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辛酸な過去を変えるため皆は電子書籍を更新する  作者: 彦音梟
1章天狗の鼻をへし折る
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気骨


小西木は透明化し再び姿を眩ませ逃走を試みる。しかし土筆は溜め息を吐く。


『いや、終わりだよ』


チワワが一直線に走り出しジャンプするとピタリと空中に引っ付く。その後、うわぁ!と悲鳴が聞こえチワワがフラフラと揺れたかと思うと落下しそうになり上手く着地をした。その際に近くで何かが地面を滑っていくのがわかり土筆は拾いに行く。


『E-bookか。』


『お、おい...やめろ、それの破壊だけは止めてくれ。』


拾ったE-bookを少し操作しているとスキルが解除された小西木が這い蹲っていた。


『なんだ?許諾きょだくか?懇願こんがんか?どちらにしてももう遅い事を把握し今後もっと思案してから行動に移すよう心掛けるんだな。』


土筆は拾ったE-bookを高々と投げるとチワワが走り出し爪で裂いた。その光景はストライクのようでレーザーのようなクローであった。


ブゥゥゥーー!


『E-bookの破壊を確認しました。戦闘を終了です。1分後自動で転送致しますので暫くお待ち下さい。』


放送が鳴り響き土筆は地べたに座り一息をつくと男の啜り泣く声を耳にする。


『てめぇはよー!どうてくれんだよー!』


『すまないな。俺はどうしても過去に戻って救わなくてはいけない者がいるんだ。その為にはここで敗北してはいけなかったんだ。まぁお前も過去に戻る理由があるとは思うが諦めてくれ。』


『別にリスタートの事はどうでもいいんだよ!!クソォ!』


その発言が指す意味を理解できなかった土筆は小西木が涙する理由が気になり桃太郎にスキルの解除を要求し姿を現す。


『桃太郎、敗北時のペナルティーはあるのか?』


『はい。こざいますよ。ペナルティーといっても些細なものです。』


『早くその詳細を教えてくれ。』


『ペナルティーですがこのゲームに関する記憶を消させていただくことです。』


『...他には?』


『ございませんよ。別に仮装の空間ですから後遺症も残りはしません。』


..,えっ?小西木...お前何?このゲームが楽しくて忘れるのが嫌とかで泣いてるのか?いや嘘だろ。そんな小学生思考な理由とかで涙してる展開はやめてくれよ。


『小西木。お前の号泣の訳はなん...うわっ!』


足元からスペースが生えてきて土筆を飲み込む。小西木も飲み込まれたみたいだが彼は声を荒げているのか、微かに声がこちらに漏れていたが暫くすると静まりかえる。その静寂な空間は疲労感のある土筆にとっては微睡みを誘う。


『小西木...人の名前っぽいの聞こえたが...気にしないでおこう。頭を...使ったり体...動かしたりで...疲労が......あれ?』


いきなり目が冴え気付くとE-bookを拾った河原で横になりほのかに明るかった空は晩方にまで日が落ちていた。先程まで体は砂で汚れ擦り傷などが所々あったが治っている事に気づき驚いたがよく考えれば、あれは電脳世界の出来事なので現実に戻れば無かったことになるのだ。あと周辺を見回すと小西木も倒れていたので面倒な事に巻き込まれない為に颯爽と帰路に向かう。


『すみません。』


『はい?』


道中でハッキリとした声に呼び止められ振り向くと小柄で背筋を正した礼儀の良さそうな大人風な女性に声をかけられる。


『この辺で顔つきの悪い大柄で猫背の男性を見かけませんでしたか?』


ふと小西木の顔が過る。


『あ〜そういえばさっきあそこの橋の下に大きい体格の男性が横になっていましたが...僕はちょっと声がかけにくくて...もしお知り合いの方でしたら申し訳ありません。』


『いえ、まだ顔馴染と決まった訳ではないですし教えて頂けただけでも感謝しております。ありがとうございます。』


一礼と共に駆け足で過ぎ去る彼女を見送りながら携帯電話を取り出しその場で立ち尽くす。暫くすると女性は橋の下に辿り着きそれを確認すると土筆は駆け足で橋の上に移動し見つからないよう姿勢を低くして待機する。


『もう、小西木さん!今日は仕事早く終わるって言っておりましたのにこんなところで寝ていたなんて驚きましたわ。今日はそちらのご自宅へ参るよう伝えたのになんでいらっしゃらなかったのですか。』


目を覚ました小西木はぼぉーと女性を見てから口を開く


『...誰だ嬢ちゃん...俺の知り合いか?』


『!?、嫌ですわ、そのようなご冗談をおっしゃるだなんて。』


『いや...冗談では..,てか嬢ちゃんなんで俺の名前知ってんだ?』


女性の声色が涙声になっていく。


『貴方と私はお付き合いをしていた関係なのですが覚えていないのですか?』


『俺が...嬢ちゃんを...』


『私は木更津沙羅(きさらずさら)ですわ!いつものようにさららって呼んで下さい!毎回出会った時にやっていたように私を抱きしめて下さい!そして...口付けをしてください...』


木更津は小西木に抱きつき涙を流しながら静かに言い小西木は眉間に皺をよせて話を聞いていた。


『...さらら』


すると真顔になり彼女を突き放す。


『俺がお前みたいなちんちくりん相手にするわけないだろうがよ。俺の好みはナイスバディーな女なんだからよ。ガキはさっさと帰って寝てな。』


言い放つと直様向きを変え歩き出した。


女性は腰を抜かしたかのように座り込んで手で顔を覆っていた。


涕泣ていきゅうしているのが分かるが俺自身は彼女に手を差し伸べることはせずその場から急いで離れることにしそのまま自宅へと着く。


『ただいま。』


土筆家は両親が共働きの家庭で土筆が帰宅する時には誰もいない日が多く本日も返ってくる返事はない。今日に至っては考えることが多かったので丁度良かった。


食事や風呂を済ませ寝室で横になる。その際にE-bookも枕の横に置く。


『桃太郎、今いいか?』


『ベッドに移動してからのその質問...いやらしいですね。』


『ふざけないで話を聞け。ゲームの記憶を保持した状態での途中棄権とかはできないのか?』


『それはできません。勝ち続けるしか方法はありません。まさかもうゲームの終了をお望みですか?』


『違う今日の出来事だよ。小西木はお付き合いをしていると語っていた女性に対して面識がないような発言をしていた。これはペナルティーであるゲームに関する記憶の抹消が原因なんだろ。あの女性はこのゲームの参加者であれば【ゲームに関する記憶】のカテゴライズに入るからな。』


『やはりそう推理して彼女を励ましに行かなかったのですね。』


『確かにそういう危機感もあったがそれよりも俺は彼女を励ます立場にはなれないからだ。』


『記憶が消える前の小西木。あと記憶のない小西木の心無い言葉を受けた女性...確か木更津と言っていた。2人はお互いのことを考えて涙したんだ。そこから2人は懇意な関係だったと予想できる。よって彼女に対して哀愍あいびんな感情を持ち彼女を労わる行為は誤りだ。そんな2人の間柄を裂いたのは俺自身だから...』


『はぁ...人間世界とは煩瑣はんさなんですね。』


『今後もこんな出来事が起こると思うと胸が苦しくなる。しかし記憶保持での途中棄権ができないのならば今後も心を鬼にして敵対する者を片付けていくつもりだ。』


『躊躇などの類は戦闘に支障をきたしますからね。その意気ですよ土筆様。』


『その発言...お前はプログラムだから躊躇をバグかなんかの部類としか考えてないんだろうな。そういえば戦闘と言えばこのゲームって名前とか無いのか?』


『もちろんありますよ。ゲームですから当たり前ですよ。』


コホンと咳を一つ出す桃太郎。


『このゲームでは人の人生や記憶を改めさせたり変更を目的としたシステムなので"ALTER"と呼ばれております。』


『アルターね。なんかそれっぽい感じの名前だな。あと...あぁ、いいや、また明日で。もう色々あり過ぎて脳が疲弊しそうだしもう寝よう。』


土筆は床につくことにする。しかしジッとしていると眠気は来ず今日のことを振り返る。


今回の出来事にタイトルを付けるならば【天狗の鼻を折る】とつけよう。

自慢気な態度の人を天狗というがそのような人物の鼻をへし折る行為は普通スカッとするものだと思う。しかし今回に至ってはスカッとどころか胃がキリキリしそうなくらいわだかまりが大きい。

これを教訓に今後は鼻の長い奴にはなるべく近づかないようにしようと思う。

例えばとある海賊船の狙撃手や鼻の下がよく長くなる奴らだ。関わると碌でもないことになりそうだからな。

以上のことから次の2点について今後は気をつけるようにしよう。

【口より手を動かす】

【変な奴には近づかない】

なんか学生の時に先生に言われた事あるような気がするがまぁ気のせいにしておこう。

などと今後の人生の振り方を決めると眠気が増していたらしくいつの間にか眠りについていたのであった。








E-bookまとめ

戦闘ゲームの名前はALTERアルター


敗北者のペナルティーは記憶の消去。


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