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第四章 五月の夜の悪夢

狩場早苗が、野中晴夫に襲われ連れ去られたのは、自宅から眼と鼻の先の場所だった。

しかし、早苗の身に起きた出来事を目撃した者は居ない。


野中は、二日前に池袋で盗んだ小型車に早苗を押し込むとその場を立ち去った。

早苗の恐怖心は頂点に達し、反対に野中の心は、それまでの彼の人生で出会った事の無い美しい獲物を捕らえた昂揚感に満たされていた。

早苗の震えが伝わって来る、肌に触れても居ないのに。多摩川の河川敷に車を停め、野中は後部座席で意識を失っている早苗を眺めていた。

柔らかい素材のブラウスの胸の部分が隆起を繰り返して居る。

この美しい獲物に己の欲望を吐き出す事を想像するとき、身体の一点に淫蕩な血液が集中していく。

野中はゆっくりと早苗の胸に手を近づける。

春物のジャケットの前を拡げると、ブラウス越しにも、胸のふくよかさが伝わってくる。

ゆっくり揉みしだく野中。突き上がって来る情欲を抑え切れなくなった野中は、一気にブラウスの胸元を引き裂いた。


闇の中で早苗の豊かな乳房は白く輝いている。


野中晴夫は、解き放たれた野獣と成って意識を失っている早苗に襲い掛かり情欲の限りを尽くしたのだった。

東の空が明るくなる頃までに、野中はいったい何度早苗を犯したのだろうか。


狭い車内に、野中の吐き出した不快な匂いが充満している。それに混じるように早苗の傷つけられた身体の一部から発している血の匂いが漂っていた。


早苗は、自分の身に起きた出来事を少しずつ、理解していた。

意識がハッキリしてくるにしたがって、身体のあちこちが激しい痛みを脳に伝えてくる、そして絶望的な恐怖と悲しみが身体の奥から溢れ出てくるのだった。


身体が鉛の様に重い。


直ぐ傍に人間が居ることは、暫く前から判っていた。早苗は、横向きの姿勢で座席に身体を沈めていたが、殆ど全裸に近い状態だった。

自分の後ろで眠っているのが男性で、その男に自分が犯されたことは、ハッキリしている。

僅かに残っている気力を振り絞り、静かにゆっくりと寝返りを打つ様にして、後ろを見る。

身体を動かすとあちこちが激しく痛む。

男は熟睡している。


痩せ型で、車内に居るためにハッキリとはしないが背の高い方ではないようだ。肉の削げ落ちた頬、厚い唇がだらし無く開かれ、口元から涎れが垂れている。


自分が、この男に(もてあそ)ばれ、汚されたのかと思うと、怒りと悲しみの入り混じった感情が込み上げて来て、早苗は声を殺して泣いた。


涙は後から後から、溢れ出てくる、これが夢であればと早苗は思ったが、これは、どうしようもない現実だった。その後も早苗の身に襲い掛かった恐怖と屈辱は早苗の身体を汚し続け心を砕いた。男は、眠りから覚めると早苗を犯し、まただらし無く眠り、目覚めればまた、早苗を犯した。


狩場早苗は、地獄の底で心を失っていた。

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