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5 補習と野球

僕という人間は馬鹿という評価が客観的に見て正しいのかもしれない。勉強だって苦手だし、記憶力だってそんなによくない。でも、そんな僕にも多少は取り柄があったりする。長年の経験での丈夫さ(先生のお陰とは言いたくないけど……)、と人より有り有り余る体力。そして――



カキン!僕の振った金属バットが心地良い音を発してボールが遠くまで飛んでいく。今回は力加減を間違えて学校外に飛ばさずに済んでホッとしながら、ホームランなので悠々と一周して戻ると、今回のチームメイトの悠斗が苦笑して言った。


「相変わらず、凄い運動神経だな。部活にでも入ればいいのに」

「やりたいものないし、バイトの方が楽しいから無理」

「そうかい」


クラスメイトもいつものことなので、僕に打たれた時は仕方ないと割り切ってプレイを続けている。こういう時に若干の疎外感を感じるけど……まあ、仕方ないことだよね。


「それで?最近教室に居ないのはこの前の補習の女の子と関係あったりするのか?」


唐突に聞かれたので少しびっくりしながらも、僕は頷いて言った。


「天使さん、保健室に居ること多いからね。時間ある時に覗いてるんだよ」

「なんか、あれだな。お前が女子に必死なの見てると、優香と凛の時のこと思い出すな。俺らの恋のために必死になってたの」

「僕はそんなつもりは無かったけどねぇ……」


まあ、確かに甘酸っぱい青春の手助けはしたけど……その後に胃が痛くなるほどの砂糖過多の光景が待ってるとは思わなかったよね。


「今回はその子の恋を応援するのか?」

「天使さんの恋を応援……」


あの天使さんが恋……そういえば、恋人とか想い人いるのかな?もし居たら僕は……


ズキン


なんか胸が苦しくなる。初めて感じるそれが何なのか僕は薄々気づきつつも気づかないフリをして言った。


「ごめん、なんか体調良くないかも。保健室行ってくる」

「……そうか。ま、頑張れ」


生まれてこの方、先生の暴力や一週間の徹夜、真冬に海にダイブしても体調を崩したことがない僕が初めて感じる変な動悸。だって、まだ出会って日が浅いし、そんなこと有り得るのだろうか?


ガラッと保健室のドアを開けると、いつも通りそこで勉強をしている彼女。その扉の音でこちらを向いた彼女は僕の姿を見ると微笑んで言った。


「村雨くん」


ドクン。あ、なんかヤバいかも……意識してしまうともうダメだった。どこの世界にそんなあっさり惚れる人間がいるのだろうかと思っていたけど……まさか自分がそうだとは夢にも思わなかった。小学校の頃にノリで告白したクラスメイトの絵里香ちゃんにも抱いてなかった感情。


多分、僕、天使さんに一目惚れしたんだろうなぁ……


「村雨くん?」

「ん、あ、ごめんごめん。少し顔が見たくなってさ」

「ふふ、サボっちゃダメですよ」


思えば、こんなに自分の好みの女の子が具現化したような人も他に居ないのかもしれない。可愛くて、頭も良くて、真面目で、一生懸命で……強い人。


芯の部分が強いって言えば分かるかな?あと、支えてあげたくなる感じとかとにかく全部が知れば知るほど好きになってしまう。友達1号なんて言いながらこれは本当に自分でも呆れてしまうけど……でも、このことは言わない方がいいのかもしれない。


いや、ヘタレとかじゃなくて、知り合って間もないこんな早い段階で伝えたら、せっかく彼女の友達としての地位が築かれつつあるのに崩壊しかねない。何より……


(あの(・・)、父さんの息子が恋愛するのもなぁ……)


愛人作って息子を亡き妻の代わりに女装させるような男(でも、育ててくれたことは一応感謝してるけどそれはそれ)の息子の僕にもヤツの遺伝子は流れてる訳で……まあ、要するに将来が物凄く恐ろしいのでもう少し自制心を身につけて、かつお金貯めてから気持ちを伝えられたら伝えよう。


……うん、まあ、ヘタレだよねぇ。でもさ、初恋なんだよ。しかも相手にとって僕は初めての高校での友達というポジションで、尚且つほるが楽しそうだと、やっぱり下手に異性として見るのは迷惑かなぁって思うわけよ。


それに、これが本当に恋なのか。恋だとして絶対にホンモノなのかも見極めたい。それで、少しでも……少しでも彼女の中に自分が入れるようなら、寄り添えるような自分になろうと思うのだった。


そんな思考に気づくことはない彼女は思い出したように笑みを浮かべて言った。


「そういえば、さっきの見てました。凄いボール飛びましたね」

「あ、見えてた?」

「はい、村雨くんは運動得意なんですね。カッコイイです」


………天然だろうか?意識しないようにしてもやっぱりクルねぇ。


「私、キャッチボール?も、したことないんです」

「体調いい日に、無理なくなら付き合うよ」

「本当ですか?約束ですよ」

「うん、約束」


そうして、僕は馬鹿なりに自分の気持ちに向き合うことにしたのだった。初めてのことだし、分からないことだらけだけど……友人たちはこんな気持ちを味わって……いや、2人とも両想いだったから少し違うのだろうか?やっぱりリア充爆発しろだと心底思うのだった。













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[良い点] やばい、この2人尊過ぎます
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