森の中の像
どん引きの周囲の動物さんたちを華麗にスルーして湖へと歩み寄る。
最後に塩を乾燥させたときに使った"エクストラスト"を使えばもしかして・・・。
orz
あんなに汗まみれになって苦労した作業が一瞬でできました。
レフィも周りの動物たちも私が何をしたかったのかわからず首を傾げている。
ちなみに岩塩から溶けだした塩は土の属性であり、石相手に生み出した"シフトチェンジ"をそのまま使ったからできたが、水に溶け込んでいるからといって水に"お願い"する形では失敗していた。
そもそも"シフトチェンジ"は名前の通り、物体を変形させるものであり、不定形をとる水相手には失敗する。
体を縮こめて、ぐっと力を入れて踏み切った私はジャンプを繰り返して、水量を減らした湖の中央部分に到達すると"エクストラスト"を再度使用すると真白な塩の玉が湖の側にゴテン、と落ち少しだけ転がり、止まる。
「おお!?こんなものが湖に入り込んでいたのですか!」
レフィが恐る恐る、近寄りシュッシュッとシャドウをするように睨みつけていた。
いや、鹿ボディじゃ無理なんだけどそんな印象を感じたのだ。
まぁ、姿形の見えなかったものがこうしていきなり現れたら警戒するのも無理はないかな?
バイパスさせてた川を元に戻しつつ
「レフィ、これもらっていってもいいかな?」
と尋ねると、
「御使い殿に余計な手間をかけさせずとも私がなんとかしてみせます」
と力強くお答えになられました。
「いやいや、私はこれがほしくて今回がんばってたんだけど」
「へ?」
うーん、レフィって女性騎士みたいなイメージを勝手にしてたんだけど実はちゃっかりうっかりさんなのだろうか。と私の中で勝手に評価が変わっていた。
しかしでかい。にゃんこボディになったから、というのもあるだろうが見上げる塩の玉はなかなかの大きさだ。
これは鞄の中に間違いなく入りきらない。
中に入れたものの重さは感じられなくなるマジックバッグだが、その内包量は重さによる、というちょっと違和感を感じる使用だ。
石製の壷を取り出すと、小さい塩玉に小分けして詰めてから鞄の中へと収め直す。他にもいろいろ入れているので壷三つ分しか一度に持っていくことはできそうにない。
動物さんたちは湖の水を口にしてご満悦のようだった。
「御使い殿、ありがとうございました」
レフィもとても嬉しそうだ。
残った塩玉をどうしようかと考え中だ
放って置いたら雨なんかで溶けてまた地中に染み込んでしまうだろう。
次に取りにくるまで無事なように対策が必要だ。
うーん、としばらく考えて、塩作りようの釜2つを"シフトチェンジ"すると、石製の祠ができる。
残った(持っていった分よりも残っている分のほうが多いが)塩も"シフトチェンジ"すると、レフィを模した立派な鹿の像が祠の中に鎮座していた。
おまけで森も再現している。
・・・次に塩を取りにくるときは木々から少しずつ崩すしかないかな、と内心へこみながらも出来映えに満足して、手を組みながら頭をうんうんと上下に振っている。
「御使い殿、これはさすがにおそれ多いので、御使いどのの姿にしてもらえないでしょうか?」
とレフィが言ってきたが、
「一度形を決めると、変更が利かないので」
と言ってごまかした。
雪の中の鹿っぽくて格好いいと思うんだけどね?
帰りもレフィが送ってくれたので、当然のように二人は温泉で汗を落として帰りました。
魚を食べ尽くしていたのを忘れていた私は、その日のご飯はいつものスープと堅いパンという食事になったけど、マーニくんの目を盗んでスープに塩を風で送り込みました。
マーニ君はいつも通りに作ったはずなのに、いつもよりおいしくできたスープに首を傾げながらも、いつもより余計に食べていました。
私も成果に満足。
野菜とかの切り方が不揃いだったりするので、そのへんも私ができればもっとおいしくできるのになぁ・・・。
なんとか調理権を奪えないか計画中です。
そしてやっぱり無断外泊を怒られたのでした。
とある冒険者達が迷い込んだ森の中で非常に美しい鹿の像を見つける。
魅入られるように近づこうとするとその像が命を得たかのような生命力溢れる鹿が現われ"森を去れ"というメッセージが頭に鳴り響いたと言う。
その後森中の動物達がいるのではないかと思われるほどの動物が、―小動物から大型まで―勢ぞろいし威嚇してきたのだった。
いかに冒険者と言えど多勢に無勢、命からがら逃げ出した彼らはギルドでその話をしたが誰も信じなかったのである。




