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布石-1-

 雷瀬が渡ってきて三ヶ月ほどが経ち、何とかこの時代に慣れたようで、雷瀬はハクと共に外に封印の探索に出かけていた。






 「弥彦おじさん」

珍しい人物を見つけ、灯花は驚いた顔をした。

弥彦は、長老と長を苦手としていて、余程のことがなければ本家にはやってこない。

その、余程の事があったのかと、灯花は驚いた顔をしたのだが、どうもそうではないようだ。

 「やあ、灯花ちゃん。

定期連絡を怠ったら、呼び出しを食らっちゃったよ」

ははっと力なく笑う弥彦に、灯花は、驚いた顔のまま数度目を瞬き、次の瞬間、笑い出した。

 「弥彦おじさん、定期連絡忘れるなんて、凄く初歩的なミスですよ」

近寄りたくないのなら、基本はしっかりと周到すべきである。

 「そうなんだけどね。情報を集めるのに錯綜していたら、定期連絡を入れるのを忘れてしまってね」

 「諦めて、お小言貰ってきてください」

クスクスと笑い、弥彦を見送ると、灯花は深い溜息を付いた。

紫水と共に資料などから推測を立てて、一番可能性の高い場所に雷瀬を導きはしたが、どう考えてもハズレだと思えた。

一柱の封印の種類が分からないというのは大変痛い。

口伝で伝わる類の禁呪であったらしく、記述がほとんどないのだ。

まれにある記述も、封印が成されただのという程度。

 「手詰まりだな」

紫水もそれは感じているはずだ。

ならば、どうするかが課題ではあるのだが。

 「ハクが言ってた古い式神を呼べれば良いんだけどな」

雷瀬の父、雨龍の式神セイを呼ぶ事が出来たなら事はかなり簡単に済みそうな気がする。

しかし、その手段が灯花たちにはなかった。

式と契約してしまっている陰陽師には、自分の式以外を呼ぶことは出来ない。式と契約する前でも、それは出来はしないのだが。

式神との契約は絆である。それによって陰陽師は式神を呼べるのだ。

式と契約できない陰陽師がいれば、呼ぶことはできるのかもしれない。

けれども、それも確実とは言えなかった。

だから灯花は言えずにいたのだ。

 「弥彦おじさんに、頼むなんて出来ないわよ」

弥彦は、式神と契約できなかった陰陽師だ。理屈から考えれば、弥彦ならば古い式神を呼べるはずなのだ。

しかし、式と契約できないという喪失感は計り知れない。想像しか出来ないが、灯花とてコセンとヒスイに逢えなかったら、そう考えるだけでぞっとする。

 「灯花」

すっとヒスイが姿を現した。

 「ヒスイ」

 「迷うのも分かるがの。大人は頼られるのが嬉しいもの。

弥彦にそれとなく言ってみるのも手よの。灯花」

穏やかなヒスイの声に、灯花は困った顔をする。

 「ずるいな。ヒスイは」

 「そうかの」

クスクスと口元を押さえ笑うヒスイに、灯花は大仰に溜息を付いてみせた。

 「でも、もうそれしか手はないか」

諦めた灯花の声に、ヒスイはひっそりとした笑みを残したまま姿を消す。

 「紫水」

資料室にこもっている紫水の名を呼びながら、灯花は乱暴に扉を開けた。






 資料を元の位置に収めながら、紫水は灯花の話を聞いていた。

確かに、やってみる価値はあるが、それを弥彦に頼むのは、灯花同様気が引けるものがあった。

 「紫水。可能性があるなら全て試してみるもんじゃないの?」

姿を現したハリがそう言う。

ハリの言うことはもっともだ。コセンもヒスイも多分、同じことを言うのだろう。

自分たち、人間だけが気を回しすぎなのだろうかと、紫水は溜息を吐いた。

 「ここでうだうだ言ってても始まらないってことか。

とりあえず、弥彦おじさんに聞いてみよう。

いやなら無理強いしない。てことでどう?」

諦めて、灯花がそう言う提案を出す。

どの道、イヤだなどと言えるはずがない。

紫水たちが弥彦に話を通せば、必然長老たちの知るところとなるだろう。そうすれば、弥彦の意見などないも同然。

 「それしかないか」

とうとう紫水も諦めて、同意の言葉を口にした。

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