彼女ができましたの会
お母さん。私はこの世界に来て2週間くらいが経ちました。未だに理解できない言葉と格闘しながら日々を過ごしています。最近はバレないようにですが、幼児用の絵本をずっと読んでいます。
少しずつ理解出来るようになりました。
それと、体重が2kgくらい減りました。この世界に体重計がないので、わかりませんがそれくらい痩せました。運動した後疲れすぎてご飯を抜いていたらこうなりましたよ!すぐにリバウンドしそうです。
心の手紙はお母さんに届いたかな。
この世界の絵本は、歴史の神話をまとめたものが多くて、勉強にもなる。言葉も勉強できて一石二鳥だね。
「アルト様?体調が優れませんか?」
メリーヌの声がした。
そういや今、朝食を食べていたところだった。
「いや、大丈夫」
「よかったです。手が止まっていたので。そういえば、リース先生がアルト様の剣術の技を大変褒めていましたよ。
"斬・伝説の剣"でしたっけ」
うぉぉぉぉぉぉぉ、やめてくれ。その中二病全開の技名を言うのは。
この前編み出した、エクストラ・クリスタルソードに続きこの技も大変好評だった。練習中は先生の声援と、集中力があり、恥ずかしさもない。だけどクールダウンした時に言われると途端にダメになる。
「せ、先生が褒めてくれて、嬉しいな」
「今年の大会に向けて本格的に練習を始めてあまり日も経ってないですが、優勝間違いとおっしゃっていましたよ」
「いやいや、それは先生が大袈裟なだけ。実際はまだまだだから」
最近、メリーヌとの距離が縮まった気がして嬉しい。こうやって話しかけてくれる回数も増えてきたしね。
そして剣術という競技、血を流して戦うものではなかった。なんか、技を見せて得点をつけるらしい。絵本に書いてたよ。死ぬとかの話じゃなくて良かった、とその時心から思った。
ただ、順番が最後というのだけが非常に心配。
「ごちそうさまでした。よし、今日も剣術の練習頑張ります!」
「ふふ、はい。準備いたします」
ーーーーーーー
「明日の剣術の練習ですが、どうしても私の都合が合わないのでお休みです。明日は学校も休みでしょうし、一息入れてください」
「はい、しっかり復習しておきます!」
リース先生との練習が終わった。そして明日はなんとお休みである。
剣術の練習は学校休みの日はほぼ毎日、学校がある日も放課後に練習をしたりする。基礎代謝量は増えるし、ダイエット中のこの体にはぴったりである。
午後部屋に戻り、メリーヌが淹れてくれた紅茶で一服。
「うーん、明日一日何しよう………」
「久々に街に出てみるのはどうですか?」
「街!?」
たしかに、今まで学校に行く以外この屋敷から出てない!
街といえば、オシャレなお店があったりするのかな〜。洋服店で「ここからここまで全部ください」とか言ってみたい。
「街って、あれ?お忍び的な?」
「そうですね、アルト様が堂々と街へ出ると少し混乱しそうですし」
命狙われたりするやつかな?あー、貴族って恐ろしや。くわばら、くわばら。
「よし、メリーヌ!明日は二人でデートしよう」
「え?アルト様とですか?恐れ多いです」
メリーヌの可愛さと、少しぽっちゃりおぼっちゃまじゃあ到底容姿じゃ釣り合わない。なんか、少し申し訳なくなってくる。
でも、アルト顔のパーツは素晴らしいから、服さえ選べばイケメンに見えるはず。
「明日は二人とも市民だから、メリーヌが気にするような身分差なんてないから」
「う、う〜ん………そうですかね」
「大丈夫。細かいことは気にすんな」
それ、ワカチコ、ワカチコー。
じゃなかった。とりあえず明日、美女とのデートを取り付けた!よくやった私!
ーーーーーーー
休日の街には人が溢れかえっている。
あっ、あのケーキ屋さんおっしゃれ〜!
「メリーヌ、少し早いけどおやつにしよう」
「アルトさ…ん、まだ10時ですよ」
「おやつは10時と3時に、だよ!」
街に来ている間だけ、"アルト様"から"アルトさん"と呼び名を変えてもらっている。まだ慣れないみたいだけど。
敬語はどうしても外してくれなかった。
「ほら、あのケーキ美味しそう」
「確かにそうですね。クリームがたっぷりのっていて」
「メリーヌも賛成って事で、食べるの決定!」
店に入ると、若そうなお姉さんが席へ案内してくれた。店内は思ったより席が埋まっていた。みんなも10時のおやつ必要だよね。
窓際の二人席へ座る。もちろん、レディーファーストを意識して行動する。紳士的な男性って、いいじゃない。
メニューをメリーヌに向けて、二人で見る。
「何が食べたい?」
「どうしましょう」
こう、まるでメリーヌがケーキを食べたいと言い出したような聞き方になった。でもなんか格好つけたくなるじゃん。
ケーキ男子女々しいかな、って思っちゃう。偏見ダメダメ。
「俺は、クリームチーズケーキか季節のフルーツタルトで迷ってる」
「どちらもいいですね。私はフルーツタルトにします」
どうしよう。今のアルトのお財布は十分すぎるほどお金がある。でもカロリー気にしてしまう。
「良ければ私の少し食べますか?その、アルトさんが気にしなければですけど」
「じゃあ、お言葉に甘えて。メリーヌにも俺のチーズケーキあげる」
「ありがとうございます」
うふふ。いやー、超楽しいよ。可愛い女の子と二人でデザート。しかもちょっと頂戴的なノリ!
側から見たらただのバカップルだけどね。
注文して程なく、ケーキがやってきた。
「まあ、美味しそうですね。キラキラしてます」
「みんなにお土産として買って帰ろうか」
荷物になるし、帰りに寄って。食べ終わったら先に注文して、帰りに取りにくるか。
フォークで切りながら考える。
うーん、久々のケーキ!美味しい。
「メリーヌのフルーツタルト美味しい?」
「はい、とっても」
「一口頂戴」
「どうぞ」
と言って、ケーキを差し出してくれる。タルトも魅力的だな。フルーツタルトだから、フルーツあってのケーキなんだけど。なんとなくフルーツとるのが申し訳なく感じる。
と、思いつつも小さなフルーツのカケラをもらった。
「ありがとう。メリーヌにもあげる」
と言っても、きっと気を使ってほんの少ししか取らないだろう。
ここで、強行的に食べてもらうにはあの技しかない。
「はい、あーん」
「え?」
ん?もしかして"あーん"の文化ない?
でもケーキの乗ったフォークを近づけたら口を開いて食べてくれた。小動物みたいでかわいい。
「どう、美味しい?」
「は、はい」
あーら、まあ。顔赤くなってる。女の子って感じ。眼福だわ。
時間も全然ないし、パパッと食べてぶらぶらしよう。この後は服や髪飾りを見たり、お昼は食べ歩きなんて楽しそう。
「ごちそうさまでした。さあ、メリーヌ行こうか」
ここですかさず手を差し伸べるアルト、カッコイイ!
はい、と言って手を取ってくれるメリーヌ、もっと可愛いよ。
という調子で一日街を満喫していたら、あっという間に時間が過ぎていった。
ーーーーーーー
休日が終わり、今日から学校。月曜日です!
つーか、この世界はほとんど日本と変わらない。 一日は24時間。一年は365日。異世界ゲートが本格化して移住とかになっても困らないね!
学校へは登校するのが面倒だった。だかしかし、今の私は馬車登校。自分の足を使わずに登校している。楽って素晴らしい!
だめだめ、ダイエット中に楽とか考えちゃ。積極的に運動しないと。でも片道30分は歩く気失せる。せめてチャリがあれば良かったのに。
あー、ひさびさに自転車に乗りたくなってきた。こう、チリンチリンって。
「アルト、朝から何してるの?」
「おはようノア。ん?別に何もしてないよ」
「こう、両手前に出して。チリン………」
あ、無意識に自転車に乗った気でいた。
エア自転車をノアがすると、すごくシュールな絵になる。
「二人とも、おはよう」
「クラスティさん!おはよう」
出ました!私の尊敬し、目標としているクラスティさん。今日も神々しいです。
無言なノアの服をツンツンと摘む。
「………はよ」
「ははっ、相変わらずドライだね。それはそうと、今日は二人に紹介したい人がいるんだ」
「紹介したい人って………ま、まさか恋人!?」
………私のハートはブレイクしたよ。
クラスティさんの彼女が羨ましくもあるし、先に彼女を作るとか抜け駆けされた気にもなる。
「あー、クラスティさんがとられた………」
たしかに今もクラスティさんの後ろにチラチラと人が見える。最初から気がついてたよ、後ろに人がいる事くらい。でもあえて見ないフリしてたんだから!
「大丈夫アルト。俺がいる」
そう言って手を取ったのはノア。ありがとう、でもクラスティさんに彼女ができたことは変わりないのよね。
「なんかさっきから俺が女として話が進められてるの、気に食わないんだけど」
ふぇ?と顔をあげると、少し伸ばしたグレーの髪を後ろでちょっとくくった美少年。女の子にモテそうな甘いマスク。
………男じゃん!?
「その、ごめん。俺一人変な方向に慌てちゃって。アルト・サクスベルドです、よろしく」
「俺はロレンツ・ミラー。うーん、見た事ある顔………どこかで会ったとこある?」
そーっと、覗き込まれる。待ってなんか恥ずかしい。ほっぺた紅くなってないかな。
というか、そんなこと言われてもさ。私ここ数週間の記憶しかないから、昔会ってても分かりっこないよ。
「あっ、思い出した!昨日、街でケーキ食べてたよね?可愛らしい恋人さんと」
それをたまたま見かけたんだ、と上機嫌にいうロレンツさん。んん?待って私恋人いないから!
いたっ。右手から急に痛みが走った。
「ねぇ、アルト。どうゆうこと?」
ノアさん、痛いから離してください!