爆裂勇者パンジャン
ある日、目が醒めるとそこは異世界だった。
そしてそこは異世界にあるとある王国であり、現在その国は絶賛魔王の脅威にさらされていた。
「というわけで、魔王【ヒット=ラー】が目覚めてしまい、世界の危機なのだ。
と言うわけで勇者よ、この世界を救うために力を貸してくれ」
「もっとその名前や言い方、どうにかならなかったん?」
ラーと付けば太陽神、そう思っていた時期が私にもありました。
色々と言いたいことはあるが、それでも向こうが地球への帰還権を握っている時点でこちらに選択肢などあって無いようなもの。
かくして自分は実にベタな感じで異世界で勇者として魔王退治をすることになったのであった。
「今からお主にはこの神器を握ってもらう。
お主が真の勇者ならばこの神器はお主にふさわしい形となり、その身と世界を守ってくれるだろう」
そうして、ベタなことに自分は勇者パワーの源である【神器】と言う名の能力ガチャをひかされることとなった。
王様と大臣などが見守る中、ゆっくりと自分がその神器の柄を握るとそれは見る見るうちにその形を変化する。
――そう、それはあまりにも神器と言うには巨大過ぎた。
大きく、丸く、重く…………
「と言うか、これ【パンジャンドラム】じゃねぇか……」
なぜかそこにあったのは、英国が誇る珍兵器、単輪型陸上機雷こと【パンジャンドラム】に変化してしまった神器?であった。
「おお!その神器はパンジャンドラムと言うのか!
真の勇者ならば持つだけでその神器の名前と用途がわかると思うが……まさか本当だとは!!」
やめて下さい。
そんな期待に満ちた目でこちらを見るのはやめて下さい。
これ、そんないいものじゃ無いんですから。
ほら、大臣がすごく微妙な顔でこっち向いてるじゃん。
プラモにハマる旦那さんを見る奥さんみたいな目になってるよ。
「ご、ご報告します!!
じょ、城内に魔王十二天王【ティイーガ】が現れました!!
どうやらまだ呼び立ての勇者を狙って行動を起こした模様!!
現在は王座にて姫と王妃を人質に、勇者の出頭を要求しております!!」
「ぬうう!!まさか魔王め!!まさかここまで素早く行動に移るとは!!許せん!!
しかし!この勇者様は過去最大級の刀身を持つ真の神器の勇者!!コッパの魔王兵ごときにやられんわ!」
そういうお約束いらないから。
というか、12人も幹部級がいるのは多すぎるのではないか?
いや、このパンジャンドラムこそ神器としてどうなんだと言われたら返しようがないのだが。
「さあ!勇者よ!!早速、その聖剣【パンジャンドラム】の力を持ってして、件の魔王十二天王とやらを蹴散らして下さい!!」
戦闘素人を突然敵対者の前に出すのは常識的に考えて、おかしいと思います。
せめて、罠のある場所におびき出すとかの策ぐらい用意するのが普通の流れではなかろうか?
「何を臆病な!!
そのような巨大で立派な聖剣を持っているのですから、魔物など恐るるに足らず!!
さあ!皆の者!!勇者を運ぶのです」
かくして、無数の兵士や貴族たちに神輿のように担がれてしまい、抵抗虚しく初戦から魔王十二天王とかいう大物と戦う羽目になりましたとさ。
なんというクソゲー。
▼結果・意外と何とかなった
具体的にはそのパンジャンドラムの爆発力と推進力のおかげでなんとかなった。
一度着火させれば丸で地獄車のように素早く転がり、その爆発は隕石の如し。
爆発力とスピードがここまで強化されているのは異世界補正だろうからか?
それほどの大爆発なのに、この【聖なるパンジャンドラム】の凄いところは【魔物以外の生き物を傷つけない】という性質を持っているのがさらに驚きだ。
お陰で、容赦なく人質ごとパンコロしたが、ちゃんと姫と王妃含む人質は全員無事。
運悪く、魔王十二天王自体には逃げられてしまったが、それでも撃退自体はきっちり成功させることができた。
初戦だということを考えれば上々の戦果ではなかろうか?
「……でも、代わりに我らの城まで跡形も無く吹き飛びましたけどね!!」
そりゃまあパンジャンドラムですし、おすし。
「ついでに、直接人は怪我させませんが、爆風やらの瓦礫で被害者はかなり出ていますからね!
……一人でも死者が出てたら、縛り首にしてやったのに……」
どうやら国の経営を担う大臣様には今回の救出劇は非常に気に食わなかったようだ。
殺意のこもった視線が非常に痛い。
「と言うわけで、すまん勇者よ……。
本当なら我が国軍総出で勇者をサポートして魔王退治をしたかったのだが……今回の襲撃のせいで、軍部が建物ごと吹き飛んでしまった。
幸いにも死者は出てないが、それでも立て直しにはかなりの時間がかかる。
本当に申し訳ないが魔王退治には先に出発しておいてくれ」
王様がすまなそうな顔で頭を下げてそう謝ってくる。
逆にこっちはこっちで腰が低すぎる気がする。
大丈夫?パンジャンいる?
「さらに言うと軍資金も、国庫ごと吹き飛ばされたので現地調達でお願いします。
……そんな眼をされてもないものはないです。
というか、今日から私達すら勇者様のせいで宿無しの一文無しなのです、それぐらい自分でなんとかしなさい」
かくして、冷たた過ぎる大臣の視線と低すぎる王様の土下座を尻目に、追放勇者のよろしく、最低限の金品と変形無限移動型地上機雷聖剣【パンジャンドラム】だけ待たされて単身魔王討伐の旅へと送られてしまったのでした。
――しかし、捨てる神があれば拾う神あり。
「だ、大丈夫ですか勇者様!!今助けます!!」
旅出してから数日、
空腹と遭難で死にかけている時に彼女は現れた。
「あ、あの!実は私、あの時人質に取られていたもので……え、えっとせっかく助けてもらったのにまだお礼を言えてませんでしたので、追いかけに来ました!!」
どうやら彼女はあの王様の娘、つまりは姫様だということだ。
しかもここに来たのは救ってもらったお礼をしないからだという純粋な道徳心からだとのこと。
なんという善人であろうか。
「えっ、えっとその勇者様さえよろしければですけれど……。
私も魔王退治の旅に連れて行って下さい!!」
しかもどうやら彼女は自分の魔王討伐の旅についてきたいそうだ。
色々と都合が良すぎる気がしなくも無いがそれでも魔王退治を孤独で一人旅するよりは、仲間がいた方が断然いい。
ましてやそれが可愛い女の子ならば、歓迎しないわけがない。
「もちろん構わない!一緒に世界を守ろうではないか!
というわけで、名前を教えてくれるかな?」
かくして俺は強く彼女の手を握ったのであった。
温かい歓迎の気持ちと、ほんの少しの下心をもって。
「はい!私の名前は【ネビル・シュート】と言います!
これからよろしくお願いしますね!勇者様!」
「やっぱり、やめた。
今すぐお家へ帰れ」
なお、0.2秒後にはすぐにその手を離した模様。
しかし、結局道案内や常識係が必要な事実は変わりはない。
かくして自分は結局このネビル・シュート(※女性)と共に異世界を旅することとなったのであった。
ふぁっく、ふぁっく。
さて、そんなこんなでネビル王女の導きをうけ、その結果、いきなり魔王城へと突撃するのではなく、地方の魔王軍から順々に殲滅し、力や軍資金を蓄えてから魔王城へと突撃することとなった。
――西に魔王軍の城塞があると聞きたければ、走って駆けつけ。
「ゆ、勇者様に姫さま!
すいません、せっかく守れと言われていた砦なのに、みすみす乗っ取られてしまって……」
「そうですか!それじゃあ、砦ごと爆発しますか!
頼みましたよ勇者様!」
「え」
――東に恐るべき魔王の幹部がいると聞けば、馬に跨り。
「その、じ、実は我らの中に一人だけ変身に長けた魔王軍の密偵が混じっているようで……
そのせいで敵に我らの作戦が筒抜けなのです!」
「ならば、この町の人全員聖なるパンジャンで爆殺させてみましょう!
その中で、本当に爆死したものだけが魔王軍です!」
「え」
――南に大軍が現れたと聞けば、パンジャンカーを運転し。
「ひらけた土地での戦闘なんてまさに勇者様とパンジャンドラムのためにあると言っても過言ではありませんね!
穀倉地帯?他国勇者の援軍?そんな関係ありません!それじゃあ行きましょう!勇者様!」
「えぇ…」
――北の山に危機が迫ると聞けば、パンジャンドラムフライトで飛んで行った。
「雪崩が怖くて、世界を救えますか!ね、勇者様!
むしろ、雪山ごと吹き飛ばす気概で行きましょう!」
「えぇぇ……」
かくして俺は彼女とともに世界中を回ることで、多くの人々を救い、悪をくじき、結果として【勇者】としての名声を確固たるものにしたのであった。
「ひぃぃぃぃ!!パンジャンの、【爆殺】の勇者がやってくるぞぉォぉ!!!
命以外すべてがとられるぞ!!早く、早く勇者がこの町に到着する前に魔物を一匹残らず殲滅するんだ!!」
「ま、魔王軍ならば、勇者様が此方に来るという報告だけで撤退を開始しました!
それゆえにこの地域はもう大丈夫です!
ですので、ですので!!何卒、何卒、パンジャンドラムだけは、パンジャンドラムだけはぁぁ!!」
「静まりたまえ!静まりたまえぇ……!」
もっとも、それ以上に悪名が広がってるという事実に、涙が出てくる。
どうしてこうなった……。
「ふふふ!流石勇者様!名前だけで民も魔物も平伏するとはさすがです!
此れは勇者様の活躍とその武勇を私の方できっちり【小説】と【唄】にして、行く先々で発表および販売していた甲斐もありましたね!
話の都合上、少しだけ盛ったりはしてますが大体は事実ですので、ご安心ください!」
その悪評の原因はすぐ横にいた模様。
「え?でもこの小説と唄の売り上げが軍事金であり、この魔王討伐での軍資金の大本ですよ?
ですので、これを辞めちゃうとまた一日1食生活に逆戻りしてしまいますが、それでもよろしいですか?」
かくして、自分は勇者としての正義感と道徳のため、名前だけで魔王軍を追い払えるならばと、悪評もそのままにしておいた。
……おのれ許すまじ、魔王軍!!
一般人からの献上品である紅茶を飲み、魔王軍から奪った小麦で作ったスコーン片手にそう固く決意を固めるのであった。
その後も他国の勇者と出会ったり、封印の聖女とやらと出会ったり。
ハーフ魔族と出会ったり、悩める軍人に出会ったりもした。
「いや、でも流石に【爆発炎上】の勇者と一緒というのは……」
「さすが!【パンジャン】の勇者様!すごい爆発ですね!
え?パーティ?ははは、流石にまともに制御できない爆弾と一緒……げふん、私では【煉獄】の勇者様と組むには荷が重すぎますので」
「ふふふ!流石皆様わかってますね!
我が国、いえ、私の勇者様は最強にして最善ですもの!
有象無象の勇者とは一味も二味も違うのですよ!」
嫌味を無視して横でどや顔をするネビル姫に思わず、思わず目頭が熱くなる。
まあそれでも結局はやること変わらないし、パーティメンバーも【俺】と【ネビル・シュート】固定パーティのままで続けるのであった。
そうしてそのようにある種孤高で孤独の2人旅を続けたからであろう。
突然、人類対魔王連合軍なる団体から、このような提案がなされたのであった。
「……【剛勇突破作戦】?」
「はい、【爆殺上等】の勇者様のせい……いや、おかげで各国もようやくマウント取り合い合戦をやめ、本格的に【魔王退治】のために早急に協力し合う流れになりました。
そうして、その作戦の第一段階として、勇者様にはこの【剛勇突破作戦】に参加してほしいのです」
【剛勇突破作戦】。
それは、一言で言えば【魔王城】への本格強襲作戦であった。
話によれば魔王のいる魔王城は、海の向こうの【ドイッチラン島】にあり、そこから日夜無数の魔物を派遣して此方の人間領を侵略しているらしい。
で、今回行う【剛勇突破作戦】はこの【ドイッチラン島】の沿岸に存在する魔王軍の結界を自分の【聖なるパンジャンドラム】で吹き飛ばしてほしいとのことであった。
「この【パ=ド=カレー沿岸】にある魔コンクリート結界さえなくなれば、我々は一気に有利になります。
そこから他国の勇者と連合軍で侵略、それがこの作戦の概要です」
「……つまり、勇者様が成功するかどうかで、人類の未来が決定する……。
そういうことですか」
「そういうことです」
「えぇぇ……」
【パンジャンドラム】に人類すべての将来を束ねるとか、この異世界ロック過ぎない?
が、残念ながら相変わらず自分には拒否権はないわけで、そもそもここまで関わったら自分も最早逃げるつもりは毛頭無い。
かくして自分は初めていくらかの軍隊と戦艦を引き連れて魔王のいる【ドイッチラン島】へ進軍、魔王軍への最後の戦いを挑みに行くのであった。
「……いよいよ明日ですね、勇者様」
「……ああ、そうだな」
さて、船に揺られながら本格決戦最後の日、自分はネビルと話し合った。
「姫さ「ネ・ビ・ル!!」……ネビル姫はなんでわざわざここまでついてきたんだ?
別に恩返しやら世界復興のためなら、わざわざ今回の作戦にまでついてくる必要まではなかっただろ」
「……それを言ったら勇者様だって、別にやろうと思えばこの世界で一人で生きていきますよね?
わざわざ魔王に喧嘩売るなんて真似、なんでするんですか?」
「……言わせたいのか?」
「もちろんです」
かくして自分は彼女の耳元にそっと口を持っていき、ひっそりとそれに対する回答を答える。
その答えを聞いた彼女は少し驚いた顔をした後、頬を御赤らめ、また彼女も返答してくれた。
こうして自分と彼女の影が重なり、一夜を過ごす。
……これがまさか、自分と彼女、魔王討伐の旅、最後の交流になるなんて知らずに……
そうして、運命の翌日
「というわけで、魔王【ヒットラー】は無事に討伐されました!
お疲れさまでした!」
「ちょっとまてや」
自分たちが【ドイッチラン島】に着陸すると同時に魔王が討伐完了の報告がなされることとなった。
なんでや!!!
「いや、冷静に考えていくら勇者様の神器とはいえ、【パンジャンドラム】に連合軍及び人類すべての未来を賭けるとかありえませんよ。
ですので、我々連合軍は【剛勇突破作戦】という名の欺瞞作戦展開し、無事、魔王軍の大半を【カレー沿】におびき出すことに成功しました。
おかげで、その間に【ノルマンディー】から本命の連合軍と他国の勇者達を上陸させ、速やかに【ドイッチラン島】の制圧及び奇襲も成功。
おかげで、無事に【煉獄生成】の勇者様が到着する前に魔王討伐する事できました」
勇者を囮に魔王退治とか、勇者の意味とは。
色々と思うところがないわけでもないが、それでも魔王は討伐され、世界に平和が訪れたのであった。
なればこそ、一人の勇者としてこの状況にはよかったね、それだけを言っておこうと思う。
「というわけで、元の世界に返してくれ」
「だめです」
老兵は死なず、ただ消えるのみ。
なんてしようと思ったがそれはネビル・シュートによって止められてしまった。
なぜじゃ。
「ははは、冗談はよしてください。
勇者の力は魔王討伐後も消えないんですから、これからはその力を魔王討伐ではなく、復興のために生かしてください。
というわけで、まずは復興の第一歩として魔王軍の残党討伐その後は鉱山開発、するこちはいっぱいありますよ!
それじゃぁ、行きましょう、私の勇者様!」
「いやいやいやいや、悪評たっぷりのこの世界に残り続けるとかどんな罰ゲームだよ。
それに、文明の利器のない生活はもう嫌なんだが。
具体的にはテレビやら洗濯機やら水洗トイレのある生活に戻して下さい」
「世界に何と言われようと、私は勇者様をちゃんと評価してますし、文明がないというのなら一緒に文明を作りましょう!それでいいじゃないですか!
……それに、これは言いたくありませんでしたけど、夜の寝床での口約束とはいえ、責任は取ると言ってくださったのはどこの誰ですか。
色々と諦めてください」
かくして自分は、ネビルシュートとパンジャンに騙されたせいで、この後この世界で【爆炎の勇者】兼【島国の初代皇帝】としていろんな意味で名を残すこととなったのであったとさ。
めでたくなし、めでたくなし。
「とりあえず、お腹にいる子の名前を決めちゃいましょうか。
男の子なら【ハボクック】女の子なら【フェアリー・ガネット】なんて如何でしょうか?」
「ちっと待て」
☆おまけ☆
主人公……マーマイトが好きなだけの一般人
マーマイトが好きなだけで、パンジャンドラムと英国の罪を背負わされた可哀想な人
ネビル・シュート……異世界王国の第3王女
姫でもあるが同時に軍人、「魔王軍なんて、私のコカトリスでちょちょいのちょい」とか言ってるときに、魔王幹部にぼっこにされて、死を覚悟しているときに、パンジャンされた。
パンジャン=神=勇者 でひとめぼれ……ではなく、実は初めは「パンジャンの爆破で裸を見られたから責任を取ってもらう!!!」のつもりだったけど、旅を続けるうちにガチぼれした
なお、それ以外の情報は大体本文通り。
やべー人
魔王……ヒトラーはフリー素材ではない
繰り返す、ヒトラーはフリー素材ではない
ちょっと絵が売れなくて独裁者でユダヤ人を大量虐殺しただけで、フリー素材に扱いされるのはどうなのか
いや、残当か