3人でランチの会
授業終了のチャイムが鳴った。今からランチタイムだ。教師が帰り際に「予習復習を怠らないように」と言葉を発すると廊下へ消えてった。
ふぅ、と一つため息をつく。そして隣の席のノアに縋った。
「勉強教えて!」
一番の問題は、この国の言葉が理解できない事だ。
私はこの国の文字を今日初めて見た。どうやら日本語ではないらしい。しかし誰かと話すときは日本語で話せるし、聞き取ることができる。便利なことに自動翻訳機能があったようだ。だからこの国の文字で説明を書かれても分からない。
幸い数字はアラビア数字なので、理解できた。それにこの世界の数学は難しくない、いやはっきり言うと簡単だ。多分日本だと小学校年中くらいで習う内容だろう。中3の私からしたら楽勝だ。
「勉強苦手?」
「う、うん。かなり」
苦手というより文字が読めません、なんて言えないけど!数学以外はもっぱらダメだ。
見た目からして私たちは中高生くらいの年齢。しかもアルトはこれでも貴族の一員。いくら教養がなくても、文字くらいは読めるだろう。
「じゃあ、今から昼食がてらみんなで勉強会しようよ」
「すごく助かります」
クラスティさんが提案した。私からしたらとても嬉しい。すっごく助かる。
………そもそも文字が理解できないけど、どうやって教えてもらおう?
とりあえず、お昼ご飯を食べに席を立った。私の通っている中学校は公立で、毎日給食だった。
しかしここはお金持ちの学校。配膳室から食器を運ぶ気配もない。きっと大きな食堂でもあるのだろう。そこで豪華なものが出るのだろう。
「アルトくん、そっちは反対方向だよ」
「えっ、あ、そうなんだ、ですか。すいません、長い間来ていなかったので」
「アルトくん。この学校ではみんな平等を掲げているんだから、その口調やめようよ」
ほー、みんな平等を掲げるということは、現状は平等じゃないのか。貴族社会って怖いな。
というか、クラスティさんにタメ口は恐れ多いけど。学校の方針なら仕方がない。
と、ツンツンと制服の裾を摘まれた。ノアだ。
「食堂はこっち」
と言いながら、誘導してくれる。
なにこれ、普段無口な割に、ちょっと可愛いアピールやめてもらえませんか!ギャップ萌えでも狙ってるの!?
それを見たクラスティはクスクス笑っている。
食堂に着いたのはいいのだが。私の思っていた学食と違う!学食って、あれでしょ?券を買っておばちゃんに「カレーうどん!ちょっとルー多めで(ウィンク☆)」みたいな感じと思ってたよ。
なのになんでだよ!
「本日のメインディッシュはこちらからお選び頂けます」
とメニューを持ったお姉さんが丁寧に説明してくれる。あれ、ここは高級レストランですか?
気後れしつつも、ちゃんと答える私。えらい!今日はお任せにしておいた。だってメニュー読めないから!
「はぁ、また他人任せになっちゃった………」
心の中で呟いたつもりが、声に出ていた。
「こちら前菜です」
おー!すっごい、オシャレ。なんかベジタブルな感じのソースがかかってるし。謎のパリパリのよくわからないものも乗ってるし。
というより、お金はどうなるんだろう。今日お金なんて持って来てないよ!
「これってご飯代は………」
「んー、ああ。1ヶ月分の集計をして、後日家に請求が行くよ」
「へぇ、そうゆう感じに」
それにしても、ノアもクラスティーも食べ方がとても綺麗だ。一つも物音立てずに食べる。どうやったら、そんな高度な技ができるのか。2人をジロジロ見ながら食べるのも恥ずかしいから、できる限り綺麗に食べよう。
そうしてたら、あっという間にお腹がいっぱいになった。どうしよう、まだ残ってるんだけど。余ったら捨てちゃうよね。勿体ない。
この世界ではシェアという文化はあるのかな?よくある、"友達とシェアしよう"ってやつだよ。流石に食べかけはダメかな。
「アルトくん、手が進んでないけどどうかした?もしかして口に合わなかった?」
私の様子にクラスティが声をかけて来た。やっぱり、気遣いができる美男子とか最強だね。
「いやいや、料理はすっごく美味しい。でもちょっと量が多くて」
「じゃあ、もらう」
と、ノアは言いながら私のお皿をもらってくれた。まだお腹空いているとか、さすが男子!まあ、今の私の体も成長期の男の子だけど。腹八分目なんてとっくに越したから!!
それにしても、この世界でもシェアは許されるのか。むふむふ、これからご飯が余ったらノアにあげよう。
「ありがとうノア。ごめんね、食べかけで」
そう言うと、ノアはカチャンと音を立てた。あのノアが音を立てるなんて珍しい。顔を覗き込むと赤くなっている。
「ノア、顔が赤いよ。もしかして体調が悪い?」
額に手を伸ばしても、熱は感じられない。本当はおでこ同士をごっつんこさせるのが一番なんだけど、流石にご飯中だしね。
「………大丈夫だから。間接………」
「え、何?関節が痛いの?」
うーん、この世界でもインフルエンザはあるのだろうか。可能性としてはありそうだけど。
「アルトくん、違うよ。ノアくんはきっとアルトくんと間接ーーっん!ふぐっ」
ノアがクラスティの口に手を伸ばし、喋れないようにした。そんなにやばいことを言おうとしていてかな。
「ノア。やめてあげて」
「っはぁ、はぁ。ノアくん、僕を殺す気かな?」
「………別に」
その間が怖いよ!
そうこうしていると、ノアは私のご飯も食べきっていた。どうやら、本当に体調は問題ないようだ。
「それはそうと、あの………勉強教えてくれますか?」
今日の一番の課題だ。文字の書き読みができないことがバレるのは問題だろう。無難に数学でも教えてもらおうかな。でもこの世界の数学は簡単にできちゃうし。
「ちなみに、どの教科が苦手なの?」
「えーと、数学以外苦手で。数学も、とてもできるわけでもないし」
勉強できる子は、中学生なのにとっくに高校の勉強してたし。私は標準くらいだった。
「他は全くダメなんだ。文字で説明を書かれてもイマイチ理解できなくて」
「………それはなんとも」
というか、この世界の地理や歴史を覚えても将来使い道ないじゃん!公用語もそうだし。でも一年間アルトの体を預かったからには………。
そういや、2人は頭いいのかな。人に教えれるのだから、真ん中より上っていうのは予想がつくけど。
「2人は賢いの?」
「僕はそんなことないかな。毎回テストがあるごとに上位20人の名前が張り出されるんだ。僕たちはそこの常連ってところかな」
「………10位以内くらいとれて普通」
うっわー。秀才どもがなんか言ってる。ふざけんなよ!この学年に何人いるか知らないけど、3桁は絶対にいるはず。10位以内が普通って、感覚おかしいでしょ。クラスティも謙遜すんなよ!
でもそんなスーパーな人たちに教えてもらえるなんて、私はなんて運が良いんだろう。
「2人とも、すっごいね。ごめんね、俺の勉強に付き合わせちゃって」
「教える方も賢くなるっていうしね」
「………とりあえず、教室に戻ろ」
うん、と頷いて席を立った。気がついたら、テーブルの上にあったお皿はもうなくなっている。全然気がつかなかった。自分で返すものだと思ってたよ。やっぱり給食の癖が抜けないな。
「よし、行こう!」
私を挟んで3人で歩いていく。まだ1回目だから、教室の場所を覚えれなくても許されるよね。単独行動をした時に迷子になりそう。
こうやって移動する時も周りからの視線はうるさい。そんなに制服似合ってないのかな。アルトもこの視線が四六時中あるのはしんどいね。
「2人ともごめんね。なんか俺のせいで周りからジロジロ見られてて。制服が似合わないばかりに」
「「え?」」
2人揃って首を傾げてきた。もしかして見られてるって自意識過剰すぎた!?いや、でも見渡す限りの人ほとんど私たちを見ている。
改めて2人を見ると、2人ともお腹を抱えて笑っている。
「あっ、アルトくんは制服が似合わないから目立っているとっ。ハハッ」
「あっ、もう!笑わないでよ!結構気にしているんだから!」
「………アルトってバカっ、くくっ」
「ノアまで!」
笑うほど、似合わないとは思ってなかった。もうダイエットして見返してやる!ノアとクラスティめ、見てろよ!アルトもパーツは素晴らしいんだからな!
まずは毎日運動して筋肉つけ、一日の消費カロリーを増やそう!
「見当はずれなのがアルトくんの良いところだね。やっぱりアルトくんは面白いね」
「へ?何か言った?」
「ううん、何にもないよ」
2人が笑ったからか、周りから余計に見られている気がする。確かに、ノアが笑うのは珍しいのかもしれない。余計目立っちゃうじゃん!
「もう、2人とも早く教室に戻ろう」
「はぁ、はぁ……そうだね、制服がっ」
クラスティは未だに笑っている。紳士な彼もツボに入るとダメなようだ。
「………コイツ置いていきたい」
ノアに関しては、もういつものテンションだ。切り替えが早いというか、無関心というか。
ヘンテコ三人衆とでも見られているのだろう。みんなが自然と道を開けてくれる。なにこれ、私たち避けられてるの?
「ごめんね。急ごうか、勉強する時間が」
というクラスティの言葉と同時に予鈴が鳴った。
「次、移動教室」
「えっ、急がないと!」
結局、3人で急いで教科書類を持って移動教室へ行った。勉強する時間が一切なかったんだけど!