4 補習と才能
「あれ?あれは……」
昼休み、友にお昼をかつあげされてから、なんとなく保健室へと足を運ぶと、ベットに座りながら必死に問題集を解いてる天使さんの姿があった。スラスラとペンを走らせているかと思えば、少し悩んだりとなんとも可愛いクラスメイトをしばらく観察してから、僕は思い切って声をかけることにした。
「天使さん、おはよう」
「……あ、村雨くん。おはようございます」
「頑張ってるね。勉強好きなの?」
「はい。嫌いじゃないです。でも、それよりも……」
「それよりも?」
「これくらいしか、私には出来ることないですから」
まただ。また、悲しげな笑みを浮かべている。なんだか、やっぱりこの子のそんな顔は見たくないと思って僕は咄嗟に思ったことを口にしていた。
「天使さん、トランプで遊ばない?」
「え……?」
「実はたまたま持ち歩いててね。息抜きも大切でしょ?」
「でも……」
「何かやりたいゲームある?」
「ババ抜きしか知らないです……」
「んじゃ、ババ抜きしようか」
ぱぱっとトランプをシャッフルして僕と彼女の分で分ける。戸惑っていた彼女も、律儀にカードを集めて付き合ってくれるようだ。
「――むぅ、も、もう一回です!」
そんな彼女の声と共に5時間目の授業の終了のチャイムが鳴った。もうかれこれ10回以上はやってるが……うん、まあ、彼女はどうやらこの手のゲームが苦手なようだ。意外なことに負けず嫌いなようで、最初の困惑が嘘のように熱中していた。
「ねぇ、天使さん」
「ま、待ってください。もう少しですから……」
じっと僕の手札を見つめてどれがババなのかを見極めてる彼女に僕は言った。
「いや、そうじゃなくてさ。さっきの勉強くらいしか出来ることないって……」
「……私、本当に体が弱いんです。少しのことで体調崩して……お母さんにも沢山迷惑かけてます」
「そうかな?」
「そうに決まってます。本当は私なんて生まれて来なければ良かったのかも……ふぇ?」
僕は思わず軽く彼女の頬をつついていた。驚く彼女の柔らかい頬をつつきながら僕はそのままの気持ちを言った。
「きっと、天使さんのお母さんはそんなこと思ってないよ。それに僕もそうだと思う。天使さんに会えて良かったと思うから」
まだ会って数日だけど……何故かそれは断言できた。
「僕は天使さんと違って体は丈夫だけど……頭が弱くてね。だから、別に体が弱いことは悪いことじゃないと思うんだ」
小学校に上がった頃から、自分が人より出来が悪いことがすぐに理解出来た。ひらがなを覚えるのも、簡単な計算が出来るようになるのも物凄く時間が掛かって、クラスメイトにはよく馬鹿にされた。でも、その当時の担任の先生がそんな僕によく言ってた言葉がある。
『人より覚えるのが遅くても、その覚えたことを忘れなければ大丈夫。とにかく、得意なことを見つけなさい。一つでもそれがあれば、その他のことも自然と出来るようになるから』
多分、これまでの人生で1番の恩師(先生の前で言うと蹴り倒される)のその言葉は今でも僕の原動力の一つになっている。
「僕は馬鹿だし、特に才能とかないけど……天使さんは可愛いし、勉強も出来るし頭もいいし、本当に凄いと思う。僕はそんな天使さんが本当に好きだよ」
「ふぇ?」
……あれ?変なこと言ったかな?
「あ、えっと……友人として本当に尊敬出来るなって」
「え、あ……そ、そういうことですか……」
少しだけ残念そうな天使さん。何で?いや、まあ、とにかく。
「天使さんは凄いって僕は言いたいんだ」
「……ありがとうございます。村雨くんは本当に優しいんですね」
なんか生まれて初めて言われた気がする……若干感動を覚えつつ結局放課後までババ抜きをして、放課後は先生に捕まって説教されるのだった。まあ、そんな日もあるよね。