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償いの婚約  作者: たたた、たん。
如月真冬の独白

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二話

 




 あれから何年か経ち、ある時から計画は順調過ぎるほどに上手く行き始めた。


 都合良く必要としていた資料が手に入ったり、見つかったら計画がバレてしまいそうな場面では、何故か両親は私達を避けて行動した。


 罠かもしれない。


 普通の家庭では、家族間で嵌あったりしないかもしれないが、私と両親の関係は冷めきっていて。それは、私の良心に触れるようなことを彼らがしているからと、彼に私は美春と違って彼と同じ公平を重んじていると知らせるために、両親に反抗してきたからだ。


「一応のため、こちらも罠をかけてみましょう」


 私に協力してくれる乳母とその親しい侍女と協力を仰いで、もしかしたらいる私達の計画(ストーリー)を裏で操る誰かを炙り出すことにする。彼女達は、バレたら職を失うかもしれないと知りながらも果敢にも協力してくれた。


 計画は、単純だった。


 計画に不可欠で、見つかると計画がバレてしまうかもしれない資料を分かりやすい場所に置いておくというものだ。勿論、資料はダミーで、もし見つかっても、それは違う物事に結び付けられるようにしておいた。ただ、私達の計画を知っている人であるならば、計画に必要な資料と分かる程度のもの。


 それを、彼とあった後の茶室に置き忘れたふりをする。誰が来るかは、侍女が隠し扉から覗いて見るというものだ。

 私は、この時なんとなく嫌な予感がして彼にこの作戦を言わなかった。今となっては、その黒幕を察していたのかもしれない。


 計画を実行した後、私は屋敷を出るふりをした。もし、その黒幕が協力者なら私の部屋に戻しに来るかもしれないと思ったからだ。私は、寝室に身を置き、メイドの報告をじっと待つ。そうして、数時間経つと慌てた侍女は、なんと言っていいかわからない様子で私の元へやって来たのだ。


「真冬様、そのなんというか……」


 侍女は、私にその黒幕を報告しに来たはずなのに、なかなかその正体を言わない。まるで、自分が見たものがあまりにも意外で、私に信じられないものだったのかもしれない。


「どうしたの?」


 落ち着いた様子で、私が聞けば侍女もやっと落ち着いたがその時丁度、私の部屋のドアが開いた。私の部屋の造りは、書斎の奥に寝室という作りになっていて書類はいつも書斎の机の引き出しに入れてある。引き出しは、暗証番号を入れなくては開かないタイプのもので、独自につけたものだから見られる心配はないだろう。


 開いたドアの向こうにいたのは、私の最も恐れている相手。


 一番意外で、でも納得してしまいそうな。でも、たまたま私に用があっただけかもしれないと侍女を見たら、彼女は静かに頷いた。


 美春。あなたは、私達をどうしたいの?


 妹の美春は、最近おかしな様子を取るようになった。今までは彼の邪魔をしないように、静かに静かにその熱情を向けていたのに、今はわざとらしく嫌に振る舞う。見せびらかすように我が儘に、ひけらかすように何かを強請った。あまりの変わりように驚いたが、仮面の奥のその瞳は変わらず、水を求めた砂漠の植物のように彼の愛を求めている。美春の本心は変わっていない。でも、振る舞いは変わり、時々一人でいるところを盗み見れば感傷に浸って昔のように大人しい。私は、美春が何をしたいかわからなかった。


 でも、きっと美春はこの計画を邪魔するだろうと思っていたのだ。だって、彼は美春の全てだ。美春は彼に嫌われていると思っている。だから、婚約者から降ろされるだろうこの計画に反対しないわけがないと、普通そう思うだろう。私だってそうだ。


 美春は、私の鞄を開けた。その中には、どうでも良い書類が入ったファイルが置いてある。味方であれば、そこに入れるだろう、と思ってわざと入れたものだ。美春は、そのファイルの中身を横目で流し見る。そして、閉じた。


 美春は少し考える仕草をしてから、私の机に向かって歩く。どうする気なのか、私には分からない。


「……危なっかしいなぁ、姉さん」


 聞こえるか聞こえないか分からないような蚊の鳴くような声。その口調は聞いたこともないようなもので。いつもは、お姉さまと呼ばれているから姉さんと言われるのは幼い時以来久しぶりのことだ。

 これが美春の本性か、と始めて見る妹の一面にまた驚いているところ、美春はそれよりもっと私を驚かせる行動をとった。


 書類の入った引き出しを開けたのだ。しかも、なんの迷いもなく暗証番号を入れている。私しか知らないはずの暗証番号をなぜ知っているのか。


 私が静かに今日一番の驚愕を浮かべる中、美春は私が置いた罠を丁寧に引き出しに入れて、元に戻す。美春がしていること自体は、私達の計画の援助だ。


 美春が出て行くと、侍女は呟く。


「どういうこと……」


 それは、私の心の内と同じものだった。

 美春は、私と違って両親に愛されているし、最近はわざとらしく贅沢に暮らしている。それでも、何故両親を破滅の道は落とす行動をしているのか。侍女は分からないようだが、私には分かる。血が繋がっているから、私はあの子の気持ちが分かるのかもしれない。美春は、その行動が彼のためになると判断したのだ。


 では、美春は彼が美春を好きだという事実に気付いてしまったのか。だから、家を失っても彼がまた選んでくれると分かっている。

 私は、さっき美春が暗証番号を知っていた事実よりその恐怖の方が大きくなってどうしようもなかった。


 その後、侍女は美春に話を聞くべきだと迫ったが、私はそれに応じない。敵対していたならいい。対応すればいいだけだから。だが、もし味方ならば、彼はもっと美春を好きになってしまう。私は、それが怖くて美春が危険因子だと分かっていながら放置したのだ。幸いにも美春は私たちにバレないように行動しているし、美春の手柄は私がやったように見せた。美春だってそれを望んでいると免罪符を自分に打って、私はいつからこんなに悪どい性格になったのか。


 それに加えて、私は彼に分かるように、そう、分かりやすく彼を自分の支えとしていた。あなたが私の全てなのと、言い聞かせるように訴えて、少しでも離されたら私には何もないと泣いた。彼は、私をまだ友人として好きでいてくれたから、私と距離を取ることが出来ない。その上、元々美春にどういう態度をすればいいか迷っていた彼は私が彼を好きだと知っていたから尚更、美春に好きだなんて言えなかった。


 それを分かってやっていた私は、どんな悪魔だろう。


 でも、私がした酷いことは、こんなことに収まらなかった。


 私は美春を監視しながら、まだ彼の気持ちを美春が知ってしまったかと気が気じゃなくて。焦っていた。両親から愛され、彼からも愛されて全てを持った美春。私だって一つくらい欲しい。


 将来的に両親を失い身分も失いう美春の、世界の全てだろう彼を奪うことに躊躇はしたけど、彼だけ私にくれたらそれ以外の全ては渡しても良かった。家が取り壊されても、美春を引き取ってくれる家は見つけるつもりだったし、前みたいな贅沢は出来ないけど私のできる全てで尽くしてもいい。それほどに、私は彼が欲しくて。……彼に好かれている美春が恨めしくて。


 美春に悪い印象を持たれるよう、被害者ぶってわざと周りに色々と話した。言い訳だが、悪い噂を流したわけではない。私は、種を蒔いただけ。あの時は自分にそう言い聞かした。

 美春は、その仮面から社交界の注目の的だったから、すぐに噂は広がる。美春は、それに対して水を得た魚のように悪行を増やしていった。


 彼は、それに対して美春を庇っても、美春はそれを無視して助長させてばっかりで。彼もそれに愛想を尽かしてしまえばいいのに、見捨てることはしなかった。私の方が、彼を幸せにできると思った。私ならあんなに彼を振り回さないし、彼を追い詰めるような愛しかたもしない。


 計画を実行に移す前に、彼が美春に全てを打ち明けたいと言ってくる。そんなの赦せるはずがなかった。この頃に彼は家を正式に継いでいてら婚約の決定権は彼にあるし、彼はまた婚約者に美春を選ぶかもしれないけど、私はその時には周りを囲い込んで彼を私のものにするための計画は全て済ませてあった。あとは、彼がどれほど自分を曲げないか、それだけ。


「やはり、美春に言うべきだ」


 彼はいつも正しい。それでも、私は言って欲しくない。もし、美春がそれを機に、献身的な態度を彼に見せれば彼の愛はまた深まってしまうかもしれない。


「反対です。美春のことだから、嫌がって誰かに漏らすかもしれない。可哀想かもしれないけど、事が終わってから言うべきです」


 可哀想とは、本当に思っている。申し訳ないと思っている。でも、計画の邪魔はさせない。彼は渡さない。


「美春は私の婚約者で、如月家の次女だ。知る権利がある」

「それで、計画が失敗したらどうするんですか」


 その一言で、彼は自分の意思を弱めて悩み出す。この計画が失敗したら次にあるのは私の破滅だ。もう、仕掛けは施してある。未発で終わり、両親にバレたら私は両親の命令した通り三十歳も上の男と結婚させられるだろう。

 私は、彼が私を大切な友人と思っていることを知っていた。だから、彼は私の破滅も望まない。


「……分かった。だが、せめて忠告だけはさせてくれ。美春は、確かに我が儘でどうしようもないところもあるが、根は優しい子なんだ。……私の好きな女性でもある。いいだろう? 」


 初めて、彼は私に美春が好きだと告げた。衝撃だった。自分の表情が固まるのが分かる。


「分かり、ました」


 湧き上げてくるのは、美春への嫉妬。なんであの子ばかり。


 私は、この時気付くべきだったのだ。


 この時、悲しみが滲み出なかった理由を。純粋な愛であれば、その一番に嫉妬が来るはずがないということを。










俺の幼馴染がハレンチ過ぎる!も三話まで直したのでもし宜しければ覗いて下さい!!

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