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神殺し-1-

 雷瀬が仕事の完了を告げに本家に戻ると、長と長老が並んで待っていた。

確信とともに雷瀬は言葉を待つ。

このために自分はここに来たのだ。

過去の全てを置いて。

 「お帰りなさいませ。雷瀬様」

深々と長が頭をたれる。

 「お帰りなさいませ。雷瀬様」

次いで長老が頭を下げた。

ぴりりとした緊張が走る。

そして。

 「凶神の封印場所、見付かりましてございます」

深々と頭を下げたままの長がそう言った。

 「解かりました」

雷瀬はそう短く告げる。

筆舌しがたき思いが、幾重にも心の中で渦巻いた。歓喜、覚悟、悲哀。その全てがいっぺんに心の中で渦を作る。

その感情を押し込め、雷瀬はゆっくりと言葉を紡いだ。

 「体調と準備を整えます。符は大丈夫ですか?」

雷瀬の使う符は特殊なものであるため、用意するのに時間がかかった。用意の時間を考えて出立の時期を言わずに問いかけた。

 「はい。十分な枚数を用意してございます」

長の言葉を聞いて、雷瀬は自分に知らされていなかっただけで、早い段階で場所を特定していたのだということに気が付く。

もっとも長と長老に、紫水と灯花が黙っていたと言う可能性も捨てきれない。あの二人であれば、そのくらいはやりそうだ。

 「解かりました。では出立は一週間後に」

雷瀬はそう告げると、くるりと踵を返した。






 ざわざわと、心が波立つ。

それを押さえるために、雷瀬はその足で斎場に向かった。

 「雷瀬」

しんと静まり返った斎場。その清冽な気が、妙に尖った心を本の少しだけ癒してくれた。

 「ハク」

雷瀬は、泣いている様な笑みを浮かべてハクを見る。

雷瀬自身、自分の感情にどう踏ん切りをつけていいのかが分からないのだ。

分かっていることは、ここでうだうだと悩んだところで時間だけは過ぎていくということ。

 「あのさ」

ハクはなんだか歯切れ悪く言葉を発し、何事かを言いかけて、その言葉を飲み込んだ。そして、代わりに出てきた言葉は。

 「そういや、灯花と紫水、どうしたんだろうな」

紫水はともかく、灯花なら長老たちが居ようと出迎えに混じっているはずだ。それなのに灯花の姿がなかったということは。

 「もしかして」

何となく予感がして、雷瀬とハクは資料庫へと向かった。

薄く開いた扉に、やっぱりと言う予感を胸に点らせ、そろりと中を覗く。

 「あー」

屍累々。

式神共々倒れ付している面々に、ハクは微妙な言葉を発し、見つめた。

 「おや」

いや、一人倒れていないものが居た。

 「コセン。何か、凄かったみたいだな」

惨状を眺めハクがそう言うと、コセンは苦笑した。

確かに凄まじいものはあった。けれども、落胆後の淋しげな灯花や紫水の姿に比べれば、マシとは言える。

何故コセンだけが起きていたかと言えば、それを伝えるためだ。

 「灯花が、すまないと言っていたよ。力になれなくてすまないとね」

その言葉で、雷瀬もハクも何を言いたいか分かった。

灯花と紫水はギリギリまで凶神の弱点などを探していたんだろう。だから自分が帰ってくるまで情報は伝えられなかった。

長たちも確実性を重んじ、灯花と紫水の言葉を優先したのだ。弱点が見付かるか、そうでなければタイムリミットは雷瀬が戻るまでと。

二人は結局、見つけられなかったのだ。

 「ありがとうございます」

コセンに頭を下げ、雷瀬はもう一度、倒れるように眠る灯花、紫水、ハリ、ヒスイに頭を下げた。

 「でも、見つけたようだね。勝てる見込みを」

コセンはそう言って笑う。

 「ええ」

反して答える雷瀬の表情は重い。

 「一つ教えてあげるよ。出血大サービスだね」

コセンは笑みを深くする。

コセンは式神ではない。風を司る精霊の筋だ。だから、コセンには言えない事、出来ない事、関われない事がたくさんある。流れに通じ先を知るが故にコセンにはそう言う制限が多々付くのだ。

その彼が、一つだけ告げるという。それは、言っても大丈夫なことであるが、コセンが進んで言うべきことではない。

この場に灯花が意識のある状態で居れば話はまた別なのだが。

だから、これはコセンが自ら判断して告げる、本来ならないはずの言葉。

 「小波一つが行く末を変える事もあるんだよ」

そう言って、コセンは姿を消した。

なんの事かとハクは首をかしげ、雷瀬もしばらく考え込むような顔をする。

そして唐突に気が付いた。

 「そうか」

確かに千年の時は無駄ではなかったのだ。

ハクが居たこと。ここに自分が居ること。そして、その千年の間に生きた人々。

その人たちが繋いだ、小さな小さな波紋は、小波になり、今ここに届いたのだ。

 「バカだな」

こんな当たり前のことを忘れていた。

皆が足掻いて来たのだ。

だからいま自分は、凶神を倒す術を見つける事が出来た。

何故それを力無い等と嘆く事が出来るだろう。

必要だったのではない。

必然だったのだ。

皆が足掻いたから、自分はこの答えを手に出来た。

それは、雨龍の、その後に生きた人々の足跡。

 「本当に、僕はバカだね。ハク。

なんでも自分でやっていた気になっていた。

全ては、繋がっていたのに。全ては、ここに辿り着くために流れていたのに」

雷瀬は、微笑む。涙を浮かべて。

 「いいじゃねーか。雷瀬が居なくちゃ、始まんねーよ」

くしゃりとハクが雷瀬の頭を乱暴に撫でる。

 「本当千年って長いな。ハクに慰められるなんて」

クスクスと笑う雷瀬に。

 「コセンじゃないが、出血大サービスだ」

ハクはそう言って、ぽんと頭を軽く叩いた。

 「がんばらなくちゃね。僕は、このためにココに着たんだから」

すうと雷瀬の気配が鋭く尖っていく。

細く長く、しなやかに。

 「一週間後だ。ハク」

その瞳にはもう、先ほどのような迷いはない。

それを頼もしく思いながら、反面淋しいと感じ、ハクは小さく首を横に振った。

 「おう」

雷瀬の声に応える。

決着は一週間後。ハクは全てが終わったら、言おうと心に決めた。


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