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辛酸な過去を変えるため皆は電子書籍を更新する  作者: 彦音梟
3章亀毛兎角の罠
12/25

悲壮


放課後の時間になり多くの者達が帰路に着く頃土筆達も荷物をまとめていた。


『え〜つっ君一緒に行かないのー!?』


『あぁ、今日は部活もない日だが用事があるから喫茶店探しには参加できん。悪いが4人で下調べをやってくれ。』


『本当にいいのかしら?今回参加すれば可愛い子が4人も付いてきてハーレム状態になれるのよ?』


『越矢子さん。僕は男だからハーレムって表現は間違ってるよ。』


『あら、そういえば永神君は男の子だったわね。ごめんなさいね。』


『津倉君いらっしゃらないのですか...男性の意見も知りたかったのですが...』


『織部さんカフェに関する男の意見が欲しいなら僕に任せてよ。』


『あっ!そうでした。永神君は男性でしたね。』


皆が長門を女子枠に入れてしまう気持ちは俺にはよ〜く分かる。俺も顔とか近づくとたまに意識しちゃうもん。


『そういう事で女3男1いればいいデートプランも練れるだろ。じゃあ健闘を祈るぞ。』


そうやって4人と別れると土筆は近所の公園へと足を運んだ。今回小太と球縫という男の会談がありそれに同席する為に来ていた。


『よし到着っと。小太にメールを...ん?あの後ろ姿は...』


見覚えのあるふくよかな体型の後ろ姿を発見し声を掛ける。


『おい、小太。』


体がビクッとしゆっくりと後ろを振り向いてきた。彼女の頬にはガーゼが張っており怪我をしていた様であった。


『どうした?その頬はどこかにぶつけたのか?』


暫くの間こちらの顔を見つめてきて口を開く。


『あ、あの...貴方は...私の知り合いなんですか...』


『おい、このあいだと似たやり取りは通じないぞ。』


土筆がさらに距離を詰めると小太は後ずさりをして間隔を空けていった。


『あ、あのっ!質問に答えください!』


『いや、質問って言ったってお前俺のこと......!?』


土筆は小太のリアクションや表情などから状況の把握をする事が出来た。


『あぁ...ゴメンよ。人違いだったよ。ビックリさせて悪かったな。』


そう告げ小太から逃げる様に走り去った。




家まで走って行くとペットである犬のかしわ君がリードを咥え待機をしていた。


『かしわ...ただいま...散歩は夜にしてほしいんだ...ゴメンな。』


かしわの顔や体を撫で回しながら言うと主人の気持ちを汲んでか部屋の奥の方へ消えていった。土筆はベッドに横たわるとランボが話しかけてくる。


『土筆様お疲れ様です。』


『おう...』


『...どうかなさいましたか?』


『小太が俺の事を忘れているみたいだった。』


『小太様がALTERで敗北しまわれたということですか...根拠はとなる出来事があるんですね?』


『まず俺が小太に近づいた時のあいつの反応...少し距離とってから自分の体を抱きしめる行為をしていたが不安を感じての事だろう。他にも声が張っていたから緊張もしていたのかもしれない。しかし確信に至ったのはあいつの目だ。』


『目ですか...』


眼球振盪がんきゅうしんとう...己の意思とは無関係に眼球が動く現象なんだがこの症状が小太には起きていた。コレついて原因はいくつかあるが小太の場合は俺が近づいた事による極度の緊張によるものだ。』


『小太は幼い頃はイジメが原因であまり人と接してなかった筈だ。今でも授業に出ないでいるみたいだから対人能力も低めと予想できる。彼女の記憶が無くなり初対面の男に馴れ馴れしく声を掛けられ距離を詰められた時には恐怖を感じて目だって泳いでしまうだろう。』


『ですが相手のリアクションで決めるのもどうかと思いますが...』


『素のリアクションほど明確な答えなんだよ。特に目なんかはそうそう自由自在に動す事のできる部位じゃなから尚更だ。目は口ほどに物を言うとも言うからな。』


『以上の観点より小太里三はALTERをリタイアしたと考えていいだろう。』


『小太様を負かした相手に心当たりはございますか?』


『相手は小太が言ってた球縫珠貴という男じゃないかと思う。面識のある能力者同士だから可能性は高めだろう。確か俺と同じ学校の先輩と言っていたから今度接触を図るつもりだ。あと小太のリタイアの件を奏に伝えるべきか否か。』


ふと小西木錦との対戦後に現れた女性の木更津沙羅が涙を流していた光景をを思い出す。


『きっと奏も泣くだろうからこの件を俺が終わらせてから奏には伝えよう。その間小太との連絡も控えさせておかないとな。』


『それがいいかと思います。彼女の性格だと泣いた後は復讐を考えて1人でも戦おうとする可能性もありそうですから。』


ランボとの話を終え空腹を感じ階段を降りると階段前でお座りをするかしわを見つけた。


『あぁ、かしわ放置してゴメンな。夕飯前に散歩行くか。』


『ワンワン!』


かしわの散歩だが連れて行くというより行きたい場所について行くと言うのが正しい。

かしわの中では散歩をする際散歩のルートが4、5パターンほどあるようででさらに土筆と奏とで使うルートを変えているような傾向があった。


しかしなんの気まぐれなのか今回土筆はかしわに普段は通らないルートを歩かされている。きっと奏との散歩コースだと予想していると小太と出会った近所の公園へとかしわに連れてかれた。


『何故よりによって今日この場所へ来たがるんだよお前は...』


さらにその周辺を歩いていると近くの茂みがガサガサと音が立てていた。


『ワンワン』


『どうしたかしわ?なんかいるの...うわっ!まぶっ!』


かしわが吠えると茂みからライトの明かりが伸びかしわへ当てられ次に土筆へと当てられた。茂みの中にいた者はこちらの顔を伺うと駆け足で逃走していった。


『人にライトを当て逃走とは礼儀がなってないぞ。そう思うだろかしわ...あれ?』


足元にいたかしわが姿をくらましていて一瞬驚いていたがかしわの首についたリードが茂みの中に入っているのが分かり土筆は安堵した。


『かしわは一体何をしているんだろうか。茂みとかって変な物とか多く落ちてそうでいやなんだよな...』


『あっ!そういえば犬の習性で近辺に強く匂いの発する物があるとそれを体に擦り付けて自分の匂いを消し周囲に同化しようとするハンターじみたものがあると聞いたことがある。そしてわざわざ茂みに入っていったのは習性に逆らうことが出来なかったのが原因かもしれない。しょうがないから今日は足だけじゃなくて体も洗ってやろう。』


いや!待て!かしわが入る直前まで人があの茂みにいたんだよな......少し整理してみよう。



かしわは習性により茂みへ

そこには強い匂いの物があった?

直前まで茂みには人がいて何かしていた?



人が強い匂いの”何か”を置いていった!?




『お、おい、かしわ...まさかお前さっきの奴の出来たてを...』


土筆が悪い想像をしているとかしわが姿を現す。


『ク〜ン』


『かしわお前の体...は汚れてなさそうだな。』


良かった〜。俺の予想外れて本当に良かった。


『それよりその咥えているものは...布か?』


咥えたものを受け取り広げてみると紳士用のハンカチーフだった。


『コレはさっきの逃走した人の落し物かもしれない。落し物を拾うなんてお手柄だぞかしわ。夕飯は普段よりグレードを上げてやろう。』


尻尾の振り具合で喜んでいるのが確認できた。その後かしわは早く飯にありつけたかったのか真っ直ぐ家を目指した。土筆は夕飯や入浴を済ませ寝室で横になる。


『ランボ、先程小太を倒した人物の手掛かりになりそうな物を見つけたぞ』


『そのハンカチから考えた推理を教えてください。』


『小太は今日見た時怪我していた。それはALTERでの戦いをする前に一悶着あった証拠だ。その際に小太は頬に怪我を受け相手はハンカチーフを落としてしまった。』


『このハンカチーフはあの公園の近くの茂みに落ちていてあの辺は小太の家の近くらしいから小太が襲われた場所もあの辺なのではと予想したんだ。だから明日あの近所の住人や疑わしい人物を探そうかと...』


〜♪〜♪〜♪

メールアプリがメールを受信する音が鳴った。携帯に手を伸ばし内容を確認する。


『まぁそういう訳で明日はハンカチーフ持って犯人探しだ。E-bookも持って行くからな。気を引きしめろよ。』


『私はいつでも大丈夫ですよ。それよりメールの方は何かありましたか?そろそろ日をまたぐ時間ですし緊急の要件では?』


『いや、相手は奏だ。俺に大しては時間帯を気にせず連絡をするし内容も大した事はない。』



大変だよ!つっ君!

香ちゃんのデート急に明日になっちゃったらしいよ!

明日って半日授業だから午後からデートをしようって亀梨君が提案してきたみたいで香ちゃんOKしちゃったらしいの!

私は香ちゃんが心配だから後をつけようと思うんだけどつっ君もついて来て欲しいな!



『っていう内容だ。奏は友人のデートの手助けをしているんだが俺は人の恋愛に他人が頻繁に介入するもんじゃないと思うんだ。だから俺はデートの後をついていかずに成就するのを祈って待つさ。奏にも過度な干渉は止めるように返信しておこう。』


越権えっけんを超えた行いは非難され酷評を受ける可能性がありますからね。今の内に抑止させるのは妥当ですよ。』


土筆は奏にデートの尾行をしない事とと香を信じて待ってるように促す文面で返信しそのまま就寝した。


翌日学校に来ると校門前にいた奏は少し不機嫌そうな顔をしていた。そのまま一緒に教室に入ると綾音が大きめのキャリーケースを学校に持って来ていた。


『越矢子おはよう。』


『おはよう綾音ちゃん!その荷物どうしたの?』


『おはよう奏と津倉君。これは香のデート為に色々持って来たのよ。』


『学校への不必要な物の持込みをよく教師達は許したな。』


『そうね。いろいろ話してみれば分かってくれるのよ。うふふ。』


俺知ってる。こういう時笑ってる越矢子絶対なんかしてるよ。教師脅してるよきっと。


『一応放課後までロッカーに入れて施錠し鍵は担任に渡す条件付きよ。元々放課後デートの為の物しか入れてないから私は条件を受け入れたわ。』


『お前も織部に加担する派なのか...』


『貴方の考えは私とは逆と予想していたわ。でも今回だけよ。』


『普通の女の子なら恋愛について幼い頃から触れる物なのよ。自分が恋をしたり他の人の恋の話をしたりとかでね。でも香は私達と会うまで日常を謳歌する相手に巡り会えなかったらしく経験値が足りなくて本当に助けてあげないとダメなのよ。だから結果がどうあれ今回だけ全力でサポートするつもりよ。』


『そういえば織部がお前達2人と仲良くなった初日に高校デビューできたとボソッと言ってたのを廊下をすれ違う際に聞いたな。』


『そういう訳だから私達も尾行兼ダブルデートをしましょうよ。私と奏と津倉君と神永君でね。』


『行くとなると俺は長門と回ることになりそうだな。』


『えー!なんでつっ君私を選んでくれないの!?』


『何故ごく自然に男の子を選んでいるのよ...』


『いや、その三択でデートっぽく楽しめるのって長門だけだろ。奏とはデートを楽しむ事はできるが普段から接点が多いからデート特有のドキドキする感覚が体験出来ないと思う。』


はしゃぐ子供の相手をしている気分になりそうだしな。


『越矢子とはお互い口を開けば口論しかしないんじゃないか?同じ磁極を持つ感じがするから反発しあってデートって気分で無くなるだろうな。互いに口開かずにデートすれば楽しくやれるかもしれない。』


黙りながら一緒に行動とかもはやデートで無い気がするが。


『長門は可愛らしい顔を持ち性格や仕草も女々しいところがあるからたまにドキドキする時があってあいつの性別を疑いたくなる時がある。そういう訳で長門となら1番デートっぽくなりそうだ。』


『神ちゃんに負けた...』


『男の子に負けるのは女として自信をなくすわね...』


『行くならって話で落ち込むなよ。俺は今日も予定があるから行くつもりはないよ。』


『え〜つっ君今日も別行動するの〜』


『申し訳ないがしばらくの間は相手する事ができなくなると思う』


『そう...じゃあ余計な物持ってきちゃったわね...』


『なんか言ったか?』


『なんでもないわ。ほら奏今日のデートプランのおさらいをしておきましょう。』


『うん!つっ君また後でね〜』


綾音は手を振る奏の背中を押して自分達の机へ戻った。


放課後になると4人は香にエールを送るため集まっていた。


『そろそろ亀梨さんとの待ち合わせ場所に行く時間ですー!あわわ〜緊張してきました〜』


香は緊張し過ぎて体が震えるだけでなく声まで震えていた。すると彼女の震えを止める為彼女に抱きつく。


『大丈夫だよ香ちゃん!デートのこといろいろ考えて準備万端でしょ!だから絶対大丈夫だよ!』


『奏ちゃん...』


彼女に安心を与える為頭に手を乗せ撫でてくる。


『普段通りの婥約としたしなやかさと落着きを持て。普段の織部を見せればそれだけで良いアピールになるはずだ。だから冷静に対応できればそれでいい。』


『津倉君...』


彼女に自信を持ってもらう為手を取りぎゅっと握る。


『こうやって異性の手を握るとか可愛いらしい仕草とかの慣れてない事の練習をいっぱいしたんだから本番でも亀梨君相手にできるはずだよ。自信を持っていいよ。』


『永神君...』


彼女に勇気を与える為に肩に手を置く


『香。普段は謙虚や奥手な性分ゆえ足を止めがちなタイプの子だけれど此処一番って時には貴方は前へ進もうと頑張る子よ。だから勇気を出しなさい。』


『綾音ちゃん...』


『俺自身は織部にあまり協力してなかったが応援する気持ちはある。ここにいるやつは皆お前の恋の成就を願っているよ。』


各自香から離れ横並びで整列する。


『じゃあそろそろ見送るわよ。せ〜の!』

『『『『行ってらっしゃい!』』』』


香は先程震えていた体は嘘のように止まってる事に気づく。


『えへへ♪行ってきます!』


彼女が教室を出る際の表情は緊張を感じさせない柔らかい笑顔になっていた。



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