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辛酸な過去を変えるため皆は電子書籍を更新する  作者: 彦音梟
3章亀毛兎角の罠
9/25

恋文


どこの学校にも噂だったり伝説というものがあると思われる。例を挙げると学校の七不思議や伝説の樹の下で告白などの都市伝説のようなものや彼奴らは付き合ってる、教頭先生は実はかつらなどくだらないものもある。


噂というものはどこの界隈においても朧げであり不確かである。確実な情報であっても1人でも否定し世間に誤りだと認識させれば誤報になりまた逆でも誤報が確実でないにしろ正しい情報になる。


そんな人の認識によって真偽性が変わってしまうのだから人の言う噂なども信憑性の薄いものであり、信じたり気にしたりする必要はない。しかし人間は都合の良い噂などに踊らされてしまう傾向があるのだ。


今回そういった都市伝説の告白イベントにとある少女が挑もうとしていた。


『奏ちゃ〜んどうしよ〜私とうとうできちゃいましたよ〜』


その一言で周囲にいる生徒達の視線が一気に声の主へと向けられる。


織部香おりべかおり


婥約しゃくやくな姿でおっとりした性格、弱々しい口調、行動は大半はスローテンポで少し抜けている感じの守ってあげたくなる系の普通の女の子で逆撫奏の友人でありクラスメイトである。


『そうなんだ!おめでとう!となると相手はやっぱりあの人?』


『そうなんですよ。隣のクラスの亀梨桜兎かめなしおと君です。』


すると周囲はざわつき始めた。驚愕、遺憾、非難、怒気、妬み、困惑といった様々な声が飛び交っていた。


『香、奏。2人とも少しばかりよろしいかしら?』


越矢子綾音こしやねあやね


楚々とした女性で有智高才うちこうさいの容姿端麗の温厚篤実おんこうとくじつな女の子と周囲

の者は評価をしている。しかし一部の者には毒舌。こちらも逆撫奏と友人でクラスメイトである。


『2人の話している内容についてだけど“できた”というのは一体何のこと?』


『前々から話をしていたことですけど気になっている人がいるって相談してましたよね。それが気になるから好きへと変わりました!!』


『それは言い換えれば好きな人ができたと言う認識でよろしいかしら?それとも違うの解釈の仕方が必要かしら?』


『いえ、合ってますよ。私亀梨君に惚れちゃいました。しかも初恋ですよ。』


香は頬に手を当てて惚れ惚れとした表情をしていた。周囲の者達は緊張感がほぐれる感覚になり解散を始め、綾音は周囲を見て安堵とホッと一息つき、香と奏は特に気にすることなく話を続ける。


『確か気になってたきっかけってみんなが言う亀梨君の評価だよね。』


『彼は二枚目な顔立ちの美男子、サッカー部で際立った活躍を聞くから身体能力が高く、よく困った人に手を差し出す伊達男だとか言われてるわね。』


『そうです。かっこいいし、よく人助けをしてるとこに目が留まったんです。それで今回は私が親切にされました。ハンカチを落としたみたいなんだけど亀梨君が拾ってくれたんです!』


『さらに肩に付いてた糸くずも取ってくれて、私が顔を赤くしていると気分が悪いのかと心配もしてくれたんです。それらの出来事で私は亀梨君に惚れてしまったのです。』


『じゃあもう告白するしかないね!』


『え〜!ドギドキして無理です〜!できないです〜!』


『香が惚れたのなら貴方から彼へ近づかないとお付き合いなんてできないわ。』


『う〜んそうですけど...』


『あっ!じゃあアレに挑戦しよう!学校の伝説!』


津倉土筆の通う高校にもそのような風習があった。気になる相手の下駄箱に手紙を投函する。内容はクラスと名前、顔合わせするの為の場所を書きあとは自由に書いてよい。


呼び出した場所で会いデートの約束をする。デート当日に相手からキスをしてもらえれば成就。してもらえなければ脈なしというのがこの高校の恋の試練という伝説だった。


試練というのもデート確約を手紙を投函した日の1週間以内に誘わなくてはいけないし、デート中にキスをしてもらえないといかず短期間でどれだけアピールできるかによって運命が左右されるので思春期の者達には試練といっても過言ではないのだ。


『この学校にいれば誰しも知る都市伝説だからきっと亀梨くんも率先してキスしてくれるよ!』


『でもでも私奥手な性分だし1日だけでアピールなんてできないですよ...』


『そうかしら?香は結構男子から良い評判を聞くわ。慎ましく可憐で女の子の理想系だとか。』


『でも私生まれてから告白なんてされたことないよ。だからそこまでの女の子のじゃないですきっと...』


自分で言っておいて悲しくなりしょぼくれた。


『それに関してだけど彼等とよく接触しているからもう付き合っている相手がいると誤解させているのかもしれないわ。』


『彼等って言うとつっ君と神ちゃんのことだよね。』


『そうよ。津倉君はあまり表情豊かでないけれど顔は整っているからクール系として女の子からモテ囃されていてさらに鍛え上げられた身体で抱擁されたいとの噂よ。』


『永神君は中性的な顔立ちと体格が小さいから可愛くて多くのファンを集めていると聞くわ。可愛さ余って抱き枕にしたいとの噂よ。そんな人気のある2人と仲良くしているから勘違いされて他の男が近寄らないのだと思われるわ。』


『2人共魅力的な方達ですからそういう対象になりやすそうですもんね。』


『確かに私も告白されたことないかも。』


『奏の場合はもう津倉君との関係を周囲が公認だと認識しているからよ。場所も選ばず彼の背中に抱きついている光景を頻繁に見かけるわ。』


『あれは恒例行事みたいなもんだよ。つっ君も嫌がってないからね。』


『ちなみに私は2人に抱きついているわよ。』


『えっ?』『えっ!?』


香と奏の声がハモる


『男避けとして何度かね。永神君は毎回顔を赤くして可愛いいわ♡津倉君は毎回ため息をはかれるけどね。』


『そういう理由か〜良かった〜。』


『話が逸れたから軌道修正するわよ。香が恋の試練をするって話だったわね。』


『えぇ...もう決定事項ですか...』


『となるとラブレター書かないとね!レターセットとか用意を...』


奏が綾音の方を向くと彼女の手には既に可愛らしい便箋と封筒を持っていた。


『どうしたの奏ちゃん?あ、あれ?綾音ちゃんいつの間に!?』


『そうそう持ってる人いないと思うからビックリしたよ!』


『恋文は乙女のたしなみよ。というわけで香、クラスと名前はすぐ書けるから後は呼び出す場所と文面を考えなさい。』


『い、いきなりそんなこと言われても...あっ!奏ちゃんこういうのってどんなこと書けばいいの?』


『えぇ...綾音ちゃんだったら何処に呼び出すの?』


『私はそういう類いは興味ないから考えたことないわよ。』


『あれ?乙女の嗜みってさっき...』


『......』『......』『......』


3人共膠着状態になってしまった。


香は高校に入るまで友人ができたことがなく相談相手もできたことがない。今回のように綾音が背中を押して初めて行動に移したのだからいきなり書けと言われても難しい話である。


奏は普段から土筆と行動をしてきたために手紙などのやり取りをやった試しがなかった。綾音に関しても恋人を作った経験が無い。容姿や頭脳が完璧なステータスを持っているせいか彼女に近づく男は現れたことがない。それ故に青春といった類いには疎かった。


この世に三者三様や三人寄れば文殊の知恵などの言葉があるが今この時だけはその意味は瓦解してしまう。


『最終手段ね。』


綾音はスマホを取り出し操作をし始め画面を2人に見せる。


『ラブレターの書き方レクチャー?』


『確かにこういうのを見れば良い文章が書けると思うけど送る人の気持ちとかが半減してるような気がするね。』


『申し訳ないけれどこうでもしないと私達が集ってもきっと烏合の衆になるだけよ。それにラブレターをみんなで考える時点で半減じゃなくて÷3されているのだからテンプレートやサンプルを使っても大差無いわ。』


『私は感謝してますよ。1人だと絶対書けないですから。』


『それもそうか〜じゃあ早速書いちゃおう!』


一時間後、ラブレターを書き終えるも疲労感を感じていた。


『どうにか書き終えましたね...』


『ラブレターの書き方をゼロから知って書いたから勉強をした感覚に近い疲労感を感じてるよ...』


『疲れたわ...慣れない事はするもんじゃないわね。私今後は恋文を率先して書きたいとは思わないと思うわ...』


『青春大好きの筈の女子高生のセリフじゃないですよそれ。』


『まぁとにかく下駄箱に入れに行こう!呼び出した期日を明日にしちゃったからには今日中に出さないとね。』


『じゃあ今日は下駄箱に投函したら解散しましょう。もう外が薄暗くなってきたから下校した方がいいわ。約束は明日の放課後だからそれまでにデートの場所を決めましょう。』


そう言うと2人は頷き筆入れなどを片付け皆で下駄箱に向かった。下駄箱に入れる際に香は躊躇していたが痺れを切らした綾音が香から手紙を取り上げ無作法に投げ入れる。香は入れ方の修正を計ろうとするが綾音がそれを阻止し無理やり連れ帰らされてしまった。奏は2人と別れるとそのまま学生寮へと帰っていった。



土筆サイド

『はぁはぁ、ん?あいつは...』


土筆はランニングしていると見知った人物を発見し声を掛ける。


『やぁ小太。こんにちは。』


小太はこちらを振り向くと暫く見つめてくると口を開く。



『...貴方は...は誰?』



『えっ...小太...お前...』


普段寝ている土筆の眉毛も思わず上を向く。


『えっと...何処かでお会いしたかしら...』


『あっ...あぁ一応小学生の頃...って小太お前本当は記憶消えてないだろ。そうやって顎あたりを触れるのが嘘をついている証拠だ。』


『あら、ばれてたのね。ちょっと遊んであげようとしたのに。』


土筆は安堵し眉が下がった


『冗談にしては笑えないよ。お前高校入ってから引きこもりしてたんだよな。だったら普通の勉学と交友関係についてもう少し勉強した方がいい。重い冗談はなかなか受け入れないからな。』


『ご、ごめんなさい気をつけるわ。あ、でも勉学は問題ないわ。全国模試で上位に入っているから授業もテストの日以外は出なくてよいと言われているから。』


『へぇ、凄いんだな。さすが進学校だな。あ、そうだあれから奏とはどうだ?』


『ええ、良好よ。メールや通話して友好関係を深めていってるわ。津倉君にも私の行いを許してもらえて本当に感謝しているわ。』


『俺は奏が許してあげたいと言ったから従ったまでだ。礼はあいつに言ってやってくれ。まぁそれはそうと最近はALTERの方はどうだ?』


『そのことに関してなら一つ伝えたいことがあるわ。私が貴方と奏さんと協力関係を組んだその日の帰りにE-bookの所持者が私に接触してきたわ。私達の戦闘とその後のやり取りを見て自分も仲間に入れて欲しいとのことよ。球縫珠貴たまぬいたまきという名で貴方の学校の3年生みたいよ。知ってる名前かしら?』


『同じ剣道部なら分かるがそれ以外の3年生だと知らないな。特徴を教えてくれるか?』


『そうね...背格好は高くて多分180近くはあるわ。顔立ちも美男子って感じかしら。身体付きもしっかりしていてスポーツが得意そうだったわ。後は...晩方で薄暗かったから自信がないけれど右目に泣きぼくろがあったと思うわ。』


『美男子ならそれなりに名前の知名度も高いと思うがな...いや、でも主観性の問題だし何とも言えないか。』


『...ぶつぶつと何を言っているの?それより貴方が学校で探せば特徴を聞く必要なんて無いじゃない!』


『まぁ一応だよ。事前に聞いておけば見つけやすくなるだろ。他にその男の情報はないのか?』


『今度また会うわ。その時に彼のスキルとか聞き出しさらに彼が信用に当たる人物かを判断するつもりよ。』


『ならその時に俺も同行しよう。俺がその球縫って奴の心情を読み取って判断を下してやる。信用できないと見做みなしたら2人でそいつを片付けよう。』


『ありがとう津倉君。正直1人だと不安だったのよ。』


期日、時間、場所を教えてもらうと俺はそのままランニングの続きをする為走り出した。曲がろうとした手前で後ろ振り向くと小太はまだ立ち止まっていて笑みを作り手を振っていた。それに応えて手を挙げた。



里三サイド

『はぁ〜。急に声を掛けられた少し緊張したわ。でも、ふふふ。球縫って人のお陰で津倉君と落ち合う約束をしてしまったわ。明後日が待ち遠しいわね。油断は禁物だけれどその日までは胸が弾んで落ち着かないわ!』


『...小太さんまた会いましたね。』


視線を上げる男が立っていた。


『貴方は球縫さん。どうなさったの?約束は今日じゃないわよ。』


『確かにそうだね。でもね、もうそんな約束はどうでもよくなったんだよ。』


球縫はニヤついて小太に近づく。



誤字などの修正をしました

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