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償いの婚約  作者: たたた、たん。
本編

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33/37

三十三話

 



「星が綺麗だ。やはり灯りが少ない方がよく見える」

「はい」


 普段は真っ暗なここも、星誕祭の日に向けて人が歩けるよう少し明るくされる。ここは、知る人ぞ知る天体観測スポットなのだ。


 普段は、ハンカチを下に敷いてその上に座っていたが今日は1メートル四方の布を私の部屋から、さっきここに来るついでに持ってきた。それに足元が見えるように大きめのランプも。荷物は、さりげなく尊氏様が持ってくれていたから重くはない。私たちの身分的には私が持たないといけないのに、尊氏様は私が持つのを良しとしなくて、気付いたらさりげなく持ってもらっていた。


 まばらに人がいるから、その間を取り、平らな場所に布を敷く。敷く作業は尊氏様がしてくれた。敷いた布に座り、ランプを消してゆっくりと星を眺める。この星誕祭は、七夕がモチーフとされたお祭りで、その上、元々この地区はこの時期、流星群が有名で、その二つが合わさって遠方から沢山の観光客がやってくるのだ。


「織姫と彦星は幸せだとか思うか?」


 しばらくして尊氏様が、星を眺めながら言う。どうだろうか。織姫は彦星も愛し合いながら年に一回しか会えない。でも、年に一回でも会えるのだから幸せじゃないだろうか。私が尊氏様と離れた時は、一生会えない事を覚悟した。それに比べれば、一年に一度も会えるのだ。まだ、幸せだろう。


「幸せだと思います。一年に一回でも会えるんですから」

「そうか……」


 尊氏様は、星を見たまま私の意見を飲み込んだ。


「私は、そうとは思わない」


 その強い声に、私は尊氏様を見る。尊氏様は体勢を変えないままで、空に浮かぶ星を見ているのか、何か違うものを思い眺めているのか。


「愛した者同士が一年に一回しか会えないのは、寂しいだろう?例え、何か失敗したとしてもそれを正したなら元に戻って、離れてる前以上にお互いを大切に二人で暮らしていけばいい。私は、我が儘なんだ。一年に一回じゃ足りない」


 流れ星が一つ闇の中に降りそそぐ。


「……このままの関係じゃ足りない」

「え?」


 織姫と彦星の話をしていたはずだ。だけど、最後の言葉は尊氏様の気持ちがこもったもので。

 そこでやっと尊氏様は、目線を下におろしランプを点灯させた。暗闇に浮かぶ端正な顔立ちは冷たく見えるけど、それでも今は違うと分かり、寧ろ尊氏様が緊張していると知っている。


 尊氏様があんまりにも真っ直ぐに私を見つめるから、私は無意識に背筋を伸ばす。


「美春、私一人では幸せになれない。お前がいてやっと私は幸せになれる。あなたの祝福を祈る、だろう? 白のポインセチアの花言葉は」


 そう言って胸ポケットから取り出したのは、私があの時あげたハンカチで。

 いつか、死ぬ前にでも気付いてくれればいいと思っていた白のポインセチアの花言葉。尊氏様にこうやって会えてからはもう忘れられてもいいと思っていたそれを尊氏様は大事そうに見つめて、それからまた私を見た。


「私の祝福を祈ってくれるなら、ずっと私の隣にいてくれ。私は過ちを犯した。これからも失敗をするかもしれない。だけど、きっとそれ以上に、美春を世界一幸せ者にしよう。不安も恐怖も我が儘も全て美春と分かち合いたい。悲しいことは、二人で割って半分にしよう。楽しいことは二人で掛けて二倍にしよう」


 言葉が出なかった。この瞬間を待ち望んでいたはずなのに、いざになると頭が真っ白になってしまう。不安も恐怖も我が儘も全てなんて、きっと尊氏様に負担をかけてしまう。でも、尊氏様の苦しみを私に分けてくれたら、私の喜びを尊氏様に与えられたらそれほど幸せなことはないのではないか。


「私を選んでくれ。私の我が儘を叶えてくれ。私は幸せになりたい。私の隣で幸せそうに笑ってくれる美春と幸せになりたい。美春がいなくては、幸せになれない。私は我が儘なんだ。美春がもうあの華族社会に帰りたくないというなら私も爵位を捨てよう。どんな小さな家でもいい。その家で赤いゼラニウムの花を育てて行きたい……花言葉、詳しくなっただろう?勉強したんだ」

「……はい」


 尊氏様の申し出に笑顔で受け入れるつもりだったのに。私は不安だから受け入れられないなんて面倒な我が儘を言ったのに、尊氏様からこんな嬉しい我が儘言われたら、嬉し涙が出てきてしまう。


「美春は、少し泣き虫になったな」


 尊氏様が愉快そうに笑って私の頭を撫でた。一年かけてその仕草に慣れ、今では心地よさを感じる。


「尊氏様のせいです。私、我慢強い方だったんですから」

「それは良かった。私の前では我慢するな」


 赤いゼラニウムの花言葉は、君がいて幸せ。尊氏様はいつから、花言葉にこんなに詳しくなったんだ。昔は、花を眺めるような人じゃなかったのに。


「美春がいて、私はやっと幸せになれる。美春にとって私もそうなりたい。どうだ?そろそろ答えは出たか?納得できないなら断っていい。どうせ私は諦めないから」

「……ずるいです。尊氏様はずるい。私の覚悟が決まった日から、この時のことを考えていました。きっと素晴らしい返しで尊氏様を泣かせてやると思ってたのに太刀打ちが出来ません」


 私が感動を与えられたように、私だって尊氏様を感動させたかった。だから、つい恨みがましく言ってしまう。


「男の矜持だよ。美春、私は言葉が欲しい」


 そして、まだ言葉で告げてないことに気付く。当然のように伝わっていると思っていた。多分、尊氏様は私の答えを分かっている。それでも、あの頃みたいに自分の本心を口に出さないというのは誤解を招く可能性があると知っているから。


 何度も感じられた尊氏様の変化。私も変わらなきゃいけない。それは誠意だ。これから一生、尊氏様の隣にいるために必要なもの。


 好きだから、苦しい。好きだから、怖い。

 でも、それ以上に好きだから、一緒にいたい。


 家を飛び出しハル(モブ)になって、初めて物語の外を歩いたのは、もう随分と昔のように思う。ハルの物語は、今日で終わり。これからは、尊氏様の美春となろう。尊氏様だけのヒロインになろう。


「もう一度言おう。美春、一生私の隣にいてくれないか」





「喜んで!」






 尊氏様が嬉しそうに笑う。それを見て、私も嬉しくなった。そうだ。これが二人でいれば嬉しさは二倍なんだ。


 未来の道に不安がないわけでもない。でも、尊氏様がいればきっと大丈夫。


 これからが人生の第3章。

 私と尊氏様が結ばれたハッピーエンド。


 そう、この物語にもう償いの婚約はいらない。










これにて本編終了となります!

お疲れ様だったね、私。ここまで辛抱強く見てくれてありがとう!皆さま!


本編は終わりとなりましたが、この後、本編の裏側(姉篇と尊氏篇)、本編後篇、木宮さん×諜報員メイドの主従ラブ(ギャグテイスト)を書こうかと思っています。あくまでも予定です。気分屋なので( ͡° ͜ʖ ͡°)地味に姉の名前を出さないように書くのは大変でした。


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この他にも恋愛小説を書いているので、覗いてみてくれると……何もありませんが私が喜びます。






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[一言] 前世記憶持ちの彼女の行為と好意が違和感だらけなのと男性の行為と好意も違和感だらけなのがミステリーですが異世界ファンタジーという括りなのでさもありなのかと納得し楽しく拝読させていただきました …
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