新たなる発見!?
「ふにゃあああ」
滅多に鳴かない私が思わず声をあげてしまった。
もし、人の体だったなら
「アイエエ、ナンデ!?」
と言ったところだろうか?
香澄はスポーツとは言え痛そうでボクシングなどにあまり興味をもてなかったが、思わず拳を握って(実際には握れないが丸い)熱心に見てしまっていたので接近するスリームに気づかなかった。
酸性のジェルにより、肉球とその周りの毛が黒く焦げ、ぷすぷすとうっすら煙が上がっている。
反射的に後方へと退いたので、追撃はされなかったが、内心ヒヤリとしていた。
あぶなかった~ぁ。
チリチリと痛む手を無視して全方位に意識を配る。
アルルカナンに馴染んだ今、聴覚や嗅覚と併せて他の生物の反応を探ることは当たり前のようにできるようになっていた。
幸いこちらのほうに気づいているのは目の前の一匹と、他に一匹いてこちらへと向かってきているようだ。
ーー早いところこいつを倒さないと!
アルルカナンで風をまとわりつかせ即席の鎧をまとうと、後ろ足にググっと力を溜めて飛びかかった。
魚取りで鍛えたねこパンチに風の相乗効果も相まって恐ろしい破壊力が当たる瞬間、横からの衝撃を受けて私は吹っ飛んだ。
目の前の相手に集中して意識が逸れていたもう一匹がかかってきたのだろう。
スリームの速さから安全マージンをとって考えていたが、予想以上に速かったみたいだ。
「アリス!こんなところで何をしているっ!」
と思ったらああ、マーニ君だった。
うん、予想以上に慌てていたんだねぇ。マーニ君もスリームも区別していなかったよ。
剣はまだ重いのだろう、短剣と鉈のあいのこくらいの武器を掲げて、振り降ろすだけといった状態で、一瞬ピクっと止まったが、それもほんのわずかなことで思ったより鋭く、そばのスリームを両断した。
どうやらうまく核を裂いたようで、ゼル状のナニカを残して生命の気配は分散していった。
私の首根っこを摘んで持ち上げたマーニ君は
「手を怪我してるじゃないか!」
と言うと、私の右手に軽く触れると目を瞑って眉間に皺を寄せながら集中し始める。
訳がわからず、そんな年から眉間に皺を寄せてると将来困るぞー、とか首の後ろを摘まれても本当に痛くないんだなぁとかくだらないことを考えていたらふと右手の先に熱を感じてハッとした。
私の手の先、マーニ君の手の周りを薄くほのかに暖かい何かが漂っていた。
「くそ、やっぱりだめか!」
叩きつけるように言いながら、私の首根っこを摘んだままマーニ君は村へと走る。
「アリス、僕は遊んでるんじゃないんだ、あんまり好奇心が強すぎると怪我するんだぞ!」
と怒られて、実際怪我もしている私は耳としっぽを力無く垂れる。
「エイファさん!」
これまた叩きつけるようにギルド裏口の扉を開け、そのまま駆け込んで行った。
「きゃああ!」
不幸なことに普段人がいないので、ちょっとお風呂でも入ろうかとしていたエイファであった。
「ってマーニ君!?こんな時間にどうしたの?怪我でもしたの!?」
と相手がマーニであるのを見て冷静さを取り戻したエイファはタオルを巻き巻きして横で留めながらマーニを見るが、顔が微かに赤い程度のようである。
「アリスが、僕の後をついてきてて、普通どんな動物でも魔物を相手にしたら逃げるものなのにコイツ飛びかかってたんですよ!・」
「アリスちゃんが!?無事なの?怪我は!」
マーニの肩に手をやって前後に揺する。
力が異常に強い。
「手をちょっと酸でやられたみたいで・・・。エイファさん、僕、まだ仕事の途中で。アリスのことお願いしていいですか?」
想像以上に力強くうなずいてエイファはアリスを預かった。
想像以上に力強くマーニは駆けだした。
マーニくんには刺激が強すぎたみたいねぇ・・・。
とどうでもいいことをアリスは考えていた。
私の知らない波形だったから気づくのが遅れたけど、さっきのアレってアルルカナンの波動だったよね・・・。
そして顎に手を当てながら、ちょっと真面目なことも考えていたところをエイファに抱えられて治癒室へとつれて行かれる姿があった。




