ギルド 2
「ま、魔物の群れだぁー!」
村に第1声が響くと、それに続く形で悲鳴のオーケストラが鳴り響く。
―――それぞれが勝手に響かせるだけの不協和音であったが。
万が一を想定してギルドへの避難は準備されていた。
使うつもりはなかったのだが、やはり備えは大切であることを実感させる。
避難した人間も後々落ち着けたなら、そのことを噛みしめるだろう。
そうはいっても逃げ足は一様ではない。
我が子の手を引っ張ってくる女性を入れるまでせっぱ詰まった人々が扉を閉めようとするのを止めるという、作業をエイファは余儀なくされていた。
もう、助けようとするならまだしも、村の仲間を見捨てようとするなんてっ!
命がけの状況なので仕方がないのかもしれないが、それでも自身の心がささくれ立つのを抑えられない。
一匹の狼が転んだ子どもに飛びかかった時、ギルドの中で見守る人々は思わず目を瞑った。
しかし、予想された光景はそこにはなかった。
狼の飛び込む先に小盾を持ったエイファが飛び込み、いなしたのだ。
「早くっ!扉、閉鎖準備!!」
転んだ女の子の手を取り、その母親の背に手を当てて支えながら重厚な扉をくぐると間髪いれずに扉が閉められる。
それからわずかに遅れて扉に何かがぶつかる音が響き始める。
普段閉じられることがほとんどないその扉は、一度閉じられれば外へはその剛健さにより威圧を与え、内側には安心感をもたらす。
「くそ!あれだけの魔物が一体どこから!冒険者どもめ、なにをやっているんだ」
ひとまずの安心感に落ちついたことでこれからのことを考える余裕が生まれた故の焦燥感である。
「迷宮、でしょうね」
「何?」
「先ほどの群、ちらっと見ただけですがすかーウルフにゴプリンを中心にしていたようです」
「それがなんだと言うんだっ!」
「スリームがいません。冒険者たちは村を中心に放射状に偵察をしていました。実際に強力な魔物を何匹も狩ったのを確認しています。ですが、そのために低レベルな迷宮については後回しにされた可能性は十分にあります。そうである以上、スリームが地上に出てくるはずですが、村を見回っている間にその姿を見た覚えはありません。」
エイファは逃げ遅れなどの確認のため、村中を見回っていた。
「迷宮の中で息を潜めている間にゴプリンやすかーウルフらがかの地を縄張り化しようとしたのでしょう。スリームはそれほど強い魔物ではないとは言え、死体を溶かしてしまうので、他の魔物には嫌われていますから」
背筋を冷たいものが走る。
つまり、何者かが魔物を迷宮へと誘導したということだ。
一体、何が起こっているの?
その疑問に答える声はない。
アリス「私の出番、まだ?と思ったけどまぁいっか。ゆっくりしてよっと。」
エイファ「アリスちゃん!そんな暢気な状況じゃないのよ!」
アリス「Zzz」




