凶報
ベネトルニア村にて恐しい噂が飛び交う。
村の殆どの青年たちの表情は一様に青く、眉間に皺が寄っている。
事態が緊迫していることを如実に物語っていた。
「間違いないんだな?」
「ああ、これを嘘だと言われても、誰も怒るどころか肩を叩いて喜ぶんじゃないか」
「違いない」
そういって彼らはうっすらと力なく笑い、がっくりと肩を落とした。
エイファさんに恋人が出来たらしい
そのニュースが村に与えた影響は非常に大きかったようだ。
事の始まりは食堂利用者の村人達の証言からである。
冒険者向けのお値段なので普通の一般人にはけっしてお安くないはずなのだが、エイファの人気により上々の売り上げを見せている。
むしろ冒険者が殆ど見えないこの村に置いてギルドの稼ぎの殆どを占めている。
「今日も綺麗だね!エイファちゃんのご飯を食べるためなら禁酒だってしてみせるさ」
という村一番のアル中。
「あら?代わりにうちで飲んでるだけでしょう?結局余計にお金がかかってるんじゃないかしら。大丈夫なの?ちょくちょく姿を見せてくれたほうがうれしいですよ?」
「なぁ?今日のエイファちゃん、なんかご機嫌さんじゃねぇか?いつもなら酔っ払いの相手なんてもっと雑だろ?」
「ああ、俺もなんかおかしいなって思ってたんだ」
一人の問いかけが投石となり、ギルド併設の酒場に波紋を起こす。
しかし、波紋は長くは続かないものである。
「へぇ~あなたたちはあらあらしい応対がお好みのようねぇ?w」
打ち付けられたコップの音といつもよりちょ~っとひくい声がハモると酒場は湖の底のように静謐さを取り戻したのである。
「でもよぉ、エイファちゃんの機嫌がいいのって今日だけじゃないぜ?」
酒場を出た男達の口を阻めるものはない。
鬼の一喝程度では静まりえないだけの関心が起こる話題だったのだ。
いや、むしろ「熾る」というべきか。くすぶり始めた火種は日が経つにつれ、大きくなっていくその前触れでしかなかったのだから。




