剣術の練習と新たな学友
アルトとして活動し始めて2日目の朝。昨日朝ごはんを持って来てくれた使用人さんが、今日も来てくれました。毎日毎日大変だね。
「アルト様。剣術大会に出るにあたって、本日は練習をしてもらいます。講師の先生はいつもと同じくリース先生にお願いしています」
早速今日は剣術の練習をするらしいけど。全くの初心者に剣なんて持てるのだろうか。そもそも、ルール自体分からないのだが。
でもアルトの顔に泥を塗らないように、私自身できる限りの努力はしよう。
「そういや使用人さんの名前は?」
いつも使用人さんと呼ぶより、名前で呼んだ方が便利だもんね。
「えっ?私ですか?一使用人の名前なんて聞いても………」
「で?」
「メリーヌ・ステアと申します」
メリーヌさんね。昨日と今日でわかったことは、メリーヌさんは多分アルトの専属の使用人さん(この場合メイドさん)らしい。
茶色の癖っ毛ある髪の毛が可愛らしいお姉さんである。こりゃ、毎朝眼福だね。
「本日の朝食です」
と言いながら、用意してくれます。ベッドから降りて、ふかふかの椅子に座りながら準備してるところを見ている。ふと一つ疑問に思った。
なぜ朝食は家族揃ってみんなで食べないのか。この国ではそうゆうルールなのかもしれないし。暗黙の了解ってやつかもだから、うっかり聞きにくいよね。お馬鹿さんって思われたくないし。
「メリーヌさん、ありがとう。うん、今日も美味しい。ドレッシングにパンチがあっていいな」
いえいえ、と言いながらメリーヌさんは側で立って待っています。
それはそうと昨日は起きたのが大分遅かったらしく、昼食を食べ逃したのだ。無念。
夕食は大きな食堂のような場所に連行されて、お父様とお母様と3人で食べた。もう、すっごく大きな机にバリエーション豊富な料理。高級ホテルのフルコースみたいなご飯だ。いつか慣れてしまうのが怖い。
お父様とお母様とは何だかんだ、自然な感じで話せた。特に違和感を感じた様子もなかったみたいだから。
私の適応能力の高さは富士山より高いよ。
「ごちそうさまでした」と小さな声で呟いたらメリーヌさんがお皿を下げてくれる。こんな風に周りが甘やかすと、そりゃだらだらしちゃうね。
「剣術のリース先生は午後から来られる予定です。リース先生から、ある程度剣術の技を考えておきなさいとの伝言がありました」
「了解した」
ちょっとは貴族のおぼっちゃまみたいになったかな。年上に敬語を使わないのは違和感しかないけど、こっちでは身分があるしね。
そういや、剣術の技を考えないとね。リース先生は難しいこと言うね。よくあるラノベとかだと剣を振り回したら魔法が出るけど、この世界は異世界だけど魔法がないみたいだからね。
とりあえず、アニメのかっこいい技を思い出すしかないかな。アルトの黒歴史になったらごめんね。
「では今から剣術の授業を始めます」
「お願いします」
昨日とは違う動きやすい格好で、家にある庭に出てきました。お庭広すぎでしょ。これだけ大きいと橋をかけたり、枯山水庭園を作ったりできそう。夢が広がるな〜。
とりあえず、剣に集中だ!
「ふん、今日は前回よりも礼儀がいいですね」
アルトって案外不良生徒なのかな。
「まずはいつもの構えをして、軽く素振りをしてから剣術を見せてください」
剣に構えとかあるのか。うーん、多分剣道の構えと一緒でいいよね。全然分からないし。
「ここの持ち方が少し違いますよ。こんな基礎からできていないなんて。あなたは今まで何を学んできたんですか。よくこれで昨年の大会では準優勝しましたね」
持ち方がどうとかなんか、ペラペラ言ってるけど。けどね。そんなことより聞き捨てならない事が今聞こえたよ。
"よくこれで昨年の大会では準優勝しましたね"って、要するに去年は大会で2位ってことでしょ。アルト意外とやるじゃん!
………いやもしかしたらすっごい過疎競技で、出場者が3人とかの世界かもしれない。
「ちなみに、今年は昨年より参加者が増え500人はいると思います」
ああ、剣術大会終わった。しかも順番が一番最後だとか。ごめんね、アルト。今年だけ最下位かも。
でもでも、出場者するからには最後まで諦めずにやりきらないと!
「では次に剣を振りますよ」
とリース先生の剣術レッスンは3時間続きました。私の『エクストラ・クリスタルソード』はとても評価してくれた。やっぱりアニメって最強だな。
でも3時間練習しても、どんな競技が分からなかったよ。
とりあえず、疲れた。前の私だったら絶対に全身筋肉痛だった。でももう無理、夕食は食べなくていいや。寝よう。
ーーーーーーー
「おはようございます」というメリーヌさんの声で目が覚めた。今日は学校がある日だ。今までかなり休みがちのようだが、きっと理由があるはずだ。
あ、ちょっとお腹のお肉がましな気がする。朝の空腹状態だからかな。昨晩は夕食食べずに寝たから、かなり心配されたよ。アルトはきっと健康の塊だったのだろう。
朝食をパパッと食べきって、顔を洗って、歯も磨いて。あとは着替えだけ!
と、準備万端なのになぜかいつものお着替え集団が来ない。もしかして風邪とかで欠員が出てて、今慌ててるとか?いや、そんなことはなさそう。
「メリーヌ、制服はまだ?」
「アルト様!本日は学園に行かれますのね!急いで準備いたします」
とびっきりの笑顔で出て行った彼女。この世の奇跡だ、みたいな顔やめてほしいな。どれだけアルトは学校に行きたくなかったんだよ!
と、いつものお着替え隊がやってきた。この2日で案外慣れたものだ。白いシャツに袖を通し、首になにかを付ける。とりあえず、服がカッコいいのはわかった。
ただ一つ言いたい事がある。
この制服は今のアルトには全く似合わない!
白という膨張色に加え、この清潔感あふれる素材。決してアルトが不潔というわけではないが、お世辞にも制服が似合うとは言えない。
だからか!多分彼は制服が嫌で学校を休んでいたのだろう。よし、私が君をイケメンにしてあげるよ。一年後驚けよ!
ガタンガタンと揺られている。と、音と振動がなくなった。
「アルト様、着きました」
「ありがとう」と言いながら馬車を降りる。学校行くのに馬車とか貴族様って怖い。でも見渡す限り徒歩で来ている人はいないみたい。これが普通なのか?
学園の大きな門をくぐると、そこは学校とは思えない広さと綺麗さがあった。本当に異世界なんだな、とつくづく思う。
さっきからすっごくジロジロ見られている気がする。あまり居心地は良くない。そんなに似合わないかな。
ふと、見知った背中が見えた。
「ノア!」
振り向いたその人は、驚いた顔をしていた。
「………アルト」
その返事には"本当に来たんだね"という驚きの声があるような気がした。
そうだよ、新しく生まれ変わったアルト様は来るんですー!と言い返したい。
てか教室はどこだろ?ダメだ、全く分かる気がしない。同じクラスなのかも不明だ。
とりあえずテキトーな言い訳を言うしかないな。
「あの久々の学校であんまり覚えてないから、悪いけど俺のクラスまで案内してくれない?」
「………いいよ。同じクラスだから」
ほんとノアの奴、サイコーだよ。
教室に入ると、かなり人がいた。今も周りからの視線を集めている。それはもう珍獣を見るような目で。
「………ここ、席」
「ありがとう、ノア」
「………どういたしまして」
「よいしょ」と言って席につく。長時間の馬車や門から教室までの長距離、これはしんどいよ。
ノアは俺の隣にそっと腰を下ろす。どうやら自由席みたい。
使用人さんに用意してもらった鞄から荷物を出していると、上から声がかかった。
「ノアくんに、今日はアルトくんもいるんだね。おはよう」
慌てて顔を上げると、その人の長い髪が少し触れた。ストレートのブロンズ色。スラっとした鼻筋に薄く綺麗な唇。顔が整いすぎて逆に怖いレベル。
すごい。アルトはこんな知り合いいたんだ。
よし、アルトのイケメン計画ははこの人を見本に進めよう。ノアも美男子だけど、頼りになりなさそう。アドバイス、何それ?みたいなタイプじゃん。
「あっ、おはようございます」
「………チッ」
え?ノアさん、なぜ舌打ちしているんですか?
「ノアくんは今日も辛辣だね。優しいのはアルトくんにだけかい?」
「………別に」
そうだ、これがノアの通常運転だ。アルトに対しても本当に口数少ないからね。友人かどうか疑うレベルだよ!
「ノアはこれが普通だよ。俺にもこんな感じだから」
「そっか。アルトくんの隣に座っても?」
「うん、もちろん!」
いやー、美形に挟まれて座るとかどれだけ贅沢なんだろう。
つか、私この人の名前知らないんだけど。ど、どうしよう。例の"不登校だったから、教室の場所もクラスメイトの名前も忘れちまったぜ☆作戦使おっかな。
「あの、その」
「そうだ、アルトくん。改めて自己紹介するよ。話したの今日が初めてでしょ」
ふふふ、と笑うその人。おいおい、初対面かよ!すっごいフレンドリーだな!
「僕の名前はクラスティ・フィラドラー。好きに呼んでね」
クラスティー、カッコいい。なんか私の中のクラスティーさんは堅物のイメージだけど、案外彼にマッチしている。
「俺はアルト、サ、サクス、」
えーと、家の名前なんだっけ?やばい思い出せない。使用人さんにが呼んでるのを何回か聞いただけだから、覚えてなくてもって感じだけど。
助けてノア、と目線を送れば、
「………サクスベルド」
「そ、そうです。アルト・サクスベルドです。すいません、春ボケが酷くて」
「ふふふ、アルトくん春ボケって。今秋だけど」
やべ、詰んだ。
「アルトくん、見ない間に面白くなったね」
「ははは、それは光栄な………」
とりあえず授業よ!早く始まってくれ!