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修練(千年前)


 パタパタと慌しく廊下を駆けていく雷瀬を、家のものは微笑ましげに眺めていた。

最近、雨竜は忙しく動き回り、雷瀬の相手をほとんど出来ていない。

父が目標だと、臆面もなく言う雷瀬にとって、父である雨龍の不在は、辛いものがあった。

 「久しぶりに、父さんが教えてくれるんだ」

ぐっと両の拳を握りしめ、知らず浮かぶ笑みを何とか噛み締める。

 「父さん」

襖を開けて父の書斎に飛び込む。そんな雷瀬を雨龍は苦笑しながら眺めていた。

 「雷瀬。廊下は走るものではないよ」

やんわりとそう言うと、雨龍は、手で雷瀬に座るように指示をする。叱られ、雷瀬はちょっと肩をすくめると、指し示された場所にちょこんと座る。

 「まずは、符の基本からだよ」

 「はい」

雨龍は、雷瀬に物を教えるとき、必ず基本となる符の働きを確認する。何事も、基本が大切というのもあるのだが、全ての術は、属性の違う五つの符の組み合わせで成り立っている。

曰く、陰陽五行の理である。火は金に剋ち、金は木に剋ち、木は土に剋ち、土は水に剋ち、水は火に剋つ。木が火を生み、火が土を生み、土が金を生み、金が水を生み、水が木を生む。

相性相剋の理解が何よりも重要なのだ。

それを確実に理解して、初めて術は発動する。

故に、雨龍はまず雷瀬にこれをなぞらせることを忘れない。

頭で理解するのではなく、瞬時にそれが引き出せるように、理解と刷り込みを同時に行なっているのだ。

 「では、式神は、種族によって属性が違う。青龍、朱雀、玄武、白虎、麒麟。これの五行の属性は覚えているね」

 「はい。青龍は木、朱雀は火、玄武は水、白虎は金、麒麟は土です」

すらすらと雷瀬は答えていくが、基礎の基礎であるために、雨龍にこの質問をされるのは、かなりドキドキとする。

もし間違えていたらどうしよう。そんな不安が一瞬過ぎってしまうのだ。

そんな雷瀬の緊張に気が付いた雨龍は苦笑を浮かべる。

 「雷瀬。そんなに緊張するものじゃないよ」

 「はい」

そう返事はするものの、大好きな父親に、良い所を見てもらいたいという気負いがどうしても出てしまう。

しかし、それは初めの一時間ほどだけの事。知識を吸収することに夢中になれば、おのずと緊張など忘れてしまう。

雨龍は、雷瀬にも理解できるように、言葉を噛み砕き、理解できているかどうかを都度確認しながら話を進めていくので、それに着いて行く事に必死になるのもある。

そんな中出てきたのは。

 「一柱の封印」

聞きなれない言葉だった。

 「なんですか?」

 「封印の一つだよ。術者の力に応じて、その封じて置ける時間は変わるのだけどね。もって千年の封印だよ」

 「千年。じゃあ、父さんなら千年封じて置けるの?」

雷瀬の言葉に、雨龍は穏やかに笑う。

 「そうだね。千年封じられるかな」

 「やっぱり、父さんは凄いな」

尊敬する父親の力量に、雷瀬は素直に感心する。

 「でもね。力だったら、多分雷瀬の方が上だよ」

雨龍は苦笑を浮かべながらそう言った。

実際、雷瀬の実力は、いまだ底が見えなかった。吸収の速さはもとより、術の発動時間の短さ、また、同じ術を使っていても、雷瀬の使った術の方が威力が上がっていた。

力の乗せ方が上手いだけではない。雷瀬は小さな術にそれだけの力を乗せても平気なだけの容量があるのだ。

 「皆そう言うけど、僕は良く分からないよ。

やっぱり、父さんには敵わないし。それに、他の陰陽師の皆にも、全く歯が立たないし」

皆が凄いと自分を持て囃すが、雷瀬自身は、そんなことはないと常々思っていた。

実力が違いすぎるのだ。

 「それは、経験の差だよ。力があっても、それを上手く使いこなすための経験が、雷瀬にはまだ足りないだけだ」

 「じゃあ、大きくなったら、僕は父さんみたいになれる?」

 「ああ。私よりずっと雷瀬は強くなるよ」

雨龍の言葉に、雷瀬は微笑む。

いつかきっと、雨龍と並んで妖かし退治に行くのだ。それを考えるだけで、雷瀬はとても嬉しくなる。

 「話がそれてしまったね。

では、続きを始めようか。雷瀬」

 「はい」

気を引き締めなおし、雷瀬は居住まいを正すと、真剣な瞳で雨龍を見た。雷瀬の集中が戻ったのを見ると、雨龍はまたゆっくりと話を始めた。


 雷瀬が、この日の話の意味を知るのは、もうしばらく後の事となる。


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