強化
パリン!
『ぐっ!』
土筆の抜刀と同時に亀梨はテストをグローブから大型の盾に切り替えていて、それを斬りつけた土筆の模擬刀"杏子"は半分に割れてしまった。そのまま盾ごしに接近され土筆はタックルをお見舞いされると刀を落として飛ばされた。
『貴方が刀を振るうタイミングを待っていました。』
『痛っ...グローブが...盾に...なっただと!』
よろよろと立ち上がり盾を眺めていると亀梨の薄ら笑いをしていた。
『僕のテストの能力はグローブへの変形でなく防具への変形です。 折角の大技が決まらないで残念でしたね。』
『別に閃光が決まらなかったことはどうでもいい...そんなことより亀の力で作った防具はあまり光沢がないグレーが特徴的だった。だから金属は鉛並の筈だ...そして俺の模擬桃"杏子"は鉄製でサイズが大きくなろうと硬度に関してはこちらの方が硬いはずだ...』
『何故硬さ負けしたか知りたいなら動揺などせずに落ち着いてこの盾を見ればいいと思いますよ。君なら分かるのではないでしょうか?』
『?、どういう......!!』
盾をよく見ると表面は色調が抜かれ白色寄りになり光沢を帯びていた。
『金属が...変わった...ということか。』
『僕は倒れていた最中にE-bookを操作してテストのスキルレベルを上げることによって金属具現化の能力を更新したのです。先ほどまで鉛までの硬度を白金クラスまで強化させました。硬度は鉄とさほど変わりませんが刀の方が細い分強度はこちらが勝ったみたいですね。』
『馬鹿な!何故事前にレベルを上げておかない。上げることはメリットでしかないだろ!』
『今上げるメリットならありましたよ。お陰で貴方のその遺憾そうな表情が見れましまから。』
『お前悪趣味な戦い方だな...いい性格してるじゃないか...』
『普段からこんな風という訳ではないですよ。ただ津倉君にはなるべく苦痛を受けてもらいたいと思っているだけです。』
『俺が何かしたっていうのかよ...まさかお前も越矢子関係か!?』
『どこから越矢子さんが出てきたかは知りませんが、今は君をALTERからリタイアさせたらどんな苦悶な表情をするかだけが気になります。なのでどんな卑劣な事であろうと実行してあげますよ!』
再び姿を眩ませると土筆の腹部を亀梨の拳が殴りつける。
『ぐっは!』
土筆がふらつき膝立ちになると追い討ちのごとく亀梨は攻撃を続ける。常に姿を消して移動し、現れては拳や蹴りにテストの防具を付与してから攻撃するという流れを繰り返す。
『君のペットは戦闘においてはそこまで率先的ではないんですね。今だって戦いに参加せず君が傷めつけられている光景を傍観しているだけですし。』
喇叭、旋律、琴は固まってこちらを見ているだけであった。
『先程の不意打ちの勢いはどうしたんでしょうか!やはり主人がやられている光景を見て臆してしまったのですかね!』
ミシミシ『グフッ!』
最後に一発蹴りを入れ土筆を後方にある木へぶっ飛ばして連打が終わる。
『はぁ、はぁ、やっと終わりか...腕や腹筋が震えてきてるな...』
土筆の身体はボロボロだが腕で頭を守っていたので意識までは失うことはなかった。
『何十回も拳や蹴りを入れたのに気絶しないとは随分と鍛えていたみたいですね。金属越しの攻撃は少し痛いからあまり攻撃回数は増やしたくないのでこちらの心情も汲んでいただきたいものです。』
『はぁ、はぁ、汲んだら俺が...負けるじゃないか...』
『でも最後の一撃はいい軋みが聞こえた気がしましたよ。その頑丈な肉体も限界が近いようですね。』
『まぁな、しかし痛みを我慢したお陰で突破口が見えそうだ...だからもう少し粘らせてもらう!』
土筆はE-bookを取り出し一回タップをした。すると手の平に桃が現れる。
『それは回復アイテムですか?』
『誤って回したガチャで当てた最後のアイテムだ。今からこれを...』
ビュン!ドスッ!
『っ!』
先程折れた模擬刀が飛んできて土筆の持っていた桃を巻き込んで背後の木に突き刺さる。見ると蹴り終わりの体勢の亀梨が視界に入る。
『どうですか?最後の希望のアイテムを潰された気分は?』
土筆はアイテムを壊され難しい表情をするもすぐに顔を戻し木に刺さった刀を抜き鞘に収めた。
『まぁ、いいさ。わざわざ俺の武器を渡してくれたからな。半分に折れようが使えなくない。』
『くくくっ、まるで張子の虎ですね。』
土筆はまた難しい顔に戻る。
『それが虚勢だというのはばればれですよ。君は学校では剣道部なのに竹刀を扱えないという情報を聞いています。しかし小太さんとの戦闘の時や先程の居合を見るに日本刀を問題なく扱えていました。ならば竹刀と日本刀でカテゴリーとしては同じ刀なのに何故こうも扱い方に変動があるのか。それは君が自分に見合った長さや重さの武器でないと扱えないということ...ではないのでしょうか?そんな半分になった刀では振るうことなんてできないのでは?』
『そう思うんだったら..,来いよ...』
土筆はそう言うと柄に手を掛ける。
『俺はもう、予防線は張り終えた。』
『お望みであるならば!』
再び亀梨の姿が消えると土筆は心の中でタイミングを待つ。
《7》
喇叭の声が聞こえると体を回転させ姿の現していた亀梨を捉えそのまま斬りかかる。
『僕の位置が!?、しかしそのリーチでは半分になった刀で切ることなんてできるわけ...!!』
ガキン!
亀梨は何かを察してか即座にグローブから盾に変えていた。
『危なっ!でもこれで...』
『ウォォォォォ!』
猛々しく叫びそのまま回転を続ける。
ガキン!『くっ!』ガキン!『連撃!?』ガンッ!『うわっ!』
二撃、三撃と斬撃が入り四撃目には盾の側面に鵐目を当てられ力ずくで盾をずらされると亀梨の姿が晒される。
『津倉流抜刀術"螺旋"』
バキッ!バキッ!バキッ!
回転しながらの剣筋は胸、腹、脚と下がっていくように強烈な強打を喰らわせ亀梨を吹き飛ばす。
『はぁ、はぁ、構える際に気づいたから賭けに出てみたが正解だったみたいだ。』
土筆の手には半分に折られてしまった刀ではなく、白くて美しい金属光沢を誇っており刀身に所々丸い穴が空いている刀であった。
『重さでまさかとは思っていたがこれは...いったい...?』
⦅土筆!それは風に乗ると書いて風遊桃"季"。》
喇叭の声が聞こえ土筆は耳をすます。
《刀に風を乗せたり逆に乗ったりすることができる効果を持っているぞが模擬桃と同様で人は切ることができない武器ですぞ。⦆
《桃太郎さん...もといランボさんの愛刀の一本でござる。先程のスモモの果汁を杏子に啜らせる事で突然変異が起こり風乗桃"季"になったでござる。》
『おい、ちょっと待て!今聞きなれない語尾が2つあったぞ!?』
《初めて口を交わさせてもらいますぞ。某は旋律ですぞ。喇叭殿の能力ゆえ彼を媒介にしていますぞが以心伝心の効果は私達お供全員に適用されるようになったようですぞ。》
『折角メロディーってつけたのに某って口調が旧和製の言語っぽいぞ......』
⦅土筆様、拙者は琴でござるよ。季の他にもランボさんの愛刀は存在しますので幾度かガチャを回すことをお勧めするでござる。》
『お前猿だからってその語尾は...まぁいい、とりあえずお供達よ。お前達のお陰で亀梨の力の秘密を知れたから感謝するぞ。』
お供達が土筆へ駆け寄ると頭やら体を撫でてやる。
『奴が姿が消える現象について兎のスキルを持っていて高速で移動していると決めつけていた。』
『最初に琴が蹴りを受け止めた時あいつは姿を眩ませていたのにわざわざ姿を現してから攻撃していた事から必ず姿が晒される事という仮定が浮かび、さらに俺でもパンチを受けきれる事が分かった。』
『その過程の上で俺は殴られていた最中も防御に専念しつつ旋律の眼を使って亀梨を観察して付け入る隙を探していた。結果奴は死角から出てくる傾向が多く姿が消えても1秒以内に姿が現れる事が分かった。』
『後は喇叭から亀梨が姿を見せた際の居場所を時計の針で向きを指示してもらう。旋律の目で見えていても第三者の視界だから正確に向きを変えれる自身はないからな。そして最後に俺の剣技が奴に強烈な強打を打ち込む。それらの段階を得てこの戦果だ。礼を言う。』
お供達の体を撫でていると遠くから声が聞こえてくる。
『津倉君は本当に強いですね。まさかテストの擬態効果を見破られるとは驚きですよ。』
声が聞こえると土筆は季を鞘に納めるとそれを支えにしながら亀梨の飛んで行った方へ歩いていく。亀梨の元にたどり着くとうつ伏せの状態で首だけがこちらを向いていた。
『聞こえましたよ今の津倉君の言葉を。津倉君自体は元々の持つ身体能力で戦っていたようですね。剣技もスキルでなく元々の君の力のようですし。』
『確かにそうだがそれがなんだって言うんだ。』
『流石幼い頃に神童と言われていた事はありますね。』
『何っ...?』
土筆は思わず眉をピクリと動かす。そのアクションに亀梨は笑みを浮かべる。、
『何故知っているという顔していますね...ふふふ。もちろん僕は君とは面識はありませんが僕は妹から君の事を聞きました。』
『妹...』
『ええ...幼少の頃と姓が違いますが妹の名を聞けばきっと分かると思います。妹の名前は潮渡詩音と言います。』
『えっ......』
その名を聞いた土筆は瞠目し愕然とした表情を隠すことすらできないでいた。
『その表情、やはり覚えていましたか。とても詩音と仲良くしていましたよね...』
亀梨は笑みが消えゆっくりと立ち上がる。
『君の大切にしていた妹、津倉紗倉ちゃんは。』
『お前があの詩音の...』
『そうですよ...当時幼稚園の事故で君の妹の巻き添いで亡ってしまった詩音のね...』
E-bookまとめ
亀の生態 Level6 レベルup 更新
甲羅の装甲
盾または体に装備できる防具に変形することができる。
→防御力アップ
擬態
動かない事で周囲に溶け込んみ姿を眩ます。動き出すと効力が無くなっていく。
アイテム
風乗桃"季"
土筆専用の武具で柄に季と刻まれており杏子よりも硬度誇る。風を利用することでさらに強力な力を発揮する。