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辛酸な過去を変えるため皆は電子書籍を更新する  作者: 彦音梟
4章救済の暴力
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団欒

どうにか津倉家に到着すると津倉家のペット犬のかしわが三和土タタキの手前までお出迎えしてくる。


『ただいま。かしわはいつも留守番できて偉いね。』


頭を撫でると気持ち良さそうにしているかしわをよそに土筆の服が軽く引っ張られる。振り向くと綾音が何かを訴えように見つめてきた。


『どうした?普段なら言いたいことすぐ...』


すると今度は睨むように見つめてくる。そんな姿を見て言えない事案だとすぐに気づけた。前に黒騎士の正体を知るきっかけとなった件で犬の喇叭が黒騎士に頬ずりした際に綾音が悲鳴を上げてしまったことで黒騎士の正体を知り、さらに綾音が犬が苦手ということも知ることになったのだ。


そういえばこの間俺の家に来た時もゲージに入れられていたが母さんが越矢子の為に施した行為だったか。


『仕方ないか。かしわ〜ご飯にするぞ。』


『わんわん!』


土筆とかしわはリビングの方へ姿を消していく。


『じゃあ、つっ君がかしわの相手をしている間に私達は道場へ行こっか!ついてきて!』


奏は津倉家に頻繁に出入りしている為案内は余裕でできる。道場に着き奏は円を作るように座布団を敷き皆に座るよう指示する。


『やっぱりお話をする時は輪になってお話しするのが一番だよ。』


『卓を囲むという言葉もありますしやり取りや話をしするには最適な形だと思いますよ。机はありませんが。』


『まぁ、好都合なんじゃない。』


『えっ?好都合?』


『夢占いの話になるのだけど夢の中で誰かと机を挟んで対峙する際に机の大きさや形、机の上にある物でその人との関係を占うの。例えば机の大きいと対峙する人と距離が生じてしまうから親密度も低迷だとか、机が汚いと相手と嫌悪感を与えているだとか。』


『へぇ、それは面白いね。』


『今の状況を占いに重ねるなら机すら無く綺麗な状態を指しているから全員の親愛度も高く誰も忌み嫌ってはいないという感じになるかしら?』


『僕以外の皆さんは普段から一緒に過ごしていますし僕も皆さんとの親愛度を高めていけるようにしていきたいですね。』


『そういえば僕と亀梨君は初めて話すよね。同級生の永神長門です。これから仲良くしようね。』


『僕は亀梨桜兎。永神君にとって急に新参が輪に入って来た感じになると思いますが仲良くしてくれるようで凄く嬉しく思います。』


二人は握手もして皆の関係が深まっていくの感じている空気の中襖が急に開く。


『待たせたな。かしわがおとなしくゲージに入らなかったから遅くなった。』


土筆の手には小さめの座卓と湯のみなどお茶のセットを持って入ってきた。


『...あぁ、つっ君タイミングが...』


『ん?来客に茶を出しに来て何か問題あるのか?』


『いっ、いえ、とても礼儀正しいと思いますよ。』


『わ、わざわざ持ってきていただいてありがとうございます。』


土筆以外は全員苦笑いを見せる。


『とりあえず全員集まったところで情報共有をしましょう。まずは誰からにする?』


『一切悪いとは思ってはいないが空気を変えるため俺から切り出そうと思うがその前に長門は俺達と一緒でALTERのプレイヤーだ。』


『まぁ、そうじゃなければここに呼んでないでしょうね。ちなみにいつ頃からALTERを?』


『E-bookは一昨日ぐらいに家の近くに落ちてたのをみつけてたんだ。E-bookは【北風と太陽】でパートナーである旅人さんのタヒトにある程度のルールは教えてもらったよ。』


長門がE- bookの画面を見せるとローブを羽織った者が写っていた。顔は隠れていて表情は見えなかったがペコッとお辞儀だけして画面から消えていった。


『シャイな性格みたいだから気を悪くしたらごめんね。とりあえず初心者だけどみんなよろしくね。』


『はい、よろしくお願いします。プレイヤーになったばかりでバトルとは大変でしたね。ちなみにどういった能力が使えるのでしょうか?』


『えっと、スキルは気候の操作で風と日差しを操ることができるんだけど今はそよ風程度しか起こせないし日差しはだんだん暑くすることができて数分で1℃ずつ上げていく時間が掛かる力だよ。』


『やっぱりレベル1ってあまり役に立たないよな。』


ふと土筆のE- bookがバイブをしているのが分かり画面を見ると音は聞こえないが犬の喇叭が何か言いたそうに吠えているのが分かる。


ALTERでの初陣で自分は活躍したことを訴えかけよう吠えているようにも見えるが気のせいだろうと視線を離す。


『へぇ、神ちゃんお天気操れちゃうんだ!本当に神っぽくなっちゃうね。』


『レベル上げれば凄く強いプレイヤーになれるかもしれませんね。私達と一緒に神永君も頑張りましょう。』


『津倉君、改めて喋ってもらえるかしら?』


『あぁ、俺は帰る道中で偶然展開されていたスペースを見つけたから情報を収集の為にプレイヤーの確認をしたんだ。3人プレイヤーがいてその中に永神長門の名前がありスペース内探したが長門の姿は確認できず、危機的状況かどうかすら不明だったから俺は中に入っていった。』


『僕には攻撃のスキルがないからスキルで日差しを強くして相手の体力を減らしつつ逃げたり隠れたりしながら非常口を探してたんだ。そんな時乱入者が来て相手がそっちに気を取られたみたいだから隠れてやり過ごしことにしたんだ。』


『転送された先には残り2人のプレイヤーがいて戦闘になった。修行の成果もあって2人を追い詰めたが最後に不意打ちをくらいそうになったところで長門のスキルに救われた。』


『静かになったから物陰から覗いてみたら土筆が立ってて敵が倒れていたから恐る恐る近づいたんだけど敵が土筆へ攻撃をしてきたから僕は土筆を助けなきゃって思ったんだ。すると日差しが凄く強くなって敵がそのまま気絶しちゃったんだよ。』


『敵も負傷して横になりながら攻撃してきた事と砂漠ステージで非常に暑い環境だったのが良く、日差しが増し敵は暑さにより脱水症状で気を失ったと推測出来る。戦闘において俺が長門に助けられるとは正直驚かされたよ。』


『驚かされたといえば剣道苦手と校内で有名な土筆が刀を使ってたから驚いたけどね。』


『まぁ、その辺の話はまた今度個人的にするとして敵2人はについてだがどうやら俺のことを知っていて俺の事標的にしていたらしい。』


その言葉でその場の全員が既視感を覚え各々動揺したり険しい表情を土筆に向ける。


『どうやら全員心当たりがあるみたいだな。言ってしまうとALTERプレイヤーを協力して倒す為に発足された謎の組織があるらしくその2人は俺を倒すために派遣された者達だった。俺との相性を考えての事なのか分からんが刀を武器にする俺に対して中、遠距離系のスキル持ちの奴らだったよ。』


『組織の奴らは他にも徘徊していると聞いたからまず奏の安否を確認しに行ったら奏となんでか越矢子にも出会ったって流れだ。』


『そして語り部がこちらに回って来るのね。まぁ、敵に最初に会ったのは奏だからきりだしをお願いするわ。』


『きりだし?』


『話や相談を言い出すって意味だ。敵にはどうやって会ったんだ?』


『えっと、私が寮に戻ろうとした時に一二三先生と四五先生に会ったんだけど、話してて違和感があって疑って

いると実は特殊メイクを使って敵が化けて校内に侵入してたの!その人達も組織の事言っていて確かターゲットは綾音ちゃんの黒騎士って言ってたよ。』


『あれ?奏ちゃんがターゲットじゃ無いの?』


『ん〜私の事は何も...あっ...』


良かったね、でこちゃん。これであの’おまけ’も片付くね。


奏は戦闘時に市野剛茅野の口にした言葉を思い出しあの言葉の意味が自分を指していた事に少し落胆する。


『どうした?やはり標的にされていたのか?』


『あぁ...一応ターゲットにはされていたと思うよ...まぁ、そんな事より敵は私の対策はしっかり整えていたみたいだったよ。私の糸を引きちぎることができる力の能力と武器になれる能力で私の糸操作は通じなかったから。でも綾音ちゃんの作ってくれた熊耳様を持ってたからある程度はいい戦いになったけど、敵も本気になると私だけじゃ手に負えない状況になっちゃった。でもそこに綾音ちゃんがいつの間にかにスペース内にいて助けてくれたの。』


『私が学校に戻るきっかけだけど、私は帰り道に知らない男とすれ違った際にスペースを展開されて急に戦闘を仕掛けられたの。黒騎士の正体が分からないから手当たり次第にスペースを開いて私を探していたみたい。その相手から奏が狙われているのを聞いて急いで学校に向かったのよ。』


『そして2人で協力して敵も倒したってことだね。凄いよ。』


『...その事について残念だけど敵を1人逃してしまったわ。市野剛茅野いちのごうちのというプレイヤーをもう動けないと思われるぐらいまでダメージを与えた際、もう1人のプレイヤーが逃走した為にそっちの方を優先して倒すべきと判断してしまったの。逃走した敵を倒したあと市野剛がいた場所に戻ると姿は無く、スペース内にいる者の名前をE-Bookで確認したけど黒騎士の私と奏だけだったわ。』


『敵が気を失ってしまいリタイアしたというのも考えられるんじゃないか?』


『非常口に延びる血痕の後があったからそれは考えにくいかもしれないわ。今回の件で私と奏のスキルの詳細な情報が敵に漏洩してしまった筈だわ。悔しいけど。』


『まぁ、勝つことができたのですからまずはその点を喜びましょう。それより今後の為に敵の情報も教えていただけますか?』


『市野剛茅野って人は自分から行くってタイプじゃなさそうな性格だね。E-bookは【金太郎】でスキルとしてはパワー増強型って感じかな。あの人の力は大きいビルを押して倒しちゃうぐらい強力だし私の糸も引きちぎられたよ。あと専用アイテムの【亢進丸】っていうものを持ってて含んだら野性味溢れるというか野性化した感じになって普通の時より更に力が増してたよ。』


『私みたいに遠距離から攻撃できるスキルは有利だけどだからといって油断もできないわよね。』


『シンプルなパワー系スキル程厄介なものです。フィールドによっては何かを投げ飛ばしたりするかもしれませんから距離を保っても気を張るようにしましょう。』


『相性悪いと判断できたらすぐ撤退するべきだ。フィールドによって戦況も変わるからな。』


『もう2人からの報告はないかな?』


『そういえば敵組織のメンバーと思える人物の名前を言っていたわね。鉄血という人物がコンビの編成をしているそうよ。誰か知ってるかしら?』


皆口を開かず否定を示す。


『まぁ、本名とも限らないし名前だけじゃ大した情報とは言えないわね。これで私達の報告は終わりよ。』


『最後に僕と織部さんの番ですね。敵は僕を組織へ勧誘する為に接触してきました。その場は保留という事で終わらせておきましたが僕と織部さんが離れた隙を狙って織部さんが襲撃されました。その後僕も戦闘に乱入し交渉は決裂となり戦闘になりました。』


『勧誘されるってことはやっぱり僕達の力が調べられてるってことだろうね。それで戦闘の方はどうだったの?土筆みたいに圧勝だったとか?』


『戦闘の結果を言えば敗走が正しいですね。敵は男女の2人組で男性は寝杉常助ねすぎつねすけ、スキルを使うことで気功と言う護身術が使える男でその男はなんとか倒しましたが、もう1人の女性に惨敗しました。相手は出久根木音いずくねもくねと言いE-bookは【ブレーメンの笛吹き男】。能力は吹く笛によって様々な攻撃が可能。僕が把握しているのはフルートで相手を催眠状態にかけ操る能力でした。』


『私が見たのはホイッスルを吹くことで衝撃波を出す力です。大きい音で思わず耳を塞いでしまいまして、その間に近くの岩に衝撃波を溜め込めこんでいて岩を爆散させて攻撃されました。亀梨さんが庇ってくれなかったら私は危なかったと思います。』


『多分他にも笛に該当する道具を持っていると思われますから接触した時は気をつけてください。こちらから報告できることは以上ですね。』


『一通り報告はすんだわね。なら今日は終わりにして夕飯でも作ろうかしら。』


綾音は立ち上がると移動し始めた。


『えっ?いいんですか?もう少し話し合って今後の方針とか決めたりとか...』


『それはまた明日でもいいんじゃないか。今日の戦闘から反省点などあるだろうし、情報の共有したことで一旦自分の中で整理する時間を確保した方がいい。』


土筆も立ち上がるとぐ〜っとかわいいお腹の鳴る音が聞こえた。


『そうだね!何か食べて頭を働かせた方がいいよね!ねっ!』


奏は顔を赤くさせて土筆の背中を押してこの場を去り桜兎と香だけが取り残され、少々気まずい空気になってしまう。


『あの、亀梨さん今回戦闘で貴方に攻撃をしてしまってごめんなさい。操られていたとはいえ迷惑をかけてしまいました。』


『いえ、僕は気にしていませんし大丈夫ですよ。僕達も皆さんと一緒に行きましょう。』

話を切り上げて桜兎はこの場から離れようと立ち上がる。


『...あの亀梨さんに聞いておきたいことがあるのですがよろしいでしょうか?』


『何でしょうか?』


『亀梨さんはあの戦闘の際普段とは雰囲気が違ったというか、まるで別の人に変わったような感じでしたがあの時何かあったのでしょうか。』


『...僕は感情が激情してしまうと人格が変わってしまいます。何事にも冷静に考え正しい答えを模索して実行するという人格に成り代わります。多重人格と言った方が分かりやすいですかね。』


『多重人格ですか...』


『もう1人の人格は辛酸な過去の経験をして以降現れた存在です。今後は何事にも失敗したくないという防衛本能が生み出した存在だと思ってます。』


桜兎の顔が少し歪む。


『別人格に入れ替わる恩恵としては常に冷静な判断で僕の目的を確実に遂行し良い結果ばかり残してきました。その事に関与した人達からも賞賛の言葉ばかりいただいたりもしていました。』


『賞賛ですか...私は滅多にされたことないですし羨ましいですね。』


『しかし解決させたのは僕ではなく別人格の方です。僕が苦悩している案件を気づいたら解決され、記憶に無いのに感謝の言葉を掛けられるなんて正直気分が悪いです。何より......自分の劣等っぷりに嫉妬で狂いそうになる。』


『亀梨さん...』


言葉は震え、掠れていく言葉は桜兎がどれだけ悔しいを物語る。


『あっ!空気が悪くなりました!すみませんがこの話は終わりにしましょう。皆さんと食事の準備を手伝わないと。』


逃げるように部屋を出ようとしたが香に手を掴まれ退出を拒まれる。


『亀梨さん別人格さんのことを完璧と言っておりましたが今回において別人格さんは大失敗していると思います。』


桜兎は振り返り驚いた表情をさせて香の肩を掴む。


『そんなまさか!?話を聞くに敵を一人倒し織部さんを守ることで覆し難い状況を逆転させた。これのどこが大失敗って言うのですか!?』


『最後の出久根さんの攻撃が私に来た際亀梨さんが庇った事で貴方が瀕死の状態にまで追い詰められました。』


『それは僕は織部さんを守ると決めましたので...だから別人格も』


『追い詰められた原因は私を庇ったからであり、この事で亀梨さんはリタイアしていた可能性もありました!今回は運良く危機から逃れたもののこんな結末に賞賛できるわけないじゃないですか!亀梨さんは私を守ると言ってくれましたが自分を犠牲にしてまで守ってもらったって私は素直に喜べません!』


顔を紅潮させ涙の量を増していき頬を伝っていく。香に対し桜兎は思わずドキッとしてしまう。


『先にリタイアされたら私達は和解しきれずに終わってしまいます。私は多分完全に亀梨さんのことを許せていないし亀梨さんもまだ未練が残っていると思われます。私達の関係を修復するにはまだまだ時間を掛けないといけないとも思っています。だからもっと私達の関係性を深める為、亀梨さん自身の為にもあのような事はもうしないでください...』


香は手で顔を覆い表情は見えないが手の隙間からどんどん涙が流れていく。桜兎はゆっくりと距離を詰め香の肩に手を置く。


『織部さん顔を上げてもらえませんか。』


香は手はそのままに顔を上げ手の隙間から覗くと優しい表情をした桜兎が見えた。


『すみませんでした。自分勝手な行動で悲しませてしまって...別人格は僕の思う信念を実現しようとする為に生まれた存在と思っています...だから別人格の行動も僕の思う信念次第で今回のような行動はしなくなると思いますから今後は自分も犠牲にならないように考えていきます。』


『...でもそれで別人格さんが上手く行動できても...亀梨さんは別人格さんに嫉妬してしまうんじゃ...』


『確かに僕は別人格に対して嫉妬の感情しか抱いてませんでしたが今回の事で別人格に対して思い方が変化しました。』


『それはどういう...』


『織部さんの言う通り貴女に喜んでもらえないのなら別人格は完璧に対応できなかった事になります。別人格も失敗してしまうのだと思うと嫉妬心もどこかへいってしまいました。それに別人格が対応しなければ織部さんを救う事もできたかどうか。今までは鬱陶しく思っていた存在ではありますが今回ばかりは感謝しないといけないと思いました。』


いつからか香は泣き止んでおり桜兎はハンカチを取り出すと香の涙を拭う。安堵を感じられる表情やハンカチを当てがう優しさに香は照れてしまう。


『僕は一先ず皆さんの手伝いをしますので織部さんも落ち着いたら来てください。』

香はコクコクと頷き了承すると桜兎は部屋から退出する。


『はぁ〜振られた相手なのになんでこんなにドキドキしてるかな...あんなにひどいことされたのに私はまだあきらめてないのかな...それとも私ってちょろい女!?......はぁ〜あまり考えないようにしよう。それよりみんなのお手伝いしないと。』


あまり考え込むととんでもない発想がどんどん湧いてきそうな為キッチンへと足を向かわせる。


『あっ、香ちゃん遅かったね。亀梨君と何か話してたの?』


『えっ!たっ、ただの世間話だよ。あれ?津倉君、永神君、亀梨さんの姿がないけどどうかしたの?』


『彼らならお風呂よ。』


『えっ...3人で?』


浴室

土筆、長門、桜兎は浴室に来てスポンジとブラシを持ってやって来た。


『大きいお風呂だね。道場の方にこんな立派な檜風呂があるなんて羨ましいな。』


『鍛錬でかいた汗を流すのと道場の門下の奴らと交友を深めるためにわざわざ作ったらしい。家には普通の浴室もあるから今じゃこの風呂はたまにぐらいしか使ってない。』


『そうなんですか。それなら何故今日はこの風呂を使おうと?』


『奏が織部と越矢子と入りたいんだと。女子達か料理している間に久しぶりに使う浴室を男が掃除するって分担にした。それじゃ湯殿全体は俺と長門がやるから亀梨は浴槽を頼む。』


『『了解』です』


3人は掃除をしつつ、ALTERの事について語りあう。


『長門のE-bookは風と太陽の気候を操れるんだろ。やってることってもう神様みたいなもんだし凄い能力になるだろうな』


『今の僕の力って凄く役立つ気がしないんだけど大丈夫なのかな。』


『大丈夫ですよ。今回戦闘をしたのであれば経験値を得ているはずです。再びE- bookを閲覧すれば得た数値に見合ったレベルまで上がり能力もより強力になっていると思います。』


『...でも僕はこういう事は得意じゃないから少し不安だよ...』


『長門は運動の類が苦手なのもあるが何より平和主義な部分があるからそういう気持ちになってしまうか。』

土筆は長門に近づき肩をポンと叩く。


『でも長門はここぞっていうときはやるやつだって知っている。お前自身に秘めている力を認めているから俺はそう確信している。』


『土筆が認めた僕の秘めた力...一体どういう力なの?』


『それは知らない方がいい。知ることで依存してしまう可能性もあるし知らない方がより効果が発揮されることもある。だから俺が答えることは無いと思え。』


ムッとした表情から長門の不満そうな感情が読み取れた。


『今は弱くて不安かもしれないが俺達と一緒に強くなって能力の向上や戦闘スタイルを確立していくことで後々に強いプレイヤーにも臆さず立ち向かえる自信も身につくはずだ。だから頑張ろうな。』


『...まぁ、今はみんなと一緒に頑張るよ。それと土筆が認めた僕に秘めた力っていうのは自分で気付いてみることにする。やっぱり自分の持つ力っていうのは知りたいし何より土筆が認めてくれる力っていうのは興味があるからね。』


そう言うと長門は掃除を再開し、土筆も定位置に戻る。


『そういえば津倉君は放射剛気拳という気功術って知ってますか?』


その名を聞く思わず手を手を止めてしまう。


『...まさか戦った気功術ってのは...』


『はい今日戦った寝杉と言う男がそう言っていました。気という人の持つ生命エネルギーを操り、体に纏って攻撃したり周辺に飛ばすことでレーダーのようにも使えるみたいです。』


『土筆は知っているの?』


『寝杉という男は知らないが幼い頃異種格闘技の大会に出た際に放射剛気拳の使い手だった子供と対峙したことがある。何度も竹刀で打ち込んでもなかなか倒れない頑丈な身体、子供とは思えない強力な拳、さらには防いだり避けたりしても見えない何かが追い打ちで殴ってきたりしてとても不思議な力だった。互いボロボロになるまで打ち合いは続いて最後の一発をお互い打ち込むんだ時相手は倒れて俺は意識を失いそうになったがどうにか耐えて勝利した。その栄誉を称えて俺は神童とか呼ばれるようになった。』


『あ〜小学生の頃武道大会で同い年の子が優勝して神の生まれ変わりとか呼ばれてる噂を聞いたことがあるよ。凄いな〜って思ってたけど土筆なら納得かな。』


『俺が勝ったのは子供の使い手だがそっちは大人の使い手だろう?そんな相手に勝つことができたなんて凄いと思う。』


『いえ、正面から挑んでも放射剛気拳の発動している相手には軽く避けられ僕の攻撃は一切通ることはありませんでした。僕と織部さんで相手の隙をつくことができ、どうにか倒すことができたのです。僕はあの技自体はどれも対処できませんでした。』


『でもそんな強敵を倒すことができるなんて凄いよね。本選を前に組織の方も人数が減って混乱してるかもだし亀梨君は頼りになるよね?』


『敵側からしたら大きな戦力の低下になっただろうな。亀梨とチームを組めて非常に有り難いと思う。』


『あまり褒められると照れてしまいます。早く掃除を済ませてしまいましょう。あっちへ戻る頃には女性達の調理も済んでるでしょうから』


『そうだね。早く終わらそう。』


掃除を終えてお湯を溜め始めるとリビングの方へと戻っていく。すると丁度調理が終わるタイミングであった。


『あっ!つっ君達お疲れ様。ご飯できたよ。』


机には2種類のパスタ3皿ずつと人数分のサラダが並べられていた。


『時間なかったから簡単なものにしたわ。それと材料的に人数分統一できなかったからパスタは2種類にしたから好きな方を選んでいいわ。』


パスタはナポリタンとたらこスパゲッティがありどちらも美味しそうな匂いを漂わせていた。


『なんかナポリタンが一皿だけ2人前ありそうなのあるね。』


『あっ、それつっ君の。』


『なんで俺には選択権が毎回ないんだよ...まぁ、パスタの中では一番好きだからいいが。』


文句を言いつつ大盛りの皿を取ると奏も同じナポリタンを手に取る。


『じゃあ僕はタラコの方をいただきます。タラコとバターの相性が良くて好きなんです。』


『僕もタラコの方をもらうね。バターとか甘いのが好きでケチャップのしょっぱさが少し苦手なんだよね。』

男二人はタラコスパの皿を手に取る。


『じゃあせっかく自分で作った方をいただくわね。香はナポリタンでいいかしら?』


『私はどちらも好きなので大丈夫です。』


各々食すパスタが決まり全員で手を合わせる。


『それでは皆さんご一緒に『『『『『いただきます。』』』』』』


声を合わせると思わず皆笑みを浮かべ食事が開始された。


『ん〜美味しい♪タラコの風味をバターの甘さが引き立たせて美味しい♪』


『確かに美味しいですね。それに食べた後はほんのりさっぱり感もありとても不思議な味わいです。』


『ふふ、亀梨君は気づけたのね。実は隠し味にレモンの皮をすりおろしたのを水気を取ってから入れたの。そうすることで後からさっぱりとした味わいになるの。』


『あ〜やっぱりこのナポリタンは奏が作ったやつだな。量もだが調味料とケチャップの割合がいい具合に馴染んだ美味さは間違いないない。』


『野菜のサイズは丁度よくボイルされたソーセージもいい具合にパスタと絡み、まぶされた粉チーズがナポリタンの味わい深さを引き出していますね。』


『つっ君の好みに作ったら自然と美味しくなったんだよね。』


『やっぱり美味しいのね。私も隣で調理しながら見てたけど結構気になってはいたのよ。』


『なぁ、越矢子。』


『何かしら?』


土筆はフォークでパスタを巻き取り綾音の方へ差し出す。


『食うか?』


『『『えっ!?』』』


その一言に三人は驚き、一人は特に気にせず、言われた本人は状況を把握できずすぐには口が開かなかった。


『...えっと...津倉君?いったいこれはどういうことかしら?私に対してこんな...』


『越矢子にはまたこうやって料理してもらう機会があるかもしれないし今からでも俺好みの味を把握してもらおうかと思ったんだが?だめか?』


綾音はジッと差し出された物を見つめると目を閉じ口をゆっくりと開け、土筆はそれを確認してから待たせている口元へと運んでいく。


『つっ君!?さすがにそれはダメだよ!つっ君は女の子にしちゃヤダよ!』


『はぁ?それってどういう...あぁ...』


奏の口にした発言に一瞬疑問符を浮かべたがすぐに察し、運んでいたパスタをそのまま自分の口に収めた。


『なんてな。越矢子今のは冗談だ。普段から俺の事をからかっているお前をかってみただけだ。』

綾音はため息出すと自分皿の方に向き直り自分のパスタを食す。


『...まぁ、そういう魂胆だと思ったわ。』


桜兎は状況が分からずにいると香が耳元に寄ってくる。


『津倉君はよく綾音ちゃんにいじられている為あまり綾音ちゃんの事よく思ってないんですよ。』


『へぇ、それであの行為には皆さん動揺なさっていたのですね。どうにも津倉君のあの行動は自然のようにも見えましたし皆さん騙されましたね。』


『済まないな。俺の演技がリアリティーがあり過ぎたせいで空気が変になったな。風呂の湧く時間もあるし食べてしまおう。』


『私も賛成だわ。早く入って早く寝たいし。』


その後はたわいもない会話を楽しつつ食事を済ませ、洗い物は男性陣がやる事になり女性陣は風呂場へと向かった。


『ふぅ〜やっぱり広いお風呂って足伸ばせていいね。それにこうやってみんなでお風呂なんて修学旅行以来だしなんか楽しいね。』


『今回は3人だけだし騒がしくなくていいわ。そういえばあの時もこうやって香の胸を揉んでいたわね。』


『ちょっと、綾音ちゃん!くすぐったいですよ。やめてくださいよ。』


湯船に浸かっていると綾音が香りの胸に手を伸ばしその柔らかさを堪能する。その姿を見て奏は羨望の視線で二人を見ていた。


『あれ?奏ちゃんどうしましたの?何かを訴えたいような表情してるけど。』


『二人とも身体つきが大人の女性って感じで羨ましいな〜と思って。』


綾音は身長がありすらっとしいて更に胸もあるモデルのようなプロポーションを持ち、香は体格などは平均的な女性だが綾音より胸が大きく魅力的な身体つきを持っているのが伺える。そして自分に無い胸やくびれや尻などを眺め大きく溜息をはく。すると奏の頬に手を差し伸べる。


『奏、こういった表面上にあるものも人の魅力ではあるけれど人の魅力で重要なのは中身だと私は思うわ。』


『中身?』


『そう、例えばセンスがある人にはその人の持つ技術や能力に憧れたり、リーダー気質な人に先導され良い結果へ導かれた時にずっとついて行きたいって気持ちになったり、優しい心を持つ人に親切にされて惹かれていくなどが挙げられるかしら。』


『まぁ、それも魅力だとは思うけど...』


『その人の人間味を知れば知るほどその人の印象が深く心に響いていき早々覆ることはなくなるわ。人の内面を知ることは時間が掛かってしまうけど一度知り、好意に変わればその気持ちは冷め難いものとなるの。表面上の魅力でお付き合いできても早い段階で飽きられすぐ終わってしまう事が多いらしいから表面上のステータスなんて気にする必要はないわ。』


『そっ!そうだよね!表面より内面の方が重要っていうのがよく分かったよ!ありがとう綾音ちゃん!』


『あっ...』


奏は暗かった表情も明るくなり綾音に抱きつく。しかし再び表情を暗くし綾音から離れ四つん這いになり落ち込む。綾音はしまったという表情をした。


『えっ?あれ?奏ちゃん元気になったのにどうしたの?』


『私に無い綾音ちゃんの大きいな胸...柔らかく弾力性もあって不思議と安心感も感じられた...でもすぐに羨ましさが再び高まった...やっぱり少しは女性らしさが欲しい...』


奏は酷く落ち込んでしまい香はどうにか奏を元気付けようと近づくが綾音に静止させられ首を横に振られる。奏は生の感触を体験し改めて大きい胸への羨望を抱くが自分には皆無という現実に酷くショックを受けているのだ。

そして奏の心を治癒できる者は此処にはいないことも綾音は知っていた。持つ者が何を言っても、無い者の心は癒せないと分かっているからだ。しかしそんな中でも香は1つの妙案を思いついた。


『そっ、そういえば津倉君ってどういう女性がタイプ何でしょうか?』


『...つっ君のタイプ?』


土筆の大切な人は奏で有るとなんとなく程度だが断定しているため好みも奏寄りと思っての発言であった。


『幼い頃から津倉君と一緒にいるから奏ちゃんなら知っているかと思ったんだけど。』


『...私つっ君のタイプ知らない。』


『『えっ!?』』


何故把握できていないと衝撃を受ける。


『あっ、そういえば私前からつっ君に好みの女性像を聞いてはいたんだった。でも毎回そんなことよりって返しで逆質問されてる気がする。』


『なるほどね...』


綾音は土筆が明らかに茶を濁していることを察する。幼少期から行なっている徹底ぶりに関心と納得をする。


『じゃあ今度はちゃんとした解答を得るまでちょっとしつこく聞いてみればいいんじゃないかな?』


『多分解答はないと思うわ。』


『えっ?何でですか?』


『彼は...そう、特段女性の好みというものは無いということよ。私みたいなモデル系や香のようなグラビア系、奏のようなロリ系が揃っているのに下心的な感情を明かさないあたり男として可笑しいわ。まぁ、彼自身剣技に磨きをかけすぎたり奏とばかりいたから異性に疎いところがあるかもしれないけどね。』


『なるほどね...あれ?私も異性...』


『とにかく今は体型とか彼の好みとかで悩まず現状維持でいましょう。ALTERこともあるし自分がどう成長し、強くなっていけるかを考えていきましょう。』


『う〜ん...今はとりあえず目の前のことに集中してみる...』


綾音は奏の発言を聞き頭を撫でていくと、一足先に湯船から出て浴室を退出した。残された2人はしばらく入り続け香が話しかけるも奏が少々うわの空状態であった為、会話が成り立たたず香は口を閉じて入浴することにした。



綾音は道場の何処にドライヤーがあるか分からず、家の方へと戻ることにした。


『あまり使っていないって言ってたし道場には置いてないのかしら。奏に聞こうにも今は少々気まずいし本宅の方なら確実にあるわね。』


居間に行くが誰もおらずとりあえず風呂場の方へと向かった。ドアは閉まっていたが電気など付いておらず誰もいないと断定して中に入った。


『明かりを付けて、ドライヤーは...やっぱりあるわね。』


脱衣所には洗面台と鏡もありここでドライヤーを使おうとした。するとガチャと浴室のドアが開き鏡に反射した土筆と目が合ってしまう。


『あっ、ごめんなさい。まさか入っていたなんて...』


振り返ると土筆の上半が身裸なのを確認でき、情景反射で下の方にも視線を下ろしていく。


『お前、変なラブコメの王道みたいに視線落としてんじゃねぇよ。悲鳴上げるぞこらぁ。』


視線が下りきる前に土筆は一瞬で距離を詰めると綾音は少し驚いたがすぐ状況を把握する。


『わ、私がこんなことで悲鳴を上げるわけないでしょ。甘くみないでちょうだい。』


綾音は腕を組みそっぽを向くと土筆は綾音の顔に両手を添え、優しく自分の方へ向かせ、見つめ合う体制になった。土筆の方から仕掛けられるのは初めてであった為動揺する。


『ちょっ、津倉く...』


『喋らず目を閉じろ。』


目を閉じさせる行為の多くは不快感を感じるものを見せたくない他、キスをする時などが思いつく。この状況においてどちらの可能性が高いか考えはまとまらず思わず目を閉じてしまう。ドキドキと心臓の鼓動がざわめくなか片方の手が頬から離れると思わずビクッと震える。


『どうした?不安か?』


首を横に振り否定。どういうわけか土筆にされる事に凄く敏感になってしまっているようであった。


そして何もされずに数秒間待っていると浴室のドアがガチャと鳴る。その音に反応して目を開くと閉じる前と同様に土筆の顔があった。


『もう、安心だ越矢子。』


『...どういうこと?』


『あぁ、オレと一緒に風呂に入ってたかしわだけどお前がいたから一旦浴室戻ってもらった。』

綾音はそっぽを向き冷静な声で答える。


『ふん、勿論ワンちゃんの気配には過敏だから気づいていたし、だから津倉君の指示にも従ったのよ。それじゃあ私は出るけどドライヤーだけかりていくわね。』


綾音は脱衣所を出ると再び道場の方へと戻って行った。綾音も去ったので柏の体を吹き始める。


『かしわ、さっきの女は越矢子っていう名前で犬が苦手な奴なんだ。鏡越しで表情見えてたが相当かしわのこと怖がってたみたいだ。』


かしわは首をかしげこちらを見てくる。


『冷静を装っていたがかしわの存在に気づいていたらしくて体を震わしていたし普段見せないような表情だったぞ。黒騎士の時も喇叭って名前の犬に引っ付かれて絶叫と興奮していたけどあの時も今みたいな表情だったかもしれない。』


かしわは首をかしげるのを止め鼻をふんっと鳴らした。


『普段は俺の話をきいてくれるのによく知らない奴の話なんて興味ないか。それにしてもあんなに興奮して顔を紅潮させた越矢子の表情は新鮮だったな。』


かしわはもう一度鼻をふんっと鳴らし呆れているようにも見える表情を見せた。





ドライヤーをやり終え移動しているとふと家の中とは違う香りに気づきとある部屋へと入る。そこには仏壇があり奏の両親の遺影が置かれている。


『津倉君の話通りここに遺影があるのね。』


綾音は線香を立て遺影を手に取り写されている写真の人物をジッとと見つめると徐々に瞼が熱くなっていく。すると急に襖が開く音が聞こえ慌てて遺影を戻し振り返った。


『あっ、驚かせてすみません。綾音ちゃんがここに入ったのが見えたので気になってしまって...』


そこには香がいて中へと入ってくると仏壇に近づく。


『奏も一緒にいるの?』


『いえ、奏ちゃんは一足先にに出て道場にお布団敷きに行くって言ってました。』


『そう、ならいいわ。ちなみにこの遺影は奏の両親の写真。あの子の友達として私も挨拶しないとって思ってね。』


『そうなんですね。では私もお線香を...あっ、写真がっ!』


置き方が悪かったのか遺影が倒れそのまま落下してしまったが香は手を伸ばしキャッチした。


『ごっ、ごめんなさい、助かったわ。』


『綾音ちゃんもたまにはミスしちゃうんですね...あれ?裏にも写真...えっ?これは?』

遺影の裏には小さい女の子が写っている写真があった。


『あの、この遺影の裏に写真...しかもこの女の子...絢音ちゃんは何か知っているんですか?』

香は写っている人物について興味を示す。綾音は嘘をつかない性分の為に知っている事についてはキチンと答える。


『.........』


しかし絢音はなかなか答えないでいた。これで知っているが答えにくい内容というのが香には把握できた。すると綾音は次第に口を開く。


『その子は津倉紗倉ちゃん。津倉君の妹さんで私の幼稚園の1つ下の子だったからよく面倒をみてた子なの。紗倉ちゃんは幼稚園で発生した事故で亡くなってしまて、津倉君は紗倉ちゃんが動機でALTERに参加していると思われるわ。』


『あれ?妹さんでしたか...あっ、すみません!綾音ちゃんにとっても辛い話でしたよね。思い出させてしまってすみません。』


『私は大丈夫よ。でもこの事は他の人に言うのはやめなさい。プライベートな内容で言い回していい事ではないから。』


『それはもちろんです。しかし何故こんな隠すように飾っているのでしょう?普通に飾ってあげたほうが妹さんも喜ぶと思われますが。』


『...津倉家の事情よ。あまり疑問など持つのはやめなさい。さぁ、部屋に戻るわよ。』

綾音は遺影を元の位置に戻してもらい香の背中を押して部屋から出た。


『そういえば津倉君の妹さんって誰かに似てるなって思ったんですけど...んぐっ!』

綾音の手が香の口を塞ぐ。


『津倉家の事なのだから私達が勝手に語っていい事じゃないと言ったはずよ。こう言う事がきっかけで友情にも亀裂が入ってしまう事もありえなくは無い事だから気をつけなさい。』


香が目を大きくさせ激しく首を縦に振ると抑えられた口を解放される。


『うぅ、私お友達がいなくなることは絶対嫌なんですよ。だから脅さないでくださいよ〜』


『私はこの面子が結構気に入っているし失いたくないと思っているからチーム崩壊の抑止は全力でさせてもらうわよ。』


『脅されてちょっと怖い気はしますけど綾音ちゃんがこの繋がりを守ってくれるって言ってくれると頼もしいしとっても嬉しいです。』


香は綾音の腕にくっ付き一緒に道場の方へと向かった。


道場に着くと既に布団が敷かれており川の字が二つ出来上がっていた。


『丁度良かった。越矢子はこの6つ並べられた布団を見て何か思わないか?』


綾音は首を横に振るとかモゾモゾと布団に入りすぐ寝付いた。


『...寝た?』


『あぁ、綾音ちゃんは凄く寝付きが良いタイプで道場に向かう道中で既に眠そうにしてました。何か綾音ちゃんに用でしたか?』


『いや、奏が全員分の布団をここに出したもんだから男女が揃って同じ部屋に寝るというのは如何なものかという建前を出しつつ俺は1人自分の部屋で寝たいという本音を実行する為に越矢子から奏に言い聞かせてもらおうかと思ったんだ。』


『つっ君がそんなこと考えていたとは...でも綾音ちゃんもこのメンバーなら問題ないと思ってるから安心して寝てるんだろうからつっ君も諦めて一緒に寝よう。』


『...全員がここに来たら多数決で決めよう。』


しばらくすると長門、桜兎も風呂から戻り全員が部屋に集結する。男女一緒の部屋で寝る多数決は女性陣の判断が可能となり長門と桜兎も女性陣に合わせる形となり全員同じ部屋で寝ることになった。

その後話し合いの続きをする案も挙がったが綾音が起きる気配が無いため就寝を選択することになった。しばらくすると皆疲労が溜まっているのか布団に入るとすぐに寝付いてしまったが土筆はなかなか寝付けず身体を起こす。

正面は女性陣だが寝相が悪いのか奏が越矢子の布団に入っているのが確認できる。横を向くと長門も寝相が悪いのか布団からはみ出し服装が乱れているのが確認できた。


『やれやれ寝相が悪いのが多いチームだな。』

微笑しつつ長門の服を直してあげると少し気持ちが落ち着いてくると徐々に眠気もやってくる。


敵組織に関して武道に長けた人物の存在を知り自身の闘争心が浮ついていたが仲間のしどけない姿に気も緩む。

心地よい関係の仲間達とALTERに参加した事で今まで知り得なかった情報も把握できよりいっそ関係を深めていけそうな気がして好ましく思う。そう思うとやはり誰一人欠けさせぬよう士気を鼓舞していくことにする。


『...しかし長門...女装とか...面白いギャグだな...ブラつけるとか...』


さらにシナジーっていた長門であった。 


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