密室殺人〜Mが殺した
「Innovation――技術革新」
ここは、水照学園高校。県内有数の、私立の進学校であるとともに、数多くの研究会、同好会が存在している高校でもある。
これは、ミステリ研究会(通称、ミス研)という、水照学園の中で、最も新しい(かつ、最もつぶれそうな)研究会が遭遇した、世にも奇妙な事件の記録である。
永井家密室殺人事件に関する調査報告書 製作者 1年B組 ミステリ研究会 宮部
発生時刻:四月二四日 午前二時(推定)
被害者:永井涼太(43)
状況:扉にかんぬき型の鍵がかかっており、完璧な密室状態であった
部屋の鍵は、中からしかかける事ができない。尚、糸を使うのは不可能である
他の出入り口は無し。被害者は、部屋の中央で刺殺されていた
死因:失血死
容疑者:松室雅哉(43)高校教諭 歴史学専攻
志熊靖(43)金属工場勤務、部品開発担当
芳川誠(44)大手製薬会社社員
備考:大学の漫画サークルの同窓会の最中に発生
部屋の気温が40度を超えており、それは、死亡推定時刻をごまかすためだと思われる
「Follow Up――追跡調査」
一
「巧!これ、昨日起こった事件のレポート。目を通したら、すぐにでも出られるように、準備しといて」
僕は、(名ばかりの)ミス研会長である綾辻巧の前に、徹夜で仕上げ、(本当に)苦労した調査報告書をたたきつけた。ちなみに、巧は左目だけ視力が極端に低く、左目だけに度が入った眼鏡を愛用している。
ここは、(元廃棄図書置き場の)ミス研の部室。八畳ほどの広さがあるが、大量に置かれた本のせいで、実際よりかなり狭く感じる。部屋の中心には、校内の機材を一新した時に出た、これまた廃棄された教員用の机。
そして、これが一番大切なことだが、わがミステリ研究会は、部室こそあるものの、活動費を学校から一切もらっていない。というか、もらえていない。まぁ、創設してまだ一週間ちょっとしか経っていないし、実績や伝統なんかもないから、当然といえば当然といえるけど。
話が脱線しすぎた。巧が口を開くところから、スタートしよう。
「あ、あの、読んだら出るって……まさかとは思いますけど、この事件を解決する気では、ありませんよね?」
「する気だけど、何か?」
僕は、自信を持って答えた。ちなみに、巧は誰であろうと敬語を使うという、妙な癖を持っている。
「ほ、本気ですか?」
愚問だ。
「僕は、いつだって本気だけど」
この言葉に、僕以外のミス研会員――森崇史が反応する。
「さっきの言葉には、致命的な欠陥が二つある。
1つ目は、僕の知る限り、宮部が何かに本気で取り組んでいるの見たことがない、ということ。
2つ目は、“僕”という一人称。中学までは、そんな一人称使っていなっ――」
崇史は、最後まで言葉を言い切ることができなかった。なぜなら、僕が投げた、「目薬αで殺菌します」という本(ちなみにこれは巧の本)が、的確に崇史の顔面(正確には、口に左側)を捉えたからだ。
え?何故、そんなことする必要があるのかって?……さっきの崇史の言葉を最後まで言わせたら、叙述トリックが成立しなくなるじゃないか。意味わからんって?まぁ、最後まで読めばわかるよ。
「ふぁひふふんふぁ!」
口を押さえているので、聞き取りづらいが、「なにするんだ!」といっているのだろう。
「とにかく!」
僕は、部室にある唯一の机をばんとたたく。――同時に、横にあった本の山が、バサバサ音を立てながら崩れさった。
「この事件を解決して、学校側に実績として認めさせる。そして、活動費をもらう。
活動費をもらうまでのシナリオは、完璧に出来上がった!」
僕は、思わず叫んでしまった。
「少し気になるんですけど……誰が密室の謎を解くのですか?」
また巧が、わかりきったことを訊いてくる。僕は、3つ選択肢を出し、言った。
「三択にしようか。
一、変人の崇史。
二、一般人の僕。
三、天才的な推理力を持っている綾辻巧。
さぁ、どれでしょう?」
「これにも、いくつか間違いがある。
一つ目、僕は凡人であって、変人ではない。
2つ目、宮部は決して一般人では無――」
細かいところをいちいち突っ込んでくる崇史に、僕は再び本を(以下、前出)。
正直、崇史ほどの変人は世界中を探してもいないと思う。
「崇史はほっといて、正解、わかった?」
この問いに、巧は少し考え込んで、
「……一、ですか?」
と言った。
何故、そうなる?
この謎は、今回の密室殺人より、はるかに深い……。
二
巧への三択問題の数分後、僕と崇史は、事件の情報をもっと集めるため、巧に事件現場へ使いに出された。
どうやって、巧に事件に謎を解かせるように言いくるめたかは、長くなるので書かないけど、一歩間違えば恐喝罪に問われる言い方だった、と言うことだけ書いておこう。
それはさておき、僕の役目は、事件現場をしっかり見てくることだ。追い出されそうになったら、これを見せろと言ってなにやら怪しげな(と、言っても普通の)封筒を渡された。何が入っているのかは、何度訊いても「Tres secretです」と言って、教えてくれなかったし、「絶対に中身を見ないで下さい」と、かなり念入りに釘を刺された。
まぁ、巧のことだから、中に入れるようにしてくれたんだろうけど。
事件は、僕の通っている学校――水照学園――から、歩いて5分ほどのところにある家で起きた。その家には現在、KKEP OUTと書かれた黄色いテープがかけられ、二人の刑事が中に入れないように見張っている。
さて、どうしようか……。中に入るには、この封筒を渡さないといけないけど、見張りの刑事にこれを渡しても、突っ返されるのがオチだ。やっぱり、中に入るには警部さんクラスの人に渡さないと……でも、そうするには中に入らないと意味が無い。
非常に難しい問題だ。(強行突破は、さすがに危険いし……)巧に入り方を訊くにしても、今から戻るのは面倒というものだ。電話で巧に訊くと言う選択肢は、巧が携帯を持っていないという時点で消える。
なんか、絶対わかりっこない宿題を出された時みたいな気分になってきた。
――と、そんな気分になりかけた、まさにその時。
一台のパトカーが、僕の近くに止まった。そして中からは、時折“警部”と言う単語が聞こえてくる。
正直、僕はこの時だけは、神の存在を信じようって気になった。普段はそんなもの、絶対に信じない(都合のいいときだけ、信じることにしている。たとえば、受験の時とか)
僕は、中から人が出てくるのを待ち、言った。
「すみません」
この言葉で、やせて若い人がこっちを向く。
「なんですか?」
「この事件を担当している警部さんは、どこにいるんですか?」
パトカーの中にいるのがわかってたんだけど、一応訊いた。
「ああ、もしかして君、水照学園のミステリ研究会の人?綾辻君から、話は聞いているよ」
やせた刑事さんが、驚くべきことを言った。
「巧のこと、知っているんですか?」
「ああ。でも、一般人を現場に入れるわけには、行かないんだ。悪いけど、綾辻君に言っておいてくれないか」
ここだ――僕は、切り札の茶封筒を渡した。
これでもし、効果が無かったら、崇史と一緒に文句を言ってやろう。そう思ったんだけど――
「さっきの言葉を訂正しよう。現場を見てもらってもかまわない」
僕の思いに反し、切り札は効果覿面だった。
この、やせた若い刑事さんの名前は、片山義之輔と言うそうだ。なんか、赤川次郎の小説に出てきそうな名前だなぁ……(ちなみに、三毛猫で無くて黒猫を飼っているそうだ)。
で、いままで全く話には出てこなかったけど、パトカーの中にいた警部は、磯河警部と言うらしい。こんどは、横溝正史か……ああ、オソロシヤオソロシヤ……
まぁ、閑話休題――
僕は、片山刑事に案内され、密室殺人が会った現場に案内された。
「あんまり、部屋のものは触らないでくれよ」
片山刑事のこの言葉に、僕はうなずき、ポケットから(僕が徹夜で本当に苦労して作った)レポートを出す。
(僕が徹夜で本当に苦労して作った)レポートに書かれているものと部屋を比べても、特に矛盾しているところは無い。
ある一点を除いて――
これは、矛盾と言うより、書かれていないこと、と書くほうが正しい。
死体と平行に書かれた、「M」と言う文字-―血で書かれているのか、どす黒い色をしている。
「片山刑事。これは、被害者が書いたもので、間違いないんですか?」
「ああ。指紋も血液も、すべて被害者のものだ。おそらく、死亡する直前にかかれたものだろう」
じゃあ、これはダイイングメッセージってことになるけど……
外部犯でない場合、容疑者は三人。
志熊靖、松室雅哉、芳川誠。この中で、イニシャルにMがつくのは二人いるけど……
「この事件って、内部犯……ですよね」
「それは、まだわからない。もしかしたら、自殺かもしれない。
それに、かんぬきのこともある」
かんぬき?
「かんぬきを見てみなさい」
片山刑事に言われ、僕はかんぬきを見た。
「そのかんぬき、回らないんだよ」
え?
僕は、かんぬきを眼光紙背に徹す、と言うふうに見てみる。――確かに、普通のかんぬきみたいに釘みたいな押さえの部分が無く、すべて金属でできていた。いまは、曲がって上を向いている。
あ、この鍵付け替えられたやつだ。後がしっかり残ってる。
「まったく……こんなややこしい事件、捜査一課じゃなくて特別捜査課に回してほしいもんだよ」
そして、ひとつため息をつく片山刑事。僕は、刑事の本音を聞けて、少しうれしかった。
「さあ、もういいだろう。綾辻君には、宜しく言っておいてくれないか」
そういって僕は、事件現場から追い出され、学校へ帰ることを余儀なくされた。
「Breakthrough――飛躍的進歩――」
「――ってわけなんだけどさ、巧、どう思う?」
「どう思うって言われましても……」
講談社ノベルス「φは壊れたね」をパタンと閉じ、巧が言った。
現場から帰った後、僕は巧にすべてを報告した。回らないかんぬきや、謎の「M」の文字のことを、僕が現場にいかなくてもわかっていたことも含めて、僕なりにわかりやすく説明した。
崇史は、言ってすぐに門前払いをくらって、十五分くらい前に帰ってきたらしい。
「そういえば、巧。あの封筒の中、何入ってたの? あと、片山って刑事の人と、知り合い?」
僕は、事件の次に気になっていたことを訊いた。
冷静になって考えてみれば、不思議な話だ。はじめは、門前払いくらったのに、封筒を見せた途端に現場を見せてくれた。つまり、あの封筒には、警察の人が一瞬で考えを変えるようなことが書いてあったってことだ。それに、それほどのことを、何で巧が知っていたんだろう?
「宮部さんの問いには、答えられません」
そっけない巧の言葉。そして、今度は、「θは遊んでくれたよ」を読み始めた。
僕は、風の速さで巧から「θは遊んでくれたよ」を奪い、再び訊く。
「巧、もう一度訊く。あの封筒には、何が書いてあったの!」
「……」
黙り込む巧。――僕は、全身から殺気をほとばしらせ、待つ。
言い忘れていたが、僕はかなり我流の空手の使い手だ。その気になれば、巧を倒すのも、五分とかからないだろう。
「宮部さんには、負けました」
この言葉は間違っている。私に負けたのではなく、私の出す殺気に負けた、と言うのが正しい。
「二年前にあった、天才詐欺師の逮捕劇を覚えていますか?」
この問いに、僕と崇史がうなずく。
たしか、追い詰められた犯人が消えた、というやつだったと思う。
「その時、犯人がある建物に逃げ込み、そこから消えました。その消失トリックを見破ったのが、僕なんです。だから、警察内ではけっこう顔が利くんですよ」
淡々と話す巧。そこには、自慢などは、一切感じられなく、事実を正確に言っているように思えた。
「それはともかく、巧はこの事件の謎、解けたのか?」
崇史が訊く。
「今回の事件は、ちょっとレベルが高すぎたと思うんだ。これからは、僕が事件を調べる。もうちょっと、手ごろなやつを」
そう言って、じろりと僕をにらむ崇史。僕は、崇史を殴り殺そうとして「大菩薩峠」をつかもうとする右手を、必死でおさえる。(こっちは、徹夜でレポート仕上げたんだぞ!)
「いえ、そこまでレベルは高くないですよ。――もっとも、証拠をつかむ方法が、全くといって良いほど無いですけど」
……僕は、巧の言った言葉を考える。
レベルは高くない……証拠が無い……ってまさか!
「巧……もしかして、密室トリックも、Mも、解けたの?」
「いえ、あくまで証拠の無い空想の産物です。ですから、真相解明は警察に任せておきましょう」
この言葉を言い終わるのと同時に、崇史が机をバン!と叩き、言った。
「巧、その空想の産物を全部話してくれないか」
この言葉に巧は、
「では、ヒントを言いますから、自分で考えてくれませんか」
と言った。
「僕と宮部は、今、巧の空想の産物が訊きたいんだ!自分で謎を解きたいわけじゃない!」
崇史の反論。
すると巧は、いきなり意味不明なことを口にした。
「お二人は、カオス理論をご存知ですか?」
かおす、りろん?なにそれ。
「カオス理論と言うのは、その振る舞いは決定論的法則に従うものの、その過去および未来の振る舞いの予測には、ある時点において無限の精度の情報が必要とされるため、観測による予測が不可能に近いということを意味する理論です」
「はぁ?」
僕と崇史は、かなり怪訝な顔で訊き返した。
「つまり、決定論的システムが作り出す、予想不能の振る舞いを表す理論、ということです」
巧が短く説明してくれるが、それでもわからない。(その前に、この説明でわかる人、高校生で何人いるんだろう?)
「お二人ともわかっていないみたいなので、とっても簡単に言いますけど――」
ありがたい。
「この世の中には、完璧にわかるものは何一つとして無い、ということです」
ああ、そういうこと。なんだよ、巧。最初から、そう言ってくれればわかったのに。
僕は、言う。
「巧が、難しいことを知っているのはわかった。でも、何が言いたいのか、さっぱりわからないんだけど――」
「僕が言いたかったのは、世の中に完璧なものは無いから、僕の妄想があっているわけがありません。故に、そんな不確定のことを聞いても仕方が無い、ということです」
弱気な巧の言葉。
「僕は、普通の高校生です。それも、かなり頭の悪い。そのような、只の馬鹿な高校生の妄想があっているほど、世の中は甘くないでしょう。
よって僕は、そんな空想の産物など、する気はありません。時間の無駄です」
証明終了(Q.E.D.)って感じで背中を向け、「τになるまで待って」のページをめくる巧。(さっきの言葉は、間違いが多すぎるね。国語の先生に提出したら、真っ赤になって返ってきそうだ)
しかし、巧の僕らに対する認識は甘い。僕と崇史が、この程度のごまかしで引き下がるとでも思ったのだろうか?
「巧、じゃあ僕たちは、強硬手段をとる。話すというまで、巧をここに監禁しておくから」
「では僕は、解放するまで話しません」
「じゃあ、解放したら話してくれる?」
「そうとは言っていません」
謎を解いた(正確にはそうでないけど)という切り札を持っている巧は、手ごわい。
仕方ない。
僕と崇史は、互いに目配せした。
こうなったら、プライドなんか捨てる。このまま家に帰ったら、寝るに寝られなくなってしまう。
僕と崇史は、床に手を着き頭を下げ、言う。
「巧、お願い!空想の産物だろうが妄想だろうが、何でも良いからそれをおしえて!」
「そこまですること無いじゃないですか……
わかりました。では、あと一時間だけ待ってください。この本読みきっちゃいますから」
「τになるまで待って」を、見せる巧。
「それまで、自分でも少し考えてみたらどうですか?
犯人を解くヒントは、この「τになるまで待って」。
トリックのキーワードは、付け替えられた鍵と、暑すぎる部屋です。
もっとも、僕の考えが正解、というわけではないので、後で怒らないでくださいね」
そう言って、巧は「τになるまで待って」に目をやった。
「Challenge To Reader――読者への挑戦――」
こんにちは、作者です。
今回は、密室殺人に謎のダイイングメッセセージという事件ですが、綾辻巧君がどうやら解決できそうです。
皆さんに解いて頂くのは、「Mが示すのは誰か」そして「如何にして密室を構成したか」の二つです。解決篇はこの後で。
ヒントは、「τになるまで待って」と、「暑すぎる部屋」「付け替えられた鍵」。
もうお分かりですね?作者でした。
「Solution――問題解決――」
「τになるまで待って」を閉じ、巧の口が開いた。
「さて――」
「まず最初に、密室トリックを推測しておきましょう。
キーワードは、「暑すぎる部屋」「付け替えられた鍵」です。「付け替えられた鍵」からわかるように、これは施錠に関するトリックです。つまり、鍵がかけられたとき、犯人は既に部屋の中にはいなかったんです」
「ちょっとまった」
僕は、巧にストップを入れた。
「レポートに書いてあっただろ。“鍵は中からしか書けることができない”って。あれは、警察の記者会見で言ってたから、間違いないよ」
「ええ。たしかに。
では、言い方を変えましょうか。鍵は、犯人が出た後に自動でかかるのです」
「そんな馬鹿なことがあるか。そんなのがあったら、殺人事件は全部密室殺人になってしまう」
崇史が肩をすくめるが、巧は気にせず続ける。
「ここでキーになるのが、「暑すぎる部屋」です。即ち、犯人は何故、部屋を暑くしたのかを考えるんです。
そうしたら、僕はひとつの推論にたどり着きました。温度と金属――これで、ピンときませんか?」
そう言って、巧は眼鏡をはずす。
そのとき、僕の頭に電流が走った!
「形状記憶合金!」
「正解です。おそらく、あの鍵は、他方向性の形状記憶合金になっていたんです。回らないのも、そのためでしょう。上をむいていたのは、部屋の温度が下がり、形が変わったからでしょうね。」
形状記憶合金は、一定の温度になると記憶された形に戻る性質を持っている。最近では、眼鏡のフレームなんかにも利用されているみたいだ。
「さて、これで密室に穴が開きました。
次は、Mですが……宮部さん、その文字、どういう風に書かれてました?」
「どういう風にって……死体に対して平行に……」
「宮部さんは、死体を横から見たんじゃないですか?」
僕は、こっくりとうなずいた。
もうどけられて、テープになっていたけどね。
「そこで一つ、ミスがあります。その文字、Mじゃないです」
Mじゃないって、ほかにどんな文字がある?
「僕、言いませんでしたっけ?「τになるまで待って」がヒントとだって」
確かに言ったけど、それが何のヒントかさっぱりわからなかった。
「この本には、ギリシャ文字が含まれています。「τ」がそうですね。
実は、Mを横にした文字が、ギリシャ文字にはあるんです」
そういって巧は、Σと書かれた紙を、僕らに見せた。
「これで、シグマと読みます。つまり、このダイイングメッセージが間違っていなかったら、犯人は志熊靖さん。以上が、僕の推論です。警察には、言わないでください」
そう言って、巧は「すべてがFになる」をかばんに入れた。
これが、わがミステリ研究会が関わった、最初の事件。
「おまけ」
さて――
そろそろ、正体を明かそうかな。
私の名前は、宮部七海。そう、男じゃない。
僕、という一人称で騙されてた人が大半だと思うけど、ちょくちょく“私”というのが出てたし、わかった人もいるかもしれない。
こういうのを、叙述トリックって言うんだ。ミステリーでは結構使われてるから、おぼえて置いて損は無いと思うよ。
果たして、あなたは私の仕掛けたトリックに騙されてくれただろうか?
<Q.E.D>
この話は、前の日の晩に突然アイデアが浮かんできて、次の日の朝(即ち今日の朝)に所要2時間ちょっとで奇跡的に完成した話です(ただし、そのほかに誤字脱字のチェックに1時間以上費やしました。その理由は、キャラクターの名前をそっくり変える、という意味不明な事をしたからです)。
構成なんかまったくしなかったので、かなり無茶苦茶な話になっていますが、そこは皆さんの大きな心で見逃していただけると幸いです。
あと、カオス理論のあたりは、かなり適当ですので、そのあたりも見逃してください。あれは、第3章が短すぎたために入れた部分ですので……
三重県にある私立M高校の人は、僕に会うかもしれませんね。その時は、宜しくお願いします。
では、この続きはまたいつか、ということで。
読んで頂き、
Danke schon!