不穏(千年前)
あんまりにも更新出来ないので、ちょっとHPからの転載を掲載してみます。
長らく不在にしていた父親が帰ってきたと聞いた雷瀬は、居ても立ってもいられないといった感じで、玉砂利を鳴らし駆ける。
途中、人に聞き、本堂に居ると知って、迷うことなく駆け込んだ。
「父さん」
息を切らして雷瀬は飛び込む。その先には、眼鏡をかけたすらりとした体躯の男がいた。
紛れもなく雨龍だ。
「やあ、雷瀬」
目を細めて優しい笑みを浮かべたその手には、読みかけらしい書物がもたれている。見れば、近辺の地図であった。
本家の長の地位についている雨龍は、現在忙しく全国を飛び回っていた。
本来なら長は、拠点に残っているものなのであろうが、最近、妖かしの動きがおかしく、長自らが動いて情報を収集しているのだ。
「帰ってきたのに、またすぐ出かけるの?」
また、本の少しのいるだけで出て行ってしまうのだという事が分かり、雷瀬は落胆を隠せない。
「いや。今回は少し長く居るよ。
雷瀬もそろそろ式神と契約をする年だからね。本当はもう少し後なのだけどね、私が忙しくて立ち会えないのはいやだと我侭を言って、少し早くしてもらった」
柔らかな笑みを浮かべて、雨竜はそう言った。
「式神と契約して良いの?」
雷瀬は驚いたような顔をして、雨龍を見る。
式神との契約は、15の成人の儀の時だ。今まだ雷瀬は14歳。本来なら決して許されない。
それが、あと二ヶ月で、15歳になるとしてもだ。
「危ないの?」
世の中がざわめいているのは、雷瀬にも分かった。
それがとても大変なことだと言うことくらい、雷瀬だって知っている。
不安を瞳にありありと映し出す雷瀬の頭を、雨竜は優しく撫でた。
「心配することはないよ。何があっても、雷瀬たちの事は、父さんが守るから」
それは、雨龍自信の身の安全が含まれていない言葉。
それが分かって、雷瀬はただ、無言で雨龍の服を掴んだ。
「僕、強くなる。式神と契約して、もっと強く。
そして、早く父さんを助けられるようになるから」
だから、死なないでと。
その言葉を口にする事は出来なかった。
「楽しみにしているよ。雷瀬」
穏やかに微笑む雨龍が、実は誰よりも頑固で、こうと言ったら絶対に折れはしないということを、雷瀬はよく分かっていたから。
「そうだ。父さんが立ち会ってくれるって言うことは、式神の使い方とかも教えてくれるの?」
なるべく長く一緒にいたくて、雷瀬はそう言った。
「いや、式神の使い方は、おのずと分かるものだよ。雷瀬。
でも、式神を召喚するまで心構えや、色々な術の事を雷瀬には教えようと思っているんだ」
「その間、父さんと一緒に居れるんだね」
本当に嬉しそうに、雷瀬は笑う。
それを雨龍はどこか淋しげな笑みを浮かべて見ていた。
「さ。まだ修行が残っているだろう。雷瀬。
きちんとなすべき事をして来なさい。父さんとの修行は、明日からだよ」
そっと背を押し、本堂から雷瀬を退出させる。
「はい」
元気よく返事をし、来た時の様に駆けて行く雷瀬の姿を、雨龍は見えなくなるまで見送った。
「雷瀬。もしかしたら、お前には、とても辛い選択をさせるかもしれないね」
ぽつりと、雨龍は呟く。
活発になっている妖かしの動向。それらの指し示すものは、最悪を考えるなら、かなりの犠牲が出る事が予測された。
最悪の予想が外れることを願いながら、それが多分外れないであろう事も、雨竜はわかっていた。
だから、せめて、雷瀬の式神の契約を見たいと思ったのだ。
そして、それが通るということは、長老たちも、ある程度の覚悟をしていると言うことだろう。
「平和は、どうしていつも、犠牲の上に成り立つんだろうね」
雨龍は、最後にそう呟いて、また地図を繰り始めた。
HPで神殺し編は終わっているので、毎日さくさく更新すると思います。
そのまま転載しているので、手直し等は入ってません。