怨嗟
〜回想〜
土筆6歳 紗倉5歳
『うぅぅ...紗倉...もういいんじゃ...ないかな...』
『はぁ...はぁ...だ...駄目ですよ...私はまだ...ぅん....満ちてない...ですから...』
『だけどもう僕は...うっ!...げ...限界が...いかせてよ...』
『ふふふ、お兄はもう...んん...限界なんですね...分かりました...あと少しで満ちるので...それまで我慢してもらいます。』
しかし土筆は紗倉の行動に反するように体を引き離す。
『いやいやいや、もう僕も学校へ歩き出して行きたい時間になっちゃうから。擽ったいからお腹に巻きついた手を離してよ。』
毎回紗倉を幼稚園へ送って行くのだが今回はアクシデントによる停滞を食らっていた。
『いけません!私にとってお兄の匂いを嗅ぐ行為はリラクゼーションの真っ只中なんですからね!怠ってしまったら私はストレスで鬱病などの気分障害になってしまいます。』
顔を上げた紗倉の顔は紅潮し少々息の乱れを生じていた。
『り、りらっ?まったなか?紗倉難しい言葉を言って誤魔化すのはやめなさい。いつもお家で抱きついているんだし寝坊した今日ぐらいは我慢してもいいとは思わないかな?これだと僕は走らないと間に合わなくなるじゃないか。』
『お兄は色々言いますが結局は拒まずに私の行動を受け入れてしまうのですね♪』
紗倉が離さないでいると周囲から注目されているのが分かり一部の園児が近づいて来る。
『紗倉ちゃんはまだ土筆お兄さんに甘えているのですぅね!』
『来年には小学生になるのですからもう少し大人に近づけるようになるべきだと思うのー!』
『あぁ、土筆さんに...羨ましぃ...あっ!いえ、なんでも!』
『あら、智恵さん、智恵さん、智恵さん、おはようございます。皆様からのご意見有難いですがこの行為自体は皆様も普段やっているのではないでしょうか?』
『『『?』』』
3人が疑問符を浮かべていると紗倉は続ける。
『一般に私達の年齢層では両親にスキンシップ...つまり甘えるなどして安心感を得ようとするらしいのですが私の家庭では両親は基本的に不在がちなので変わりにお兄に甘えているだけなのです。しかし皆様のご意見もごもっともであり尊重した方が私の為にもなるのでもう少しスキンシップを控えながら過ごしてみたいと思います。』
紗倉は土筆から離れると3人にニッコリと笑顔を見せる。
『そ、そうですぅね!私もよくお母さんと手を繋いだりしてますぅし少しくらいは土筆お兄さんと仲良くするのもいいかもですぅね。』
『聞き分けが良くて紗倉さんはいい子なの〜私のアドバイスが役に立って良かったの〜♪』
『そ、そのうち私も...お兄さんと...い、いえ、なんでも!それでは!』
彼女達が満足気な顔をして園内へ入って行くと紗倉は溜息を1つ吐きニッコリ笑顔が解除される。
『全くあの方達は何様でものを言っているのでしょうか。私とお兄の間には入る隙間すらないのですから嫉妬を抱く理由なしで祝福していただいてもいいと思いますが...』ダキッ
『あの子達が見えなくなった途端に抱きついて...早く逃げていれば良かったかな〜』
『私とまだ一緒にいたがるとは体は正直ですね♪』
『話題に僕が出てきたから逃げにくかったの!』
『あら、土筆君と紗倉様。おはようございます。』
園内から土筆のクラス担任だった教師が挨拶をして来る。
『おはようございます。』
『おはようございます。じゃなくて聞き間違いでなければ今紗倉に様付けしていませんでしたか!?』
『紗倉様は私達の仕事を手伝ってくれたり教師の目の届きにくい範囲の揉め事を解決してくれたりして助けてもらっているのです。』
『一緒に通ってた時は行きと帰りしか見たことなかったけど紗倉は休憩時間とかそういうことしてたんだね。紗倉がいい子だと兄の僕も嬉しいよ。』
『お兄が通っていた時はお兄が視界に入る範囲で友達と遊んだり観察をしているだけで慈善活動はしておりませんよ。』
『何それ怖いよ!やってることもう危ない人の行動だよ!さっきの褒め言葉返してよ!』
『私はお兄が居なくなってからは暇になったので悩みを抱えてそうな生徒を見かけては声をかけ話を聞き解決まで導いたり、劇で使う着ぐるみを裁縫の苦手な先生の代わりに縫製などをしてあげただけですよ。』
『暇をつぶす為にそこまでの行動ができるならお家でも僕に家事させてばかりじゃなくてお手伝いをしてくれてもいいのに...』
『紗倉様は凄いのよ。その相談の解決を繰り返したことによって生徒の4分の3は紗倉様の指示1つで従うくらい重巡になっているのよ。そうね、宗教でいう教祖様とその信者のような感じね。』
『紗倉僕がいない間に本当に周りの人に変なことしてないよね?』
紗倉はふるふると首を横へ振った。
『他に裁縫だけど2mはある熊の着ぐるみをミシンを使って一人で作ってくれたのよ。お陰様で劇は大成功、劇で使った後で私が中にパンヤっていう綿のようなものを詰めてテディベアにして画像をネットに投稿したら凄く評判が良かったのよ。その後市の方から連絡が入って博物館に置かせてもらいたいと言われたので一時的に貸していたのを更なる好評により今度から国立の博物館に移動が決まっているのよ。』
『博物館行って見に行ったけど出展者にここの幼稚園の名前があって凄いと思ってたけど実は紗倉作なの!?あそこまでの作品ができるなら家庭でやるような裁縫なんて簡単だよね?』
紗倉はふるふると首を横へ振った。
『あと給食の方でも栄養士さんと一緒に様々なメニューを考えているのよ。既に何品も紗倉様の考案料理が給食に並べられているんだけどこの間紗倉様が考案、調理したテリーヌを試食した時には思わず涙が出てしまったくらいの逸品で今度正式にメニューに導入されるのよ。紗倉様が来てからの給食の時間は待ち遠しくなってきてるわね。』
『紗倉お家でも料理を...』
紗倉はふるふると首を横へ振った。
『紗倉様はこの幼稚園に貢献し多くの人達に慕われているの。そんな迷える子羊を導くクリスチャンのような働きはもう神や天使の領域。そんな神仏のような行為を称えて我々職員は紗倉様と呼ばせていただいているのです。』
『...なんか僕はもう驚く事ばかりでもう学校に行く元気が無くなってきそう...あっ!そうだよ学校!大変だ早く出発しないと!紗倉もう僕行くから!』
どうにか紗倉を離れさせると駆け足で学校へ向かう。
『紗倉はお家だと構ってちゃんだから一人にするのは不安だったけど相手を立てたり相談に乗るとかして人に好かれてはいるから安心はしているかな。少し違和感のある好かれ方ではあるけれども...』
こうして約10分程紗倉の事を考えながら学校まで走り遅刻は免れる。
〜回想終了〜
『さ、紗倉が詩音を...う、嘘だ!紗倉は幼いながらも良識があって賢い子だ!友を危機に晒すような事をするわけ...』
『本当ですよ!あの幼稚園で起きた事故の原因って何だったか覚えてますよね?』
『あぁ、幼稚園の裏手のゴミ捨て場からの出火によって園内の周囲を囲う木々に引火、そこから建物にも移った事が2人を死に追いやった火災の原因だ。確か出火は可燃物の不始末となっていた筈だ。』
『そうですね。当時の警察の検証によって導き出された解答はそのようになっておりますがそれは少し違います。』
『何っ?』
『事件が起きた際被害を喰いながらも命脈を保った人達の話を一通り聞きました。今から話すのは僕のまとめた見解です。』
『当初4月の某日の夜、園内にはお泊まり保育で30人の園児と教員3人、その年に卒園した小1子の子が1人遊びに来たそうで計34人の人間がいたようです。』
『その日教員の1人が紗倉さんから花火をしていいか聞かれたようですが結論としては否定したそうです。しかし被害に遭われた子が言っていました。複数人の子達が御手洗いと称して花火を持って園内の裏手へ移動しているのを目撃したようです。その後その子達が戻ってから少し経つと火事が起こったそうです。』
土筆はその間動かないで釈然としなさそうな表情をしたまま話を聞いていた。
『間違いなく花火の不始末が原因になり得たでしょうし夜で寝静まるような時間帯だった事もあり建物に燃え移るまで気づくことができなかったようです。いざ避難をする際ほとんどの園児達は教員の指揮のもと避難がなされましたが一部の子達が火事発覚より前に姿を消していたようで3人の教員が探しに行ったのですが避難済みの児童の中で行方不明の子達を心配して大人がいない間に建物の中に入ってしまったのです。その中には詩音の姿もあったそうですが、詩音のことだから行方知らずの子達の中に友好的に接していた子がいたんでしょうね。そして緊急車両がやって来て避難や消化活動が行われ騒動は静まりました。これが事件の一連の流れです。この事件で亡くなってしまったのは2人の女の子らしいですよ。』
『1人は紗倉...崩れてきた建物が落ちてきたと聞かされた...』
『そうです。後紗倉さんの事ですが自分のではない靴を握っていたと聞いています。そしてもう1人の被害者の詩音ですが病院へ緊急搬送されていったのですが一度は一命を取り留めましたが再び容態が悪くなって手術が行われるとオペの最中に息を引き取ってしまいました。さらに緊急車両に運ばれる際、片方靴が履いていなくて譫言のように紗倉さんの名前を呼んでいたそうです...』
『そ、それって!』
『分かりますか!花火の許可を申し出たってことは火災の原因を生んだ者で確定であり僕の妹の詩音は君の妹の紗倉さん殺めたも同然なんですよ!津倉君がALTERにいる目的は自分の妹を救う為でしょう!僕は紗倉さんを許すことができませんので彼女を救おうとする君のALTERはこの場で終わらせてもらいます。』
そう言うと亀梨はE- bookを操作し始める。
『終わらせるってお前もボロボロでもう動けないんじゃ...?』
あれ?亀梨の奴さっきまで膝に手を置いて体を支えていたのに今は普通に立っているだ?
『カハッ!』ミシミシ!
亀梨が一気に距離を詰め膝を土筆の腹部にヒットさせ体をくの字に曲げさせるともう一発蹴られ壁に叩きつけられる。
『いつ...回復を...』
『話し中に決まってるでしょう。回復薬【錠剤】。含んでから徐々に回復していくアイテムです。今度はクニーのレベルも更新しました。今度のレベルからはクニーとテスト両方のスキルが使えますから君の勝てる見込みはもうありません!』
『ワンワン!』『ホーー!』『ウギーー!』
土筆の危機を察知し3匹のお供が一斉に突進を開始するとそれに対して亀梨は片脚を上げた。
『solis...』
足先に薄くオーラのようなものを纏い始めそのオーラが間を置くごとに瞬いていき力を溜めて迎撃準備にはいっていたがそれに構わずお供たちは足を止めることをやめない。
『あれは...ダメだぁ!』
土筆は手を伸ばして抑制を促す。
『exploding!』
バーーーーン!!!
力強く地に足を下ろした瞬間狭い範囲ながら大きな爆発が起きお供達のいる範囲を巻き込む。爆発の際に発生した爆風にさらされるも手も下ろさず爆発した方向を見続けていた。
『亀は日光浴をする習性があるようです。まぁ、それは病気にかかりにくい体を作る為らしいですが。僕のテストも日光浴をさせると日光のエネルギーを吸収し溜まる事が出来るようです。その溜めたエネルギーに強い衝撃を与える事で今みたいに爆発を起きます。あの爆発に巻き込まれた君のお供達はもう戦うことはできないでしょう。ふふふ、これで君の心を傷つける事ができた筈ですし嬉しいですよ。さぁ、そろそろ煙もはれますからお供達の焼け焦げた姿をご覧になって更に心を痛めてください。』
亀梨を中心に扇状型に爆発した地面の煙が減っていくとそこには焼け焦げた地面だけで何も形あるものはなかった。
『...まさか骨も残さないほどの威力と火力を持っていた?いや、初めて使った技ですがそこまでの威力はないのは分かります...となれば土筆君、君か。』
『はぁ、はぁ、はぁ、くっ!爆風で目がっ!でも、どうにか助けられたか...』
土筆の持つ召喚スキルは座標を決め魔法陣を呼び出し動物達を召喚または帰還させるという手順の間ずっと目を見開く必要があり、今回爆風に当てられる中でも土筆は開眼していたので眼球が充血をしていた。
『やはり...察するに退避させたのでしょう。呼び寄せる事ができるのなら追い返す事だって可能でしょうから。動物達には逃げられてしまいましたが津倉君がここで敗北する事には変更は無いので気にしないでおきましょう。』
亀梨は足元にあった岩石を手に取る。
『今のスピードなら捉えられることはないでしょうが土筆君に近づくと斬撃でも飛んできて偶発的にも当たってしまう可能性もありますから念には念を入れておきましょう。』
亀梨の手から光沢のある流動的な物質が出てきて岩石を包み込むとそのまま形状が変化していった。
『metallum animalis “tESTUDO“』
出来上がったのは金属性の亀で生命があるかのまるで本物のようにのしのしと鈍く歩いていた。そいつを亀梨は拾うと自分の足に同じ素材の靴を創造し亀を靴に密着させそのまま亀は引っ付いてしまう。
『何を..?.』
『先程の剣さばきができなければ君は終わりだ!』
亀梨は片足を後ろに高く上げると一気に前方へ蹴り出して引っ付いてた亀が分離し土筆に向かって飛ばす。
『くっ!』
どうにか避けると亀は土筆の真後ろにあった岩石にそのまま突っ込んで岩石を破壊して砂塵の中へ消えていき
その光景を見て土筆はホッと一息つく。
『それをただの飛礫と思っているのですか...』
土筆は亀梨の言葉に反応し周囲を見回すと上から亀が既に向かってきているのに気づく。
『ち、近っ!』
『残念、もう遅いです。』
ズドーーーーーン!!
高所から落下した亀は地盤を破るほどの威力を誇り土煙の量も多く立ち込める。
『彼の斬撃なら止めるのも容易かったでしょうがそれが出来ない以上テストの動きが止まったとなると土筆君を攻撃できたみたいですね...』
次第に土煙も薄くなっていくと徐々に状況もみえていく。
『...しかし彼はまだ生きているのは確実なはず...何故ならフィールドが消えてない...』
煙が晴れると土筆から少しずれた位置に金属の亀とそれを射抜く矢が突き刺さっていた。
『矢!?土筆君でないのは確実!となるといったい...』
亀梨が動揺していると木から飛び降りる影が一つあり土筆の前に降り立つ。
『まさかこのような場所で再開できるとは思いませんでしたよ。何故か名前表記されないず仮面で顔を隠し性別も不明、開示されているのは異名のみ、その名は...』
『放浪する漆黒のロビン・フッド!』
E-bookまとめ
名前 亀梨桜兎 E-book ウサギとカメ
兎の生態 Level:6 up
・脚力の威力up
亀の生態 Level:6 更新
・扱える金属を思い通りの形状に成型できる。(動物類なら操作が可能)
技
solis exploding
日光を浴びつつ停止することにより浴びた分火属性の加護を得られ、得たエネルギーは強いショックを与えることにより爆発する。
ラテン語 solis→日光 exploding→爆発
兎と亀のレベルが5を超えた時点で兎、亀のスキルを同時に使用することが可能。