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第4話 ステラ、島流しに処される

 追放宣告からひと月が経過した。

 私は島に同行する十数人の使用人とともに、小さな港町の桟橋にいた。


「そら、さっさと船に乗れっ!」


 下の兄――グスタフ兄様に背中を押され、私は桟橋に係留されている木造帆船へと移動させられた。


「グスタフ兄様、待ってください! もう一度……もう一度、父様と」

「見苦しいぞ、庶子の分際で! てめぇの居場所は、もうバルテク家の中にはありゃしないんだよ!」

「い、痛いっ!」


 今度はエドムント兄様に腰を蹴られた。


 私は痛みに耐えながら、二人の兄を見つめる。

 兄様たちは下卑た笑いを浮かべつつ、船から桟橋へと戻っていった。


 なんとか孤島行きを撤回してもらうためにも、父様と直に話し合いたい。

 でも、この調子じゃ無理そうだった。


「貴族としての体面は整えてもらっているんだ。それだけでもありがたく思うんだな!」

「そうだそうだ! 貴様なんて、本来バルテク家に足を踏み入れてもよい立場じゃなかったんだから! 薄汚い女の娘のくせに!」


 兄様たちの嘲弄が次々と飛んできた。

 私だけが悪し様に言われるのはまだいい。母様まで貶されるのは、心が痛んだ。


 泣きそうになるが、ここで泣けば兄様たちを余計に喜ばせるだけ。

 グッとこらえる。


「もうやめてくれよっ!」


 そこに、ミランが横から割って入ってきた。

 顔を真っ赤に染めて、兄様たちを睨みつけている。


「ミラン……」

「ふんっ! 父さんの気まぐれで拾われた、どこのウマの骨とも知れないミランじゃないか」

「今のステラにゃ、確かにミランがお似合いだな」


 兄様たちはますます大きな声で笑った。


 ……悔しいよ。

 私のせいで、ミランまで笑われた。


「あばよ、ステラ。ま、もう二度と、おまえの面を拝む機会はないだろうがな」

「数日後には、全員海獣の腹の中かもなぁ。せいぜい、みっともなく抵抗してみろってんだ」


 散々私を嘲笑した兄様たちは、満足したのか桟橋から去って行った。




「ステラ……」


 ミランが心配そうに私の顔をのぞき込む。


「こんなのって……」


 私はつぶやき、両手をぎゅっと握りしめた。

 今頃、港町の酒場で祝杯でもあげているであろう兄様たちの姿を思い浮かべる。


「こんなのってないわ……。貴族って、いったいなんなのよ……」


 与えられた【天啓】以外で、私があの兄たちに劣っている点なんて何一つない。

 魔力も、知識も、……武芸の腕前でさえも。


 バルテク領の将来の発展に、私はあの愚かな兄様たちよりも、ずっと役立てるはず。

 そう信じている。


 なのに、父様の選択は……。


「母様が平民だったからって、なんで努力もろくにしないクズな兄様たちから、言いたい放題バカにされなくちゃいけないの。こんな惨めな目に遭うんなら、もう半分の貴族の血も、いらない!」


 バルテク家に引き取られる前の、慎ましいながらも楽しかった母様との生活。

 あのまま貴族の生活を知らずにいられたら、どれほど幸せだっただろう。


「ほんと、最低だよな、あいつら。一方的に期待をかけておいて、不要になったら躊躇無くポイって捨てるなんて」


 ミランも口をとがらせながら、私に同調してくれた。


「ミラン……。あなたたちまで、私に付き従って死ぬ必要なんてないわ」

「ちょ、待ってよ! なに言ってるのさ、ステラ! 僕は君の従者。ここで離ればなれになるわけにはいかないだろ!」

「でも……」

「でももなにも、ステラは子爵で島の領主になったんだ。僕たちは、その領主に仕える使用人。ついていかないなんて選択肢、端からないよ!」


 目を大きく見開き、ミランは頭を左右にブンブンと振る。


「死ぬかもしれないのよ?」

「だからなんだっていうんだよ。このままバルテク領に残ったって、旦那様に目を付けられた僕たちじゃ、まともな生活なんて望めやしない。だったら、たとえ死地だったとしても、信頼できるステラと一緒に行く!」


 ミランは私のドレスの袖を握りしめながら、大声でまくし立てた。


 ここまで言われては、拒むわけにもいかない。

 みんな、相当な覚悟を持ってついてきてくれているみたいだ。


 信頼を寄せてくれるのは、主人として素直にうれしい。

 なら、私もそれに応えなくちゃダメだよね。


「だったら……。だったら、私はみんなを死なせないように、やれるだけのことはやらなくちゃ、だね!」

「そう! そうだよ! ステラはすごいんだ。僕にはよくわかっている。だって、ステラがバルテク家に引き取られてから、ずっと傍にいたのはこの僕なんだから!」


 ミランの言葉のおかげで、心がすうっと軽くなった気がした。


 絶望的な船出も、仲間がいればまた違うのかもしれない。


 私は、一人じゃない。

 それだけでも、すごく心強かった。




 ロープが切られ、船が桟橋から離れた。

 ゆっくりと大海原へ進んでいく。


 私はミランと並んで船尾に立ち、小さくなっていく港町を睨みつけた。




 こうして、私はバルテク家から追放された――。

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