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其の二 殿が討ち死に
「暇じゃなあ」
「暇じゃのお」
「戦があるというに、わしらは留守番じゃあ」
「手柄を立て損ねたのお」
「全くじゃ。折角この刀の新調とおりん殿に・・」
「・・・」
「そう睨むな。反省はしておる」
「・・まあよい。しかしちと悪い噂を耳にしたぞ」
「悪い噂?」
「殿が戦場で討ち死になされたのではないかという噂じゃ」
「何じゃそれは。あれほどの兵力で攻め入ったのじゃぞ。護衛の兵だけでも数百はおる。そこを寡兵の敵軍が突き破れるはずはなかろう」
「お主の言う通りじゃ」
「恐らくこれは敵の流した偽の噂じゃ。我らの動揺を誘い、戦を少しでも有利に持ってゆこうとしておる」
「なるほど」
「惑わされてはならぬぞ」
「珍しく冴えた考えじゃな」
「珍しくは余計じゃ」
「ではその冴えた頭に問うが、刀の新調はどうするのじゃ?上役に見咎められればちとまずい事になるぞ」
「・・閃いたぞ!」
「?」
「お主の刀と交換すればよいのじゃ!」
「・・斬ってよいか?」
「・・すまぬ・・」