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其の一 戦はまだか
「暇じゃのう」
「暇じゃなあ」
「戦は無いのか」
「無い」
「大殿様はいつ戦に出るのか」
「分からぬ」
「ふむ・・梅雨の時期に差し掛かってくるゆえ雨を気にして出陣せぬのか」
「雨でも戦はできるじゃろう」
「それはわかっておる。じゃが、雨や霧で視界が遮られればこれはちと厄介じゃぞ?」
「それは相手も同じじゃ」
「わからぬぞ。相手は大うつけらしいではないか。何かやってこぬとも限らん」
「大うつけなら大した事はできぬじゃろう。せいぜいこちらに突撃を敢行して全滅するのがオチじゃ」
「そうであろうか?」
「そうじゃ」
「ならば今度の戦で手柄を立てるのは容易という訳じゃな」
「うむ」
「良かった。それならばこの錆びだらけの刀を新調できるわい」
「・・お主、武具の手入れを怠るのは武士としていかがなものか?」
「これは質入れされていた安い刀じゃからな」
「ならばお主が元々持っていた刀はどうした?」
「・・質に入れた」
「は?」
「いやあ・・それが花街のおりん殿がそれは色白で肌がそれこそ絹のように・・」
「・・・」