1 補習と出会い
サムい感じにしかならない❄:;((>﹏<๑));:❄なんかすみません( ´・ω・`)
人間、時には逃げることも大切だと思うんだ。逃げは必ずしも悪いことじゃない。野生の動物が逃げるのは防衛本能の現れだしね。だからこそ、逃げることは悪くない。生き物として当然のことなんだ。
「……んで?それが遺言でいいのか?」
ボキボキと拳を鳴らす麗しの担任教師に僕は必死になって説得した。
「いえ、違うんです。僕はただ、逃げというのは生物として大切なことだと言いたいんです」
「そうか」
うんうん、と頷く先生に俺はホッとしていると、ふと視界が反転して気がつくと景色が逆さになっていた。あれ?おかしいな……気のせいか生まれて初めてジャーマンスープレックスされてる気が………ってか!痛い痛い痛い!
「ちょっ!先生、これ体罰じゃ!」
「馬鹿には体で教えないとな。それに、お前の親御さんが死ぬ前に遺言として許可を貰ってるから問題ない」
「遺言がそれなのぉ!」
そんな悲鳴が職員室に響き渡るのだった。
「全く……よりによって補習から逃げようなんて、進学出来なくてもいいのか?」
「出来れば体罰する前にそう諭して欲しかったです……」
この分煙or禁煙のご時世に職員室で堂々とタバコを吸えるのはこの人くらいだろうという、感じでタバコが似合う男前の僕のクラスの担任教師の渡辺先生。
長い黒髪の美人教室で年齢不詳なこの人は、僕、村雨麗の高校でのクラスの担任であり、今は亡き父さんの愛人だったそうだ。うん、まあ、愛人なのは最近本人から聞いて知ったんだけどね。うちの父親の株が死後に大暴落してるのは仕方ない。
ここ、星空高等学校は比較的普通の進学校だけど名門と呼ばれるようなガチなところではない。バカより少し偏差値高めのバカよりのそんな高校での底辺にいるのが僕だと言っても過言ではないのだろうと自覚はしてる。でも……
「いや、ですね。病むにやまれぬ事情がありまして……」
「ほう?一応聞こうか。私の補習をサボる言い訳に足るかは分からないが」
「えっと、先生は結構なお年ですよね――って、痛い痛い!頭が!頭がわれるぅ!」
ガシッと見事なアイアンクローをされてしまう。うぅ……体罰でいつか訴えてやるぅ……
「んで?私の年齢に触れた馬鹿はどんな言い訳をするんだ?」
「いやですね、お金って大切じゃないですか」
「まあ、無いと困るな」
「その……バイトの掛け持ちが楽しすぎて、勉強面倒だなぁって……あの、その手刀を下げて貰えませんか?」
1度僕を某密林ヒーローの大技の大切断で真っ二つにする勢いで頭にチョップをくらってシクシクしていると、先生はため息をついて言った。
「まあ、お前の家庭事情は良く知ってるが、それでも補習には出とけ。1年で留年はなかなかしんどいぞ」
「そしたら、クラスメイトを先輩呼び出来ますね」
「パシリにされていいならそうしてもいいんだぞ?」
そんなことする訳……あー……いや、若干数名そうしそうな奴がいるなぁ。
「とにかく、明日も補習あるから絶対サボるなよ。土曜だからってサボったら……」
「さ、サボったら……?」
「お前の幼い頃の女の子の服着てる写真をクラスメイトにばら撒く」
「それはダメー!」
今でも思い出せる悪夢だ。母親は僕が生まれると同時に亡くなって写真でしか顔を知らない。父親は唯一残った僕が母さんそっくりの容姿だったから幼い頃はずっと女の子の服を着せられていてそれはそれは大層大変だったのだ。
「『おかま』、『オトコ女』、『見た目女の子じゃね』、『ていうか、可愛いね君。お兄さんと遊ばない?』、etc……」
「さり気なくトラウマゲート開くな。というか、不審者混じってるぞ」
1度脂ぎったオジサンに連れ去られそうになったところを先生に助けられたのは今でも夢にみるレベルだ。
「うぅ……ていうか、僕なんかに構ってないで他の補習の人を優先してくださいよ」
「残念ながら補習はお前以外は1人しか居なくてな。その1人も今日は病欠だ」
「病欠?」
「ああ、天使もえ。お前のクラスメイトだよ」
天使もえ……それって、確か……
「あんまり登校してない生徒ですよね?僕は1度も会ったこと無いんですが……何か事情があるんですか?」
「ん?まあな。少し体が弱くて、登校しても保健室が多いんだよ。とはいえ、それじゃ進級出来ないから体調のいい日に補習開くんだが……お前もそろそろこれまでサボってきたツケも払って貰わないとな」
ギロリと睨んでくる先生。あ、これマジなやつだ……
「分かったな?」
「イエスマム!」
ビシッと姿勢よく敬礼をして答える僕。うん、逆らえないから頑張ると思って、威勢よく帰ってご飯を食べて寝ることにした。そして翌日――
「むにゃむにゃ……」
――普通に寝坊した。新聞配達のバイトから帰ってきて、補習まで一休みと思って寝たら普通に寝過ごしていた。まあ、そうとは知らずにスヤスヤと安らかに眠る僕の眠りを覚ましたのは王子様のキスではなく……
「えい」
「ぎゃぁぁぁぁあ!」
……スタンガンの電流だった。まさかそんな起こされ方をされるとは思わずスタンガンという初体験を済ませてしまった僕を引き摺って学校に連れていく先生。
「全く、あれだけ言って寝坊とは」
「すんまそ――ちょっ、スタンガン向けないでください」
黒くて太いもの怖い(カタカタ)と、震える僕を学校まで連れてきてから、逃げないように首根っこ掴んで会場である小教室に連れていく先生。子猫のように従順な僕はそのまま先生に首根っこ掴まれたまま教室のドアをくぐって――思わずフリーズしてしまった。
まるで二次元の世界から飛び出したように真っ白な長く綺麗な髪と、蒼い瞳。スレンダーな見た目ながらも真っ白な素肌がなんとも素晴らしい美少女がそこにはいた。
その美少女は俺達の入出にびっくりしてから、先生に聞いた。
「あの……何をなさってるのですか?」
「やっはろー」
「や、やっはろー?」
べしっと頭を叩かれる。軽い挨拶のつもりだったのに……
「天使、こいつはお前のクラスメイトでこの学校で1番の馬鹿、村雨麗だ」
「あ、クラスメイトさん……」
少しだけ表情を曇らせる天使さんに何故か分からないけど無性にそんな顔させたくなくて思わず言っていた。
「ども、村雨麗です。気軽にレイくんって呼んでね。実は先生の子供なんだ」
「え……えぇ!?」
「余計なこと言うな」
「あべし」
舌噛んだ……ひたひ……
「正確には、こいつの父親と私が昔恋仲だったんだよ」
「ははは、またまた。父さんの都合のいい女だったのに……ぐお!」
ブンブンと両足を持って振り回す先生。あぁ、世界が回る……
「ふふ」
ひとしきり振り回されてぐるぐるする視界でそちらを向くと、少しだけ微笑む天使さんの姿があって、何故か分からないけど少しホッとした。それが、僕と彼女との出会い。彼女、天使もえと僕、村雨麗の始まりでもあったのだった。