再会-2-
「うわー」
それを傍で眺めていた灯花は呆然と言った風に二人を見ていた。
「おやおや」
ヒスイは口元を押さえ、笑みを隠す。
千年の空白。
それが埋まったのだ。
分からないではないのだが、普段のハクを知っているだけに、あの、幼子のような姿はおかしくてたまらない。
「弥太郎に逢ったら、教えてあげよっと」
にやりと灯花は意地悪く笑う。
基本的にハクと灯花は、弥太郎を取り合ってのライバルである。
弱みがあれば最大限に利用する。は、二人の間では暗黙の了解であった。
「ふふ。これを弥太郎に話されそうになったときのハクの姿を思うと、楽しいわ」
「意地が悪いの。灯花」
「そんなことないよ。だって、対等なライバルだからこそだもの」
相手を蹴落とすことに関しては余念がないということらしい。
「とは言え、今はそっとしておくけどね」
くすくすと、楽しそうに灯花は笑う。
ここにきたのは、ハクの姿を笑うためではない。
自分の仕事をするために、灯花は進み出た。
「千年の時を越え、ようこそいらっしゃいました。雷瀬様」
「はい」
硬い声で、雷瀬は答えた。
「もうしばしすれば、長老がいらっしゃいます」
慇懃に頭を下げ、灯花は言う。後ろでは、珍しい灯花の姿に、ヒスイがくすくすと笑っている。
その姿を雷瀬は見つけ、灯花に気付かれないようにくすりと笑った。
「雷瀬様」
長老がやっとついたようだ。
「ご苦労様。コセン」
長老をきちんと読んできてくれたコセンを労い、灯花はその場から立ち去った。
「長の旅、お疲れでございましょう。お部屋を用意してございます。
どうぞこちらへ」
「いいえ。僕は、千年の空白を渡ってきただけです」
疲れるほどのことはないと、雷瀬はそう言ったが、長老は、ゆっくりと首を横に振ると、雷瀬を促した。
「ハク。行こう」
ここでは話し辛いことなのであろう。
そう察して、雷瀬は長老に従った。
部屋に入ると、泣き疲れたらしいハクは、すぐに雷瀬の膝の上で寝てしまった。
「雷瀬様。大変申し上げにくいのですが」
ちらりとハクを見つつ、長老は苦い顔をする。
説明は、ハクにさせようと思っていたのだが、この状態では無理だろう。
何より、これに関しては、ハクの方が詳しいのだ。出来ればハクに任せたかったと言うのが長老の本音だった。
「一柱の封印、見失いましてございます」
平伏する長老に、雷瀬は言葉がかけられなかった。
しかし、封印を見失ったというなら、まだ、解けているわけではない。
「分かりました。詳しい話は、明日にでもハクから聞きます」
長老の視線の意味を正しく理解していた雷瀬は、そう言って笑った。
「申し訳ございません」
長老は、深く頭を下げると、退室した。
入れ替わり入ってきたのは、灯花だった。
「お召し物を持ってまいりました。それと、湯浴みの用意もございます」
「ごめん。このままで良いよ」
膝の上のハクを見て、苦笑を浮かべると、雷瀬はそう言った。
「しかし」
「僕も、もう少しこのままでいたいんだ」
苦笑を浮かべる雷瀬の瞳は、とても柔らかだった。
言われて、ハクを見れば、その手は、しっかりと雷瀬を抱きしめていて、逃げようにも逃げられはしない状態で。
「これでは、ハクが起きるまで無理ですね」
あきれて灯花はそう言った。
「良いんだ。だって、ハクは、千年も待っていてくれたんだから」
「はい。
それでは私はこれで失礼いたします。
一応、お召し物はここに置いておきますので」
「ありがとう」
灯花の姿が消え、ハクと二人きり。
静かな部屋に佇む。
「ハクが寝てるから、言っても良いかな。
僕も、淋しかったよ。ハク」
苦笑を浮かべ、雷瀬は、ほつりと涙をこぼした。
「でも、これからはずっと一緒だよ。
ずっと」
辿る道の違った千年が、やっと交差した。
待ち望んでいた再会。
もう、離れる必要のない、本当の再会。