探査-1-
セイからの情報で、封印の移動は、地脈にそっていると考えられた。
地脈の流れは、微妙ではあるが年々変わる。
主流はあまり変わりはしないのだが、それでも、千年の時があればかなり移動していると考えられた。
「移動の経路を割り出すのは、一苦労だな」
地図を広げ、紫水は溜息を吐いた。
「未だ移動しているのか、それともどこかに潜伏しているのかも分からないものね」
地脈に関する資料を引き出しながら、灯花も事の大変さを嘆く。
「一応、コセンに元あった封印の場所から延びている地脈の流れを見てきてもらってるけど」
コセンはあてにならない。
いや、正しくは、コセンは全てを知るが故に言えない事が多すぎるのだ。
「地脈の位置と流れくらいでも分かればいいだろう」
「そうだね」
溜息を吐き、まだまだ積みあがりそうな地脈の資料に、灯花はげんなりとした。
****************************************
セイを還すと、灯花に道を作ってもらい、ハクは雷瀬の元に直行した。
ここが空振りである率が高いということも判明した所為もある。
「そうか」
ハクから説明を受け、雷瀬は厳しい表情をする。
「ハク。考えたんだけどね。
このまま、本家の仕事を請けつつ移動しようと思うんだ」
唐突な雷瀬の言葉に、ハクは目を丸くする。
「何言ってんだよ。凶神の封印を見つけて、今度こそ俺たちが倒すんだろっ」
それを放棄と取ったハクは、そう言って雷瀬に食って掛かった。
「違うってハク。
僕らの間には、千年と言う時が隔たっているんだ。
このまま凶神と戦って、最高の状態で戦えると思うかい?
僕は、ハクの実力もきちんと把握していないのに」
柔らかに雷瀬は笑ってそう言う。その何処までも穏やかな言葉に、ハクは勢いを失い、いじけたように雷瀬を見る。
「それに、僕は実戦経験がなさ過ぎる」
それでは、土壇場に対処することはかなり難しいだろう。力があったとしても、経験の差ばかりはどうしようもないのだ。
「それは」
雷瀬の言うことは、いちいちもっともだった。実戦経験の薄いまま、凶神と戦えば勝率が下がるのは確かだ。けれども、ハクとしては、雷瀬の望みを早く叶えてやりたいのだ。
「ね。ハク。
父さんの封印は、絶対に解けないよ。時が来るまで」
もの言いたげなハクに、雷瀬は微笑んでそう言った。
ハクがそれを心配しているわけではないことも分かってはいるのだ。けれども、雨龍の封印は解けない。
なら、封印を探しつつ、修行を兼ねた任をこなしていくのは長い目で見れば確かに正しいのだ。
「うん」
雨龍を引き合いに出されてしまっては、ハクは引き下がるしかない。
雷瀬が雨龍を信頼していることをよく知っている。そして、雨龍がその信頼に足る実力者だということも分かっているから。
「一応、この場所が当たりかどうかを確認したら、本家に戻ろう。
このことを伝えたら、僕らは封印を追いながら修行だよ。ハク」
「雷瀬」
元気のない声に、雷瀬は苦笑を浮かべた。
「大丈夫。無理はしてないよ。
あの時と一緒だよ。急がば回れってね」
手に入れたいもののために、あえて遠回りをするのは当たり前のことだ。焦って手にしたところで、取りこぼしてしまっては意味がない。
凶神は確実に倒さなければならないのだ。
「仕方ないな。付き合ってやる」
そう言って、ハクはにいっと笑う。
「ありがとう」
わざと不遜な言葉を使うのは、ハクが納得したということだ。だから、雷瀬は微笑みながら礼を言った。