むけれど。


「はぁ……」


 もうすぐ国境だ。


 私は、何度目かわからないため息を吐いて祖国を後にした。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 男の機嫌を伺わなければ生きていけない男尊女卑社会で、その必要が一番低いのが国のトップであるわけで みだりに笑わない、感情を窺わせない威厳のある王女の方が王族の女子への教育としては成功で…
[気になる点] 帝国ならトップは皇帝で、その娘たる主人公は王女じゃなくて皇女では? ボブは訝しんだ
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