表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/4

その1.

 サラちゃんとケンカした。

 給食の時間のことだ。ブドウパンの中のほしブドウがきらいなユミは、こっそりぶどうをほじくって、ティッシュにくるんですててしまおうと思っていたのに、それをサラちゃんが見つけて、

「あ~! い~けないんだ! ユミちゃん、きったな~い」

とはやしたてたら、クラスのみんながユミのほうを見て、何人かが

「いや~、きたね~」

とか、

「ずる~い」

とか、

「もったいない」

とかさわいで、たんにんのオオモト先生がそばにいらして

「タカタさん、それはどうかな? きらいなものをむりに食べなくてもいいけれど、やりかたがおかしいぞ」

とかなって、

「でも、気もちわるくなるから、食べられません」

と、ユミは泣きそうになって、

「はいはい、それならしょうがないわね。じゃあ、食べられるところを食べましょう」

ということになった。

 ユミは心の中で(さいしょから、あたしは食べられるところだけを食べようと思っていたのに!)とすごく腹がたってきて、(サラちゃんが、あんなこと大きな声で言わなければ、こんなさわぎにならなかったのに)って思えて、ギリギリとくやしい気もちが大きくなってきてしまった。

 帰りがけ、サラちゃんは、もうとっくにそんなことはわすれてしまっているみたいで、

「ユミちゃん、帰ろう」

 と言ってきたのに、ユミはぷうっとふくれて、でも、ふくれていることを知られるのもなんだかいやな気もちになって、だまって下を向いてしまった。

「どうしたの? ハルミちゃんが待ってるから、もう帰っちゃうよ」

 とサラちゃんはニコニコ笑っている。

「ほら、ほら」

 ともっとおもしろがっているみたいだったから、ユミはもっと泣きたい気もちになってきてしまった。もう、ちっとも笑える感じじゃなかった。だからそのままだまっていたら、

「じゃ、帰るね」

 とサラちゃんはハルミちゃんとうれしそうに、ランドセルをゆらして、帰ってしまった。

 ユミはそのうしろすがたをじっと見つめた。そして、「ちぇっ」と小さく口の中で言った。

家でだったら、そんなふうに言うと、お母さんにしかられるにきまっている。でも、言わずにいられなかった。


 外に出ると、まだ明るかった。だんだん昼の長さが長くなっている。

 (いいもん、今日は、一人で帰るもん)

 とユミは楽しいものをさがして、帰ることにした。

 学校を出ると、ずっとサツキの生け垣の道になっている。もう、つぼみがだいぶそろっていて、ふくらんできていてもうすぐ咲きそうだ。

 その道に花が咲き始めると、花が生け垣からあふれるように咲いて、緑の葉っぱよりも花の色がずっと強くなって、そして、ピンク色のところ、白いところ、こいピンク色のところとそろって咲いて行く。

 ユミはじっくりとつぼみを見てみた。

 と、ふくらんできていたつぼみが、「パン」と音を立ててユミの見ている前で開いた。

「あれ?」

 ユミはなんだか、すごく遠い遠いむかしのことを思い出した。

昔っていってもまだユミはまだ9さいだから、そんなにすごく昔ってのもへんだけど…。小さい時、そんなふうに花の咲く音が聞こえていたような気がしてきたのだ。

 それは今では夢のひとこまのように思えている。

 だって、それからずっと花が咲く音なんか聞いたことがなかったし、そんな変なことはないんじゃないかって、だんだん大きくなるにしたがって、そんな風にも思えてきていたのだ。

 そうやって少し立ち止まっていたら、また少し先で「パン」と音がして、花が開いた。

 ゆみはだんだんドキドキしてきた。

 まわりの人を見てみた。あまり歩いている人はいないけれど…、ほかの人にも聞こえているのかしら?

 ユミが、今音のした方に少し歩いて行ってみると、また「パン」とはじけて咲いて、歩く先にだんだん「パン」「パパ」「パン」「パラ」と、少しずつ間をあけて花が咲いていく。

 ユミはふしぎになってきたし、どんどんおもしろくなってきて、どんどん音に引っぱられるように、音をたどってサツキの道を歩き出した。

 パン、パ、パパパラ、パパン

 パン、パパパ、パン、パパパ、パン

 それはちょうど小さいラッパを吹き鳴らしたような音で、まるでユミの歩くリズムに合わせたように花が咲いて行く。花が咲きそうになる時、つぼみが少しふっくらしてくるのもわかる。

 だんだんユミは夢中になってきて、歩く人のことのなんか、もうぜんぜん気にならなくなって、とにかくその音に合わせて、スキップしながら、ランドセルをはずませながら、どんどん先へ、先へとはずんで行った。

 パン、パ、パパパラ、パパン

 パン、パパパ、パン、パパパ、パン

パン、パ、パパパラ、パパン

 パン、パパパ、パン、パパパ、パン

 パンパラ、パンパラ、パンパラパン

 そのリズムと音の組み合わせがだんだんわかってくると、もっと楽しくなってきた。

 ユミはいつか、自分でもリズムを口ずさみながら、スキップしていた。

サツキの道は、ずうっとずうっと続いていて、切れ目がないようにいつまでもどんどん咲いていくのだ。

そして、だんだん咲く花の数もふえていって、そうすると音が重なって、ラッパだけのオーケストラみたいになって、音がハーモニーを作り、どんどんごうかになってきて、ユミはその音を自分が鳴らしているような気がしてきて、楽しくてしょうがなくなってしまった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ