強者
深夜になると土筆は目が冴えてしまい起きてしまう。
全員寝静まっている事を確認すると土筆は道場を後にして自分の部屋へと向かう。
『大勢いるせいか落ち着いて寝れないな。普段より早めではあるけどトレーニングでもして時間を潰そう。』
部屋で着替えを済ませ外へ出ると1人フードを被った人物が津倉家の前に立っていた。
『どなたでしょうか?道に迷ったなら交番がこの先に...』
その人物がゆっくりと近づき土筆の目の前まで近寄りるとグッと拳を握る。すると土筆も目を見開いて眉も上を向く。
『お前はまさか!』
土筆の声が言う前に相手の拳は土筆の腹部狙いで放たれると衝撃や風圧によって周辺の木々を大きく踊らせた。
『ほぉ、木刀でこちらの拳の軌道をずらしたかぁ。』
『見えるように放った突きなのだから避けるぐらい簡単だろう。』
『普通の人ならこの拳の速さは見えないはずなんだけどなぁ。』
土筆はゆっくりと右手を上げると一気に振り下ろす。それに反応し相手も白刃どりの要領で手を動かすも間に合わずチョップが頭部に入り頭を押さえうずくまった。
『武術大会以降何度か鍛錬しあった仲だが人を煽るのが好きなのは昔と変わらずのようだな。再開は小学校以来か上連蜜蕗。』
名を呼ばれるとフードを脱ぎ一本に束ねた長い髪をたらした快活そうな女の子は笑顔をみせる。
『いや〜津倉土筆の強さの再確認もできるし僕の為にもなるから良いことだらけになると思ってぇ。』
『冗談でも人に向けるような拳の強さじゃないんだよ。当たり前のように放射剛気拳で拳強化しやがって。木々がすげぇ、揺れまくってるじゃねか。』
蜜蕗は笑みを浮かべると土筆に抱きついてくる。
『津倉土筆ならこのぐらい当たり前のように受けきれると思ったからだよぉ。』
『そんなことよりこんな時間に俺の家に来るなんてどういう要件だ?』
『そうそう、今日は津倉土筆を誘惑しに来たんだよぉ。こういう体型の女性好きって情報を得ているからなぁ。』
同い年である蜜蕗を見るが身長は小さく、幼い雰囲気の顔立ち、くびれていない腰など幼さを感じさせるような姿であった。
『...どこから仕入れた情報か分からないが多分違うぞ。』
『えー!!!せかくこんなチンチクリンにしてまで会いに来たのに意味なかたのぉ?じゃあどんな身体付き好みなんだぁ?』
『体型というか鮮麗されているって言った方が分かりやすいだろうか。人は努力することによって体表的にも結果が出てきているはずだ。筋トレすれば筋肉は付くし美容など意識すれば綺麗な身体付きになるだろう。そう言った成果するまで努力した者は好感を持てるな。』
蜜蕗は考えこむと1つの答えにたどり着いた
『...あっ、じゃあ本来の僕じゃん。』
蜜蕗は体に気を集中させるとゆっくりと体が大きくなっていき、ウエストはくびれ、胸部や臀部は大きくなっていき女性らしくなり顔付きも幼さが薄れ大人っぽくなっていった。
『...急に成長しただと?』
『これも放射剛気拳の気のコントロールの一つさぁ。細胞を一つ一つ包み込んで押さえ込んだり広げたりする事で姿を変えたり身体の形を変えることができる高等技術だぁ。あまり無理しすぎると細胞が壊死しちゃうから別人には変えられないけどねぇ。』
『昔も人間離れしていると思っていたが更に増していくとは。』
『それじゃ津倉土筆行こうかぁ!』
土筆の腕を取るとどこかに連れて行こうとする。
『お、おい何処に連れて行く気だ。』
『えっ?言葉通り誘惑しに来たって言ったはずだけどぉ。』
『まだ情報が足りねえよ。それに何処に連れて行くつもりだよ。』
蜜蕗はくるりと振り返ると満遍な笑顔を見せ答えた。
『救いの要塞...ALTERでの私の所属するチームだぁ。』
『お前もALTERに参加していたのか。』
『まぁ、勧誘されてから最近まで名前なかったけれどついさっき決まったんだぁ。』
ふとその言葉に疑問を抱いた。
『最近まで名がないだと?』
『そう、ボスが優柔不断な性格してるから組織名が決まるまでとりあえず参加者の人数を減らしたり強者の勧誘をしてくれって指示受けてたから津倉土筆を加入しに来たんだぁ。』
それを聞き土筆は不快感を感じる。名前のない組織により仲間や奏が襲われたこと、知人である蜜蕗...過去に手合わせし対等な実力のライバルである蜜蕗が敵対する組織に所属している可能性があると思うと腹ただしく感じる為だ。
『今日俺の相手にはならなかったがALTERプレイヤーに襲われたが。』
『まぁ、津倉土筆にも刺客が送られた筈だけど私が津倉土筆でも倒せるであろう人員を送ったつもりだよぉ。だから勝ち残れたみたいだし嬉しいよぉ。』
今の言葉で確証を得られた土筆は蜜蕗の腕を払う。
『おっと、どうしたんだい随分と機嫌悪そうにぃ?昔みたく戦闘体制じゃないか津倉土筆。』
『お前の向かう先には行けない。俺の仲間を襲った組織だったのなら行く理由はないし仲間になるなんてもっての外だ。だから今日はもう帰ってくれ。』
『え〜!でも僕は津倉土筆と一緒にALTERを戦っていきたいんだよなぁ。津倉土筆がどれだけ強くなったかもっと見たいしぃ、僕の成長度合いも披露してあげたいのにぃ...』
蜜蕗は少し残念そうな表情を浮かべていたが次第に顔を紅潮させ口元が緩んでいく。
『...そっか...それじゃ仕方ないよね...戦うしかないねぇ♡』
再び蜜蕗は殴りかかると土筆は咄嗟に拳を防ぐがその手にはE- bookがあり近距離でスペースを展開された。
目を開けると蜜蕗が立っており周囲を見回すと荒野が広がり殺風景な景色が広がっていた。蜜蕗も目を開くと、うわ〜と軽快な表情を浮かべていた。
『お前自身はなぜその組織に入っているか教えろ。組織から抜けるなら今回は見逃してやるし俺のチームの仲間にも加えてやるぞ。』
『障害物もないみたいだし僕達にとっては戦いやすいステージなんじゃないかなぁ?』
蜜蕗は楽しそうに笑いこちらの話に聞く耳もない様子である。すると放送が流れ始める。
【今回のステージは荒野ステージです。このフィールドは所々に地雷が仕掛けられていますが注視すれば位置の把握は可能なので注意してください。戦闘は1分後に開始されます。】
『言ったそばからそれって酷いぃ!?せっかく津倉土筆と前みたいに楽しく戦えるかと思ったのに障害物があるんじゃ全力が出せないじゃないかぁ!まったくぅ。』
すると蜜蕗は両手に気を纏い集中するとバチバチと音が鳴り始め手と手の間で電力を集めていく。そしてある程度集めると地面に手を置く。
『放射剛気拳【絶】』
集めた電気を気と地面へ流し出すと周囲の至る所で小さい爆発が何度も発生し周囲を煙が立ち込める。
『先手必勝!』
声のする方向の煙が捌け気を纏った蜜蕗の掌底が顔を掠める。
『幼い頃にも言った気がするが先手を必勝にするなら声は出さないほうがいいぞ!』
土筆は腰にさしていた自分用の木刀を握ると一瞬のうちに4発入れ距離をとる。
『んっ!そこそこ痛いかったけど芯に響くほどじゃないねぇ。』
蜜蕗は身体をさすると余裕のある表情を見せる。
『ただの打撃より津倉土筆の流派を見せてよぉ!【包】がどれだけ通用するのか改めて教えてよぉ!』
『お望みならば見せてやるよ。』
土筆は宿地により一気に蜜蕗との距離を詰めた。
『津倉流閃光!』
高速とも言える速度の抜刀で蜜蕗の顔を殴打。
『何それ?』
木刀を受けるも怯みもせず蜜蕗は顔へ拳を放つが土筆は上体を後ろへそらしどうにか避ける。
『忘れたぁ?』
しかし避けた拳から気が伸び拳を形作ると土筆の顔を連打が入ってしまう。土筆は一旦距離を起き頬を撫でる。
『痛っ、あの一瞬で5発か。そういえばお前にはこの追い打ちがあったな。昔はぼんやりでしか見えて無かったが今度ははっきり視認できた。改めて目視できることを確認できたし今後は絶対当たらね。』
『僕の分析するのもいいけどさ...今のせんこう?って技前戦った時と名前違ったりするぅ?』
『お前が知っているのは俺が前に教わっていた流派だ。それに子供の頃は無邪気に使っていたがあの流派はスポーツ感覚で人に向けていいものじゃないから今は俺独自の技を使っている。』
『えぇ!!それが今の技なのぉ!?スキル自体も強くないって聞いてるし今の津倉土筆には期待できないなぁ。』
『木刀が効かないなら剣技は無駄。だから...』
土筆は木刀を捨てると拳を握り構える。そしてゆっくり息をはいた後息を一気に吸い込んだ。
『お前に教わったものでお前を超える。』
すると土筆の体表にオーラを纏い放射剛気拳の【包】を発動させる。
『へぇ、たった1日しか教えてないのに習得できたんだぁ。ならまだ楽しめるんだねぇ!』
蜜蕗が拳を突き出すと拳型の気を放出。土筆は構わず駆け出し顔面に思いっきり入った。
『ふん!』
土筆は首を動かし気を後方へ飛ばした。そして拳を握り蜜蕗の腹部に気を込めた正拳突きを放ち数メートル先まで飛ばした。蜜蕗はすぐに体勢を整え腹を撫でながら笑っている。
『くぅーーー!効くねぇ!【包】で体覆っているのに貫通してくるこの力強さ...鍛錬を欠かかさずに行っている証拠だぁ。これは楽しい...ね!』
『あちち!体は硬くしているしおまけに【炙】の熱蒸気出してこっちの拳の勢いを少し抑えられた。技受けて喜ぶなんて相変わらず変態だな...な!』
互いに距離を詰めると蜜蕗の素早い掌底が顔面に来るも首を傾けて避けつつ返しに腹部へ正拳突きを放つ。しかし今度は逆の手でいなされその返しで掌底だった右の肘鉄が落とされるが左腕で受け止める。土筆は薙ぎ払うかのように右腕で裏拳を狙ったが蜜蕗は大きく後退し距離をとった。
『津倉土筆!やはり君に放射剛気拳を教えて良かったよ!こんなに楽しく戦えるのも久しぶりだぁ。』
『やるかやられるかの状況で随分と呑気だな!』
『そういう津倉土筆だってメイン武器の刀を使わないで拳を使っているということは遊んでいるんじゃないのぉ?僕的には全力の津倉土筆を見たいけどぉ。』
風遊桃になってから扱いに苦戦していることを知らない蜜蕗は握り拳に気を集中させると拳に纏った気が赤く染まっていく。
『今度は気を強化させてみようぅ!さっきみたいに去なすことはできるかなぁ?』
蜜蕗は再び接近し今度は拳で殴り掛かるが土筆はあっさり躱して反撃に腹目掛け拳は放つ。しかしその瞬間蜜蕗の気が拳から離れ高速で土筆の顔を数発殴りつける。
『ぐふっ!強化されてっ!』
思わずよろけたがすぐ体勢を戻し蜜蕗の方を見ると既に距離を詰め殴り掛かろうとしていた。
『さぁ、次はどう躱す!』
もう一発土筆の顔に拳を振る抜いた。だが土筆は蜜蕗の拳を掴むと自身の気を操作して蜜蕗の腕と身体を包み込み拘束した。
『んんっ!離せ!』
蜜蕗は土筆の拘束を力ずくで解こうと集中した瞬間、力の入った土筆の膝蹴りが蜜蕗の腹部に入った。ダメージが入ったのか膝をつくと土筆はすかさず首に気を込めた強力な手刀を打ち込み蜜蕗は地面に倒れた。
『力量が同等だったこと、昔のままの性格で攻めることが好きだったこと、スキルを使われなかったことなど条件が重なったからギリギリ勝てた。正直気の形状を変えたり放ったり俺には出来ずにいて放射剛気拳の扱いは経歴の差が出ていたから勝てる見込みは薄かったが今回も俺の勝ちだ。また機会があればALTERとか関係なく武闘家として戦いたいものだ。』
『いや〜♡津倉土筆にそんなこと言われるとは...なんか変な気持ちになってくるねぇ♡』
振り返ると体をモジモジさせながら頬を赤らめている蜜蕗が立っていった。土筆は一瞬肝を冷やしたがすぐに冷静になる。
『大会の時みたいに攻撃がほとんど通じていないのかと思ったがそうでもなさそうだな。』
『【包】だって防御が高くなるだけで無敵って訳じゃないからねぇ。それにしても...』
蜜蕗は自身の身体を摩ったり怪我を見始める。
『はぁ、はぁ、こんなにボロボロにされるのは本当に久しぶりぃ。ここ最近は戦闘しても圧倒的勝利ばかりで倦怠感に精神がやられて耐えきれなくなってきてたところだったんだぁ。救いの要塞に入ったのもメンバーの強化をしたいって言われて強い人が増えれば私も満足できる修行ができるかなと思って参加したんだぁ。でもあまり僕に匹敵するほどの強者は出てこなかったけど結果的に強者である津倉土筆に会えたから参加して良かったぁ。』
『だがもう息も上がって満身創痍にも見えるぞ。』
『僕は強者と拮抗した戦いを行い互いを高め合ったりとすることで成長できると思っているぅ。津倉土筆との戦闘で久しぶりに力も発揮できてるし、最近は【包】を超える攻撃なんて受けてこなかったから今は理想の戦いができ僕はとても高揚感が溢れとても気持ち良くて嬉しいぃ。』
蜜蕗の息は荒くなり痙攣したかのよう身体をビクッとさせていた。土筆はそんな姿を見て蜜蕗が不調であると捉えた。
『はぁ、はぁ...津倉土筆...もっとちょうだい...もっと高揚感を...』
蜜蕗はヨタヨタと土筆に近づく。しかし様子がおかしく気を纏わない無防備な姿で近づく蜜蕗を見て土筆は思わず距離をとる。
『あっ、待って!僕はただ津倉土筆に攻撃してもらいたいだけ!例えば...津倉土筆の刀で僕をもっと昂らせて!』
蜜蕗はペタンと座り両手をバタつかせる
『???』
土筆は蜜蕗の発言や様子にまだ疑心的であった。
『蜜蕗その組織を抜けろ。高揚感とかよくわからなかったが俺の仲間になって適度に稽古を行おうじゃないか。そうすればお前のやりたい互いが成長し高め合うことができるぞ。組織の者は必ず倒していくが組織を抜けてくれるなら俺はお前と共にALTERを勝ち進んでいきたい。』
『...稽古...互いに成長...』
『それが叶わず俺に立ち向かってくるのなら...全力でかかってこい。ここで全力をもってお前を倒す!』
『ぜっ、全力で!?おっ!お願いします!』
その言葉に反応し蜜蕗はスッと立ち上がると身体を気でで覆い始めた。それを見て土筆も【包】を使う。
『そうか。お前が望むのは組織との共闘ということだな。んっ!?』
蜜蕗を改めて見ると【包】ではないことをしているのに気づく。先程までの身体表面を気で覆う【包】とは違い、身体を覆う気が何かを形作ろうとしている光景であった。
『放射剛気拳かそれともスキルとの兼用か...どちらにせよあいつは今集中しているみたいだし今が好機!』
土筆も拳に気を集中させると徐々に赤みが増していき次第に拳の気が発光し瞬き始めた。その瞬間土筆は一気に蜜蕗との距離を詰め蜜蕗の目の前まで近づき軸足でヒビが入るほど踏み込みをすると拳を下から突き上げる。
『放射剛気拳【爆】』
渾身の力を込めた拳は腹に入り蜜蕗の体がくの字に曲がった。すると大きな爆発が発生し蜜蕗を大きく吹き飛ばす。
『我流で編み出し始めて使ってみた技だが上手いったみたいだな。人間が作るメタンから発生したガスを拳に纏い、その上からガスと混ざらないように【炙】の熱を溜めておきタイミングよく混ぜ合わせれば爆発する一種の爆弾みたいな技だ。ガス以外の要素は取り除いているから臭い面においては安心していいぞ。と言っても聞いていないとは思うけどな...っつぅ!』
爆発させた手を見ると酷く火傷しており動かすことができなくなっていた。
『練習より威力上げてたから【包】の強度が足りてなかったか...それと、もう限界の時間だ。』
土筆は全身に強烈な痛みを感じ身体が硬直してしまう。
『この気候術俺と相性が悪いのかどんなに鍛錬しても10分以上使えないしそれ以降暫く動けなくなるデメリットが枷られるからあまり使いたくないんだよな。しかし手抜きの剣術や隙の多い風遊刀限定技、カラブランは当たる気がしなかったし勝てたことが本当に運がいい。』
『...津倉土筆...』
安堵していたのも束の間、声のする方に顔を向けると猫の着ぐるみのようなものが立っていた。
『蜜蕗その姿は何だ。』
『これは防御の包をより強化した【気包】。津倉土筆の本気を受ける為に準備したんだよぉ♡それにしても今の技教えたことない技でびっくりしたし威力が強くて久しぶりに使った【気包】でも少し痛かったぁ♡』
『俺のとっておきが軽傷かよ。』
『やっぱり強者同士の戦闘ほどゾクゾクするものはないし本当に久しぶりで興奮が治らないよ!それじゃあ私も本気出すからね!』
蜜蕗も拳に集中させると瞬く気を発生させるがそれは土筆よりもより強く瞬く代物であった。
『イメージしてやってみたけど多分こんな感じだよね?それじゃ行くよ!』
蜜蕗は言い終わりと同時に姿が消え、土筆はすぐ視線を下に向けた。
『流石の反応♡』
既に土筆の足元で拳を突き上げる動作の蜜蕗を見つけるもその直後腹部に強烈な一撃が入る。
『ぐはっ!』
土筆は血を吐き出し身体がくの字に曲がってしまう。
『さらに〜飛んでけぇ!』
直後瞬く気が蜜蕗から離れ土筆ごと上空へと飛んでいった。
『...ごっ、ごれ、はっ...まざが...』
『放射剛気拳!【気爆】』
一定の高さまで達すると瞬く気はさらに強く発光した瞬間大規模な爆発が発生した。
『はぁ...すっごい気持ちいい...土筆の開発した技凄い気持ち良かった... あぁ...やっぱり津倉土筆は凄いな。自身で技を編み出したって事はそれだけ鍛錬をしたってことだもんね。』
黒煙が広がる中一部煙の塊が下降する。
『おっ、あれは津倉土筆かなっと...ん?バリアー?』
煙が捌け中から土筆が出てくるが周囲に円形のバリアーが張られていた。
『あれは確かスペース内に侵入者が入った時のエフェクト。爆発で侵入者に気づくことできなかったかぁ。それにしても土筆何かボロボロ見えるなぁ。包をしっかり発動してればあの1発もそこまでダメージないとは思うんだけどまさか包すら使えい程のダメージだったかなぁ?だとしたら仲間が来てくれて運良く助かったみたいで良かったぁ。』
今も降下している土筆を見てホッと安堵したあと後ろを振り返り小さめのスペースが1つ作られていくのを見つける。
『仲間の方は運が悪いみたいだけどねぇ。』
スペースが長方形を作り消滅していくと中から奏が現れる。奏は周辺を見回した後すぐさまメイジーと1つになった。
『上連蜜蕗あなたがつっ君をいじめる人だね。今度は私が相手になるから覚悟しててね!』
『へぇ〜君が私の相手をね...』
蜜蕗は【気包】を解除すると奏を頭からつま先までマジマジと見ているとふと気づいた。
『君は僕が聞いてた津倉土筆の好みの女性像と近い気がするね?顔立ちや体格とかはまさに当てはまっているねぇ。ちなみに津倉土筆とはどんな関係なんだいぃ?』
『相思相愛!つっ君は私の事が大好きだし私もつっ君の事が大好き。つっ君はいつも私と一緒に過ごしてくれるし私の身に危険があるとすぐにかけつけてくれる私のナイトなんだから!でも私も助けてもらってばかりじゃなくつっ君が困っていれば全力を持って助けてあげるの!』
奏の転送が終わると意図せず乱れ縮地を発動し蜜蕗との距離ゼロにしていた。
『早っ!私が気づけないほど!?』
蜜蕗はすぐさま距離を離したが途中で止まってしまう。
『これは...糸の能力。そういえば津倉土筆の仲間に1人いたねぇ。誰かしらが始末する手筈なのにしくじったのかぁ。』
蜜蕗が考え事をしていると奏は更に蜜蕗の体に糸を絡ませて指1つ動けないぐらい固定させた。
『へぇ、これは動けないね。しかも引きちぎるには相当の力を込めないといけないみたいで力だけじゃ引きちぎれないね。』
『手足が動かせなくなったらもう戦うことはできないでしょ!降参してE-book出してくれれば痛い思いしなくて済むよ!』
蜜蕗が首を横に振り要求を拒否すると奏は徐々に糸の縛る力を上げていく。
『うっ、キツくなってきてるね。何か拷問されてるみたいで萌えるね。』
『余裕そうにしていられるのも時間の問題だよ!早くE- bookを出して!』
『やだね♡』
奏も険しい表情でどんどん糸の縛る強さを高めていく。蜜蕗は強まる毎に声が漏れてしまうが次第に声色も甘美な感じになっていく。そこまでくるととうとう根を上げてしまう。
『早く降参してよ!これ以上縛るの強くしたら大変な事になっちゃうよ!』
『君は拷問とかするのは苦手な方なんだね。まぁ、拷問は言い過ぎかもしれないけど人を追い込む事に躊躇しているとこのALTERでは生き残ることはできないよ。』
そういうと体に巻かれた糸は破裂したかのように飛散した。
『え!?』
蜜蕗は放射剛気拳の【包】で体表を気で覆い気の形を鋭利させ、いろんな角度を切りつけたことにより糸を飛散させていた。
『さぁ、次はどんな攻撃をしてくれるんだい?君の攻めを見せてくれ。』
『糸が効かないなら!』
奏はまち針を太くさせ竹刀のように構えると再び乱れ宿地の速さで蜜蕗の周囲を移動しまくる。
『ん〜やっぱりもう一回体験してもこのスピードは僕の目じゃ追いつけない。君は凄い才能の持ち主だ。』
『つっ君考案!私用の高速移動の剣技!』
奏は乱れ宿地で蜜蕗に近づき強力な一振りを腹部に浴びせる。
『んっ!でもこのまだ足りないねっ!』
蜜蕗は反撃で殴り掛かるがそこには既に姿はなくその直後腕や足へ強打が入った。目で追うも既に奏いない為、蜜蕗は気を自身の周囲に放出し気に触れる奏の軌道を読んだ。
『見えなくても位置は分かる...よっ!』
奏が距離を詰めた瞬間に反応して気を込めた拳で思いっきり殴る。
『!?』
殴ったかと思いきや奏の残像を捉え拳は空を切る。その瞬間奏の一振りが蜜蕗の顎に入り入った。
『かっ、加速して...』
顎への強打により蜜蕗の身体が少しだけ浮くと奏は更に加速しまち針での強打を浴びせまくる。そして蜜蕗の着地する3秒間に何十発も強打が入りようやく奏が動きを止める。
『高速連撃【シャトル】』
竹刀を納める動作でまち針を裁縫セットの中にしまう。いつの間にか包を解除していた蜜蕗だったが背中からぶっ倒れる。
『剣道じゃ使っちゃいけないって言われてたけどこういう戦闘ならつっ君も許してくれるよね。つっ君でも倒せなかった相手を私が倒したって聞いたらつっ君驚いちゃうだろうな。後で報告してあげないとね。』
奏は急いでこの場を離れ土筆の運ばれている所へと向かった。
しばらく移動すると熊耳様が土筆を担いでいるのが見えた。
『やっとここまで来ることができた。つっ君は大丈夫?』
『奏か。蜜蕗...あの女...』
『安心してあの人は私が倒したから。もしもの為につっ君を先に非常口で脱出させるつもりだったけどあとは私達だけだから二人で脱出の信号出してスペースから出よう。あと少しで非常口だけどこのステージ所々に地雷が埋まっているから脱出信号だした方が早くて...』
『天才児どこいくの!!!』
狂気じみた表情でこちらを見る蜜蕗が目の前に立つ。奏は怖すぎて大きく距離をとった。
『あっ!よく見ると上連蜜蕗!怖い顔過ぎて知らない人かと思った......えっ!!なんで立っていれるの!?』
『そんなの決まってるじゃん。君が本気で戦闘をしていなかったからに決まっているじゃないか。』
言いながら熊耳様に近づき気で覆っていった。すると糸の操作ができず熊耳様はぐったりとしてしまい土筆も落下してしまう。
『つっ君!』
『ずっと片手だけで僕と戦っていたから何故だろって思っていたけど津倉土筆を非常口まで運んでいたんだね。なめられているのかと思って少し喜んでしまったけどちゃんと理由があったんだね。』
『片手で戦っていただと?奏お前だって武道家なんだから蜜蕗が格上ってくらい分かっていたのになぜ全力を出さない。こいつの性格上最初は高確率で様子見で防御はしないはずだから倒せる可能性はあったはずなのに。』
『うぅ、ごめんなさい。もしつっ君がリタイア寸前かもって考えてたら早く助けなきゃって思ったから。』
『助けられている身だからもう言えん。だが蜜蕗の鑑定はもう済んだはず。油断無しでかかってくるから気をつけろ。』
蜜蕗は顎に手をおくと考えごとをし始めた。
『大したことない子だと思ってたけど君のスピードやさっきの連続の打撃を受けてその天才児に興味沸いちゃった。持ち帰っちゃおうかな〜』
『奏!標的がお前になった!今すぐここを脱出しろ!!』
奏は土筆の言葉を聞いた瞬間駆け出し素早く蜜蕗を抜き非常口には入る。
『甘い選択の模様。』
『んげーー!!』
非常口手前で地面から背の高い氷が生えてきて奏はぶつかってしまい悲鳴をあげる。
『確か逆撫奏ちゃんだっけ?僕の能力を把握していなかったのかな?』
『俺は事前に確認したが蜜蕗のE-bookは氷柱女。氷柱を出すだろうとは思っていたが案の定か!!』
蜜蕗はフラついている奏を脇に抱えると反対の手を自身の前にかざすと渦を巻く空間が現れる。
『なんだそれは!』
『これは【通り抜けワープ】っていうアイテムで中に入るとスペース内から出ることができる。それと本来スペースから出ると気を失ってしまうけどアイテムの使用者はそれが無くなるのさ。』
『蜜蕗!やっぱり奏を!』
『つ、つっ君...』
『バイバイまたね♪』
蜜蕗は手を振りながらワープゲートに入り奏を連れスペースから脱出した。スペース内が一人だけになったると土筆は急いでE-bookを取り出し脱出の信号を出しスペースから脱出した。目を覚ますと津倉家の前で蜜蕗も奏も既に姿はいなかった。
『くそっ!気に入ったものを持ち帰りたくなる所も前と変わってない!せめてものあいつの拠点がわかれば...』
周囲を見ているとポストに紙が挟まっており蜜蕗よりとデカデカと書かれていた。
‘津倉土筆へ
私は今鉄血という名前の男が作った救いの要塞というチームに所属しています。
鉄血のお家がチームの拠点になっていて私は家がないので住まわしてもらってます。そこに逆撫奏も連れていき一緒に遊ぼうと考えているので津倉土筆も遊びに来てくれると嬉しいな。
住所は裏面に書くので待ってます。
上連蜜蕗より’
内容を確認し終わると一旦家に戻り家の奥へ進んで道場に着く。道場には倉庫があり昔道場として使っていた竹刀や防具がしまわれている。奥の方進むと棚にジュラルミンケースが置かれている。
『蜜蕗が本気なら俺も本気になってやる。』
土筆が普段素振りに使っている木刀をジュラルミンケースに入れ、蜜蕗の待つ場所へと向かった。




