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休戚-2-

 本家でのそんな慌しい状況を全く知らない雷瀬とハクは、数日前に送られた資料を持って、妖かし退治に来ていた。

 「なんつか、いかにもって感じだな」

鬱蒼と茂る森を見て、うんざりといった感じでハクが言った。

何処もかしこも暴かれているように言われているが、こうして残っている溜りが必ずある。

人が入ったところでたいしたことが起こることは少ない。

さすがに昔のように帰らずの森などといわれるほどに濃いものはなくなっていた。

それでもやはり、なくなりはしないのだ。瘴気とは、人が作り出すものでもあるから。

 「僕としては、こういう方がやりやすいけど」

質が分かりやすくて雷瀬にはこちらの方が向いている。変化などの年を経て形の変わるものは、その質が読みづらく、また、人の多いところに良く現れるため、この時代自体になれていない雷瀬には難しかったのだ。

もっとも、雷瀬の得意とするのは捕縛であるため、力の質的には、人の多いところでもいいはずではあった。

ただし、パートナーが激しく大味なため、やはり雷瀬は人ごみが苦手といわざるを得ない。

 「たしかに、人がこちゃこちゃとしてると、動き辛いしな」

その元凶は、にっこりと笑ってそんなことを言っている。

 「本当にハクは、回りも一緒に巻き込みそうで、街中だとひやひやするよ」

苦笑を浮かべてそう言う雷瀬に、ハクは、苦い顔をする。確かに人ごみは苦手だ。雷瀬の言うようなことを実行したいと思うことなどしばしばどころでなく毎回だった。

それでも、弥彦と組んでいたときは、街中が多かったため、人ごみでの戦いと言うのも熟知はしている。

それが好きかと言われれば、大嫌いだと即答はできるが。

 「あのな。オレはそんなに無謀じゃないぞ」

むすっとしてそう言うハクに、雷瀬はただ笑う。

ハクが周りを薙ぎ倒しそうだから街中は嫌だという言葉に嘘はない。嘘はないが、真実でもない。

 「それは解かってるけど。やっぱりハクにはのびのびと戦ってほしいなって。

だって、ハク、大技使ってるときとか本当に嬉しそうだしね」

生き生きと飛び跳ね回るほうがハクらしいし、符と羂索でサポートするのが自分の役回りだと雷瀬は思っている。もっとも、その戦いを組み立てるのは、雷瀬ではあるのだが。

 「うっ。どーせ俺は考えなしだよ。散々セイにも言われたし。桃花にも指摘されたし、火椎はもう諦めてたし」

自分のいない間、ハクは桃花に散々やり込められていたようだと察し、雷瀬は苦笑を浮かべる。

 「桃花は容赦がないから」

歯に衣着せずといえば聞こえは良いが、その実桃花の言葉は容赦と言うものがなく、また、聡いために一番言い当てられたくない真実の核心を一気に貫くこともある。それはある意味、桃花にとっても不利ではあったが、元来があの性格であるから、全く意に介してはいなかった。

 「どっちかって言うと、火椎の、『ハクには何言っても無駄だよね。』的視線の方がいやだったぞ。俺は」

しかし、ハクにしてみれば、桃花の様に裏表がない方が好ましいようで、火椎のやり方の方がいやだったとそう言う。

 「どうせ、桃花に乗せられて無謀なことでもしそうになった時だけだろ」

クスクスと笑って雷瀬が言うと、ハクはそのまま黙り込む。どうも図星だったようだ。

 「ちぇ」

つまらなそうにそう言うハクに、雷瀬はただ笑った。妹と弟は、自分の知っているままに大きくなったようだ。

会う事は叶わないけれど、それを知れるだけでも雷瀬は嬉しかった。

 「無駄話はこれくらいにしないとね」

すいっと雷瀬の瞳が細まる。

瘴気とは、所謂溜まりだ。淀んで練りあがった悪意もしくは憎悪、あらゆる負に向かう感情の何か。

それは通常人の目に見えることはない。けれども、感じることはあるだろう。

どうしても近寄りたくない。どうも避けてしまう。健常な状態であれば、人はそれを無意識で避けるのだ。

そして、雷瀬の目には、それは黒く淀んで映った。

 「ちっ」

ハクは小さく舌打ちをする。

それは、瘴気に当てられ元の形を保てなくなった、木霊の成れの果て。木霊は、少量の瘴気であれば浄化することも出来る。木はすべての循環の基盤であるが故、それも可能なのだが、ここまで淀んだ瘴気を浄化するのは、この木霊には荷が勝ちすぎたのだろう。それでもなお、瘴気を地に放つまいと、必死にここに止めているのだ。


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