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Neptune~蒼海の守護者~  作者: SYSTEM-R
最終決戦
22/23

最終決戦(中篇その1)

こんにちは、SYSTEM-Rです。今回も、クライマックスとなる戦闘シーンの描写になります。今回は空軍の戦闘も初めて描くことになるので(空戦の描写はかなり不慣れですが…)、これで陸海空および沿岸警備隊の日本国防軍四軍が全て出揃います。敵側となる東亜海軍の指揮官も登場しますよ。それではどうぞ。


※11/5追記

元々本投稿分は「リベンジ(中編その3)」というタイトルでアップロードしていましたが、章立ての都合により「最終決戦(中編その1)」に変更させていただきます。ご理解のほどよろしくお願いいたします。

 「我々もずいぶんと日本には舐められたものだな。まさか、あのようなふざけた編成の艦隊をぶつけてくるとは」

 東亜海軍北海艦隊旗艦を務める、刃海級駆逐艦「南寧(DDG-183)」。満載排水量13200トンの大型艦を率いる艦長の楊本善上校は、CICのモニターに映し出された第2護衛隊群の陣形に目をやりながら吐き捨てた。

 「空母の護衛に練習艦をあてがい、そのうえ輪形陣の先導役を海軍ではなくコーストガードにやらせるだと?あいつらはいったい何を考えている。我ら北海艦隊を舐めているのでもなければ、日本海軍の連中は度重なる戦闘での劣勢で、とうとう頭がおかしくなったとしか思えんな」

 「やめたまえ、楊上校。手負いの虎ほど、戦場で恐ろしいものはないぞ」

 彼にそう釘を刺したのは、北海艦隊司令として南寧に同乗していた曹正国大校(日本人に分かりやすく訳すなら「上級大佐」とするのが適当だろう)。持ち前の冷静さと確かなリーダーシップで、少将への昇任も目前と目される指揮官の1人だ。今回の戦闘を制することができれば、将官の座は間違いなく確実にするだろう。

 「それに、あの船は我が艦隊にとってはXファクターだ。あれをこの期に及んでなおただの巡視船などと侮るなよ、何せ長征2901を正面からの殴り合いの末に葬ったのだからな。わざわざ海軍艦隊に加えたのには、当然奴らなりの意味があるはずだ。決して警戒を怠ってはならん」

 「ハッ、失礼しました」

 軽く頭を下げた楊の姿を横目で見ながら、曹もまたモニターを見上げる。

 「たとえどんな相手であろうと、東亜連邦に牙をむくならば我々のすべきことはただ1つだ。万全なる体制で迎え撃ち、情け容赦なく叩き潰すのみ。…、これ以上我々のメンツを潰すことは許さんぞ、日本人よ」

 その呟きに感化されるかのように、楊が一度深く深呼吸をした。総員に向けて発せられたその威厳のある声が、艦内の雰囲気をより一層ピンと張りつめたものにする。

 「準備進行防空/水戰。嚴格注意各個部位、防空氣和水!!(対空・対水上戦闘用意。各部、対空及び対水上警戒を厳とせよ!!)」


 ところ変わって第2護衛隊群、イージス艦はるな艦内。

 「艦長、VLA攻撃準備いたします」

 「よし、行え」

 日向からの具申に対し、津軽はいつも通り手短にゴーサインを出した。砲雷長の司以下、CIC内の要員が手早く対潜攻撃への準備を進めていく。

 戦闘開始直前での作戦変更は、当然ながら津軽にとっても意表を突くものだ。蒼が伊賀に対して意見具申を始めた時、彼は内心「またあの女が…」と呟いた。両舷からの魚雷同時撃ちなどという発想には呆れるしかなかったし、それを肥後が受け入れたと知った時には流石に一瞬絶句した。恐らくしょうかくやはるなだけではなく、他の海軍艦艇の人間たちも似たような反応だっただろう。自身もまた必要性を痛感してのこととはいえ、日向ともども司に上陸許可を出して、ふそうの艦隊編入を肥後に具申しに向かわせたことを思わず後悔したほどだ。

 だが、だからと言って表立って上官にたてつくような愚は絶対に犯さないのが、津軽武範という軍人でもある。蒼の具申した作戦は国防海軍として想定しているものでも、津軽個人として好む類のものでもないが、それでもそれなりに一定の筋は通っている。そしてどういう事情があれ、肥後はその博打のような作戦に賭けた。ならば、部下である自分がやるべきはその賭けに全力で乗ることしかない。絶対的な階級社会である国防海軍において、それ以外のオプションは存在しないのだ。

 「砲雷長」

 自身の呼びかけに、司が振り向いた。

 「くれぐれも、前方を飛行しているロクマルにだけは絶対に当てるなよ。実戦で味方機を撃墜するなどシャレにならんからな」

 「ハッ」

 司はその言葉に、緊張感をたたえた表情で頷いたのだった。


 「ネプチューン、ホークアイ。短魚雷投下用意よし。いつでも撃てます」

 さらにところ変わって、上空を飛行中のSH-60K機内。コールサイン「ホークアイ(鷹の目)」こと、沿岸警備艦ふそう艦載機の副操縦士兼戦術航空士(通称TACCO、国防海軍では哨戒機など固定翼機にしか搭乗しないが、沿岸警備隊では回転翼機にもTACCOのポジションが設けられている)である山吹翼一等海尉は、エンジンローターの爆音に負けじといつも通り声を張り上げた。機内では副操縦士という位置づけではあるものの、階級でいうと同乗する機長は二等海尉でセンサー担当の航空士は三等海曹。機内では機体操縦のサポートと戦術立案の両方をこなし、母艦に戻れば第5分隊・航空科の分隊長も務める山吹が、この機における最先任だ。加えて艦長である蒼に対するリコメンド権限も持ち、ふそうの戦闘システムの一部たるSH-60Kにおいて、文字通り司令塔と言える存在となっている。

 「ホークアイ、ネプチューン。了解、旗艦からの指示を待て」

 「了解」

 CICで航空管制を司る葛城からの交信に、山吹は頷いた。自分たちの機体は今、ふそうから見て左舷側を飛行している。狙うのは遠征82。反対側にいる遠征83を狙うのは、自分たちと同じ機種ながら海軍所属であるのわきの艦載機だ。全く同じ外観を持ち、尾翼部分の文字だけが「日本国沿岸警備隊」「日本国防海軍」とそれぞれ異なる2機のヘリコプターは、ともに艦隊の最前線を飛行していた。

 ふと、無線を通じて伊賀、次いで葛城の命令が届いた。

 「対潜戦闘、目標遠征82及び83。短魚雷及びVLA、攻撃始め!!」

 「ホークアイ、CIC。短魚雷攻撃始め!!」

 「CIC、ホークアイ。了解」

 山吹は頷くと、後ろに控える航空士の方に振り向いた。

 「短魚雷投下!!」

 「投下!!」

 その声から間を置かず、SH-60Kからふそうが積んでいるのと同じ12式魚雷が、海面めがけて投下される。それと相前後するかのように、後方から発射音が聞こえた。VLSを搭載する海軍艦艇から、対潜魚雷である07式垂直発射魚雷投射ロケット(国産なので厳密には別物だが、海軍ではアメリカ製の類似弾頭と同じくVLAと呼ばれる)が打ち上げられたのだ。白煙を噴きながら、紅白に彩られた弾頭が次々と空に舞い上がり、2機のヘリコプターの横を通過していく。もちろんその中には、はるなから発射されたものもあった。

 「短魚雷よし」

 「了解」

 航空士からの手短な報告に頷くと、山吹は呟いた。

 「さぁ、ショーの始まりよ。よろしく頼みましたよ艦長、水雷長」


 SH-60Kの母艦たるふそうのCICでは、全員が固唾をのんで第1次攻撃の様子を見守っていた。一方で水雷長たる我那覇の指揮の下、第2次攻撃となる両舷同時撃ちの準備もぬかりなく進められている。彼女の目論見通り、この船の対潜情報処理システムは複数目標に対する同時攻撃を可能にする仕様だ。問題は、第1次攻撃を受けて敵側がどう動くかだった。

 「遠征82、座標30度68分28秒ノース、124度46分96秒イースト」

 「遠征83、座標30度98分46秒ノース、124度48分60秒イースト」

 ソナー担当の安河内ともども、2つの目標の動向を監視し続けている2名のレーダー員から、相次いで敵座標の報告が上がる。

 「この距離であれば、向こうも攻撃こそ出来ないが当然探知はしているはずだ。相手は間違いなく一旦は逃げの手を打ってくる。その時にどう動くか、絶対に見逃してはダメだ」

 河内が呟く。

 「レーダー員、ソナー。画面から絶対に目を離さないで。この距離なら、相手は必ず回避行動をとってくるわ。どのタイミングで、どの艦がどっちに舵を切ってくるか確実に見極めなさい」

 沢渡が緊張感を帯びた声で、3人の海曹士に命じた。そうしたやりとりのさなかにも、魚雷はどんどん敵潜水艦へと向かっていく。やがて、安河内が声を上げた。

 「敵艦、2隻とも動きます!!遠征82は面舵10度、遠征83は取舵20度に変針。速力20ノット!!」

 「ダウントリムは!?」

 河内が思わず、どれほどの角度で両艦が潜ろうとしているのか問いただす。

 「ダウントリム15度!!」

 「12式の運動性なら、十分追い切れるはずだが…。仕留められるか…!?」

 河内が再びそう呟いた時、モニターをじっと見ていた蒼が何かに気が付いた。思わず、反射的にその身を乗り出して目前の映像を覗き込む。その口から、予想もしないセリフが漏れた。

 「ちょっと待って…。こっちの魚雷、もしかしてコリジョンコースに入ってない?」

 「えっ!?」

 CICにいた一同が、思わず蒼の方に振り向く。再び視線をモニターに移したその先で、確かに第2護衛隊群が放った魚雷は少しずつ、しかし確実にある一点へと集束を始めていた。やがて、画面上の光点が1つになったのとほぼ同じタイミングで、彼方から爆発音が聞こえた。安河内とレーダー員が声を上げる。

 「水中にて爆発音聴知。キャビテーションノイズ、探知できません!!」

 「敵潜水艦、2隻ともレーダーより反応消失!!」

 「反応消失ですって…!?」

 その報告を受け、蒼は急いで上空のSH-60Kに呼び掛ける。

 「ホークアイ、CIC。攻撃効果の確認を行え」

 「了解」

 応答するや否や、急いで窓から眼下の海面を見下ろす山吹。ちょうど爆発があったあたりのエリアに、注意深く目を凝らす。しかし。

 「CIC、ホークアイ。海面上には油膜や破片等は確認できず。先ほどの攻撃は評価不明、再攻撃の要あり」

 「チッ、デコイをまかれたうえに、爆発の隙に逃げられたってわけね…」

 我那覇が思わず舌打ちする。

 「水温躍層に逃げ込まれれば、どのみちソナーでの探知は技術的に不可能だ。どうしても探そうというなら、他の手を使うしかない。…、難易度は一気に跳ね上がるけどね」

 「他の手…?」

 今回は水上戦を念頭に臨時ミサイル長として乗艦しているものの、長らく第2護衛隊群の一角で対潜戦を担当してきたふぶきの元艦長として、関連する知識や経験値はこの船の中では群を抜く河内。自然と、周囲の視線は彼の方に向いた。その彼が、不意に蒼の方に顔を向ける。

 「艦長。沿岸警備隊の部署の編成については、海軍から来た自分には不祥な部分がありますが、事前のご説明では本艦は防衛や法執行に加え、測量や海洋データの観測も重要な任務の一つとしているというお話でしたね」

 「そのとおりよ」

 「その観測した元データは、通常この船にも保存を?」

 「えぇ。もちろん、複製したデータはうちの科学測量部に送るけれど。それが何か?」

 蒼が聞き返すと、河内は思わぬ意見具申を投げかけてきた。

 「では、この近海の潮流に関する保存済のデータを、今ここでモニターに出していただけませんか。できれば、データリンクで他の対潜戦担当艦艇にも送ってもらえると助かりますが」

 「潮流のデータを…?」

 安河内が聞き返す。

 「機関を全て停止させて、完全にキャビテーションノイズを出さない状態にしたうえで、潮流にうまく乗ることで相手に自分の動きを悟らせぬまま、攻撃位置につける。潜水艦にはそういう操艦テクニックがあるんだ。かなり高度な技だが、この海域は言うなれば東亜の庭のようなもの。新鋭艦である梁級を任されるような優秀な艦長なら、潮の流れもしっかりと把握しているだろうから十分可能だと思う」

 相手が逃げ出す前に潜航していた位置や、回避行動をとった時の方位角やダウントリム、速力は既に分かっている。それとこの海域の潮流データとを突き合わせれば、ある程度どちらの方向に敵艦が潜んでいるのかは、大雑把にでもアタリがつけられるはずだ。そうすれば、第2次攻撃で魚雷を撃つべき方向もおのずと絞れる。

 「戦闘はまだ始まったばかり。潜水艦が2隻とも姿を消し、敵水上部隊にもいまだ目立った動きがないということは、相手は間違いなくここからの反撃を狙っている。どこから相手が狙おうとしているのか、手持ちのカードをうまく使って探る必要があるんじゃないかな。せっかく、この船にデータの蓄積があるのなら」

 河内の言葉に、沿岸警備隊側の一同は思わず顔を見合わせた。相手の出方を的確に読み、目の前にある手札の範囲内でそれに対して、自分たちは何ができるかを即座に弾き出す柔軟性。流石、の一言だった。対潜水艦作戦を何よりも重視し、東アジアにおける仮想敵国の封じ込めを担ってきた、国防海軍でのキャリアは伊達ではない。しかし。

 「ネガティブ。備え付けのデータじゃ使い物にはならないわ」

 予想だにしない蒼の言葉に、他の幹部たちが驚いて顔を見合わせた。それには構わず、蒼は言葉を続ける。

 「この海域の潮流は、ただでさえ複数の海流がぶつかり合っているうえに、その方向も一日や半日周期で変わる複雑怪奇な代物よ。最後にこの近海に測量に来たのは、オリオン事件の1週間前。あの時に収集したデータとは、今この瞬間の状況は全く違うはずよ」

 確かに彼女の言葉通り、ふそうクルーにとってこれはかなりの難題と言っていい。東シナ海の大陸棚部分は、北上する黒潮から分派した流れや東に向かう大陸棚沿岸水に加え、半日や一日周期で変わる海流が極めて複雑にぶつかり合う、極めて難解な海域だ。敵の水上部隊がいつ動き出すともしれない状況で、これを短時間で読み解くのは確かに至難の業と言えた。まして、その情報自体も古いならばなおさらの話だ。

 「ですが、ソナーでの探知ができない以上プランBは必要でしょう。艦隊ごと転舵して敵艦を浅瀬に追い込もうにも、この辺りは海底地形が平坦でそれに適した地点もありません。両舷同時発射なんて荒業を使うには、正確な敵艦の位置を把握することが大前提になる。そのための索敵は欠かすわけにはいかない作業のはずですが、一体どうやって敵潜水艦の位置を探ればいいんです?」

 同じ海軍から来た上官たる河内を差し置いて、長門が思わず反論する。しかし、蒼はそれに対して不敵な笑みを浮かべながら答えた。

 「長門中尉、私は潮流データを活用した索敵そのものに反対と言った覚えはないわよ。でも今のこの戦況では、保存済のデータは活用できないと言ってるの」

 「だったらどうやって…」

 「簡単な話よ。データが古いなら、この場で上書きすればいい」

 「は!?」

 予想の斜め上をつく返答に、長門も周りの面々も絶句した。

 「今のお互いの距離なら、仮に敵潜水艦が巡航15ノットで航行し続けたとしても最低30分はかかるわ。ミサイル長の言うとおり、機関を止めて潮流に乗る作戦を採ってきたなら、それ以上の時間的余裕がある。そのタイムラグを使って測量隊を展開して、リアルタイムに潮流情報を収集すればいい。敵艦の進路予測はそのデータを使って行う、それならミサイル長の提案した意図通りのことができるはずよ」

 「そんな無茶な…。本艦は今、輪形陣の最前線にいるんですよ!?測量隊は本来平時に活動する部門でしょう。敵艦隊の目の前で、非戦闘部隊をわざわざ行動させるおつもりだと仰るのですか!?」

 「えぇ、そうよ。それによって、色々と分かることがあるわ。最新の潮流データはもちろん、それ以外にもこの戦闘を制するうえで必要な沢山の情報がね」

 蒼は真顔でそう言い切った。その表情が、ほんの一瞬だけ緩む。

 「安心しなさい、彼女たちには既に戦闘海域での活動実績があるわ。測量隊もうちの第6分隊の一員。訓練は十二分に積んでいるし、あなたたちが想像するよりは遥かに勇敢よ。危険を顧みず、あなたやその仲間たちを自ら救出しに赴く程度にはね」

 蒼の言葉に、なおも食い下がっていた長門もとうとう黙りこくるしかなかった。反論する者がいなくなったCICに、再び威厳を取り戻した蒼の声だけが響き渡る。その声色には、最先任指揮官としての固い覚悟が滲んでいた。

 「これは、東亜のこれ以上の暴走を止めるための戦いよ。その目的を果たすためには、この第2護衛隊群全ての艦艇が総力を発揮しなきゃいけない。平時の活動がメインの部隊だからと言って、戦力を出し惜しみする余裕なんてふそうにはないの。この決断の全責任は、艦長である私がとります。グズグズしている時間はないわ、今はそれぞれがやるべき仕事をやるだけよ」


 「艦隊司令、艦長。先頭の巡視船より、短艇計4艘が発艦しました」

 レーダー担当からの思わぬ報告に、南寧のCICにいた曹と楊は思わず振り向いた。

 「映像をモニターに出せ」

 「ハッ。第2メインモニター、映像出ます」

 命令に沿って、すぐにレーダー上の映像がモニターに映し出される。確かに言葉通り、ふそうから4隻の短艇が発艦し、それぞれ四方八方に散っていく。

 「あいつら、海中に何か投げ込んでるぞ。なんだあれは」

 「まさかアレ、機雷か…!?」

 その映像を目にしたCICの乗員たちがどよめく。だが、曹は表情を少しも変えないまま、冷静な声でそれをすぐさま否定した。

 「いや、その可能性は極めて低いだろう。いくら海軍と行動を共にするような船とはいえ、コーストガードの巡視船に機雷を安全に搭載しておけるようなスペースがあるとは考えにくい。第一、奴らが本気で機雷戦を仕掛けてくる気なら、そもそも空母艦隊など送り込んではこないはずだ」

 「いずれにせよ、あれが何かしらの意図をもっての行動に出ているなら、力で排除すべきなのではありませんか。遠征82と83にも悪影響が及ぶのでは…」

 「敵の動向には引き続き警戒すべきだが、それには及ばん。この距離かつあのサイズの短艇相手では、どうせミサイルで狙ったとてまともには当たらんからな。貴重な弾薬をわざわざ無駄にする必要はない」

 意見具申してきた部下の1人に対して、曹はやや面倒くさそうに答えた。だが、その声色は一瞬にして戦闘モードに変わる。彼の目は、別のモニターに映るもう1つの映像―自艦隊に接近するエスペランサ隊を示す、5つの光点―を捉えていた。

 「我々が注力すべきは、こちらの客人への対応だ。…、来るぞ」


 「エスペランサ1より全機へ。間もなく敵艦隊上空に突入する。各機、なるべく敵艦隊から距離を取れ。高度11000フィート、進路0-3-0。Turn heading, now(転回せよ)!!」

 「Copy(了解)!!」

 高橋の指示が、エスペランサ隊の僚機へと下される。エスペランサ隊の5機もまた、レーダー上に敵艦隊の姿を当然捉えていた。今回、彼らが搭載しているのはJSM(Joint Strike Missile)と呼ばれる、F-35シリーズでの使用を前提に開発されたノルウェー生まれの最新鋭ミサイルだ。対艦・対地・巡航と幅広い用途に用いることができ、今回の任務にはうってつけの弾頭とも言える。だが、どちらにも使えるとはいえ「本丸」はあくまでもミサイル発射基地に対する対地攻撃だ。搭載数に限りのある弾頭を、対艦攻撃で使い果たすような展開は何としても避けねばならない。

 だが、残念ながら事はそう上手く運ばないのが戦場という場所である。突然、各機のコックピット内にロックオンされたことを示すアラームが鳴り響く。高橋の耳に、僚機から悪いニュースが届いた。

 「エスペランサ3より1へ。敵艦隊、ミサイル発射した模様!!10時の方向より10発!!」

 その言葉通り、バイザー上にはこちらへ向かってくるミサイルの姿が映し出されていた。急いで対処行動をとらなければ危ない。高橋は一度小さく舌打ちすると、急ぎ僚機に命令を下した。

 「エスペランサ1より全機へ。武器使用許可、Weapons free!!各自、目標の艦を決めて反撃せよ。発射即、敵ミサイル回避!!」

 その言葉を口にする間にも、敵ミサイルは自機を目がけてぐんぐん上昇してくる。飛んでくるのは、東亜の前身たる中華人民共和国時代に開発されたアクティブレーダー誘導の艦対空ミサイル、海紅旗9Aだ。だがその前に、高橋機は敵旗艦の南寧を照準で捉えた。コンソールの発射ボタンに指が伸びる。

 "Target lock. Esperanza 1, Dog 2. Fire!!"

 その言葉とともに、F-35Cから1発目のJSMが放たれる。それが眼下に向け消え去っていくのとほぼ同時に、情け容赦なく襲い掛かってくる敵ミサイルの姿が目に入った。このミサイルの誘導方式であれば、回避するためにこちらが打つ手は自明である。

 「チャフ、発射!!」

 アフターバーナーが描き出す真っすぐな軌跡に沿って、欺瞞のために搭載された銀色の「紙吹雪」が空に舞う。海上から自機を追撃してきた2発のミサイルは、高橋の狙い通りその金属片に巻き込まれて、機体の遥か後方で爆発した。高橋の目が、再びバイザーの情報画面に向く。どうやら、僚機は全て最初の攻撃を躱すことに成功したようだ。一瞬、安どのため息が漏れる。…、ところが。

 「嘘だろ、こっちのミサイルも全弾迎撃されただと!?」

 あまりにも予想外の展開に、高橋の目は大きく見開かれた。エスペランサ隊が放った5発の空対艦ミサイルもまた、なんと敵艦隊に全て撃ち落とされてしまったのだ。飛行速度が速く、どこから飛んでくるかも掴みづらい空対艦ミサイルは、水上艦艇にとっては本来迎撃が非常にしづらい目標の1つだ。それこそ、はるなやひえいのようなイージス艦なら問題なく対応し得るが、前身の中国時代からアメリカと対立する陣営に属していた東亜海軍には、そもそも本来の意味での「イージス艦」は1隻も存在しない。それでいて、こちらの攻撃を全てしのぎ切ったのであれば、艦隊防空能力という意味では第2護衛隊群にも引けを取らないレベルということになる。

 しかも、彼我のミサイル搭載数を考えればこちらは圧倒的不利だ。こちらは1機あたりのミサイル残数は残り3発。対地攻撃用に1発、帰還時の予備用として1発を残しておくなら、フリーハンドで打てるのは実質残り1発だけだ。対して、刃海級駆逐艦のVLSは単艦にして、前後合わせて112セルもある。艦隊全体で数えれば、その数は数百セルにも達するだろう。対空ミサイルによる飽和攻撃で来られた場合、全ては防ぎきれないかもしれない。高橋の額を、冷や汗が伝った。

 「CDC、エスペランサ1。こちらの初弾が全弾迎撃されました。このまま第2弾が来れば、エスペランサ隊単独では凌ぎきれない可能性があります。至急、はるな・ひえいによる敵艦隊への攻撃を要請します」

 その要請は、疑いようもないほど切羽詰まったものだった。もちろん、このオペレーション・イーグルの立案された趣旨からしても極めて真っ当なものでもある。ところが。

 「エスペランサ1、CDC。ネガティブ。本艦隊では、ソナーで反応が消失した敵潜水艦の所在を探知できていない。現在対潜戦部隊が捜索を始めているが、今のところ発見の見通しは立たん。相手がどこにいるか分からんうちに下手に動けば、それと気づかないうちに敵射程内に入り、攻撃される危険がある」

 「その潜水艦を見つけられるまで、どれくらい待てばいいんです?」

 「恐らく、少なくとも30分はかかる。場合によってはそれ以上の可能性も」

 「30分!?冗談じゃない、そんなに待たされてたら発見前にこっちは燃料切れになります!!ならば、何かしら代替策を…!!」

 「艦隊の動きが封じられている以上、こちらから打てる手は限られている。少なくとも、潜水艦を再度発見し撃沈するまでは、艦隊を動かしての支援攻撃は難しい」

 そう応じる伊賀の声にも、悔しさが滲んでいた。東亜にしてやられた、それが海軍と空軍の双方に共通する思いだった。結果的に見れば、当時はまだ敵艦隊の陣容を把握する前だったとはいえ、エスペランサ隊の発艦タイミングは早すぎたのだ。無音航行可能な通常動力型潜水艦2隻で第2護衛隊群の動きをけん制し封じることで、艦隊と発艦済の航空隊を分断。そうして支援が受けられず単独行動を余儀なくされたエスペランサ隊を、艦対空ミサイルで集中攻撃する。それこそが、東亜海軍側の意図だったのだ。

 対潜と対水上の二正面は避けたいというのが日本側の考えだったのに、結果的には強制的にその展開に持ち込まれた。こうなった以上、こちらはうまく頭を使ってそれを乗り越えるしかない。肥後は2人の会話を耳にしながら握りこぶしに力を込めると、覚悟を決めて伊賀に命令を下した。

 「艦長、第2飛行隊・アサシン隊に発艦準備を命じろ。同時にはるな・ひえい・はつづきには対空戦闘用意を下令。エスペランサ隊の護衛にあたらせろ」

 「ハッ」

 「対艦ミサイルを撃てずとも、味方航空機を狙うミサイルをSM-2で叩き落すことはできる。航空団が危険な状況なら、それを守りきるのが艦隊の役目だ。…、分断などさせてたまるか」

【悲報】両舷同時発射シーン、描けず。


頭の中でストーリー展開を描いている時は、自分の場合はアニメを見てる感じで(実写映像の場合もある)脳内再生されるので、いろんなシーンを1話の中に詰め込めそうな気がしてしまうんですが、実際に文章化するとすごく長くなりがちなんですよね。まさかラストシーンのためにもう1話追加する羽目になるとは思いませんでした。


一応、次回が本当にこの戦闘のラスト部分になる予定でいますので、最後までどうぞよろしくお願いします(なるべくテンポよく、ポンポン更新できるよう頑張ります)。それではまたお会いしましょう。


※3/22追記

投稿後ではあるものの結末部分がどうしても納得いかなかったため、加筆修正しました。

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