名前は・・・えへへ・・・もらっちゃいました!
前世において、平々凡々だった私の、数少ない例外の一つが名前である。有栖 香澄。某皇室詐欺事件が起きたときはもちろんのこと、普段から友人達にからかわれたものである。西洋の人やハーフ、または顔立ちが整ってるのならともかく、(前世の)私のような地味顔でアリスなどという呼び名ははっきり言ってトラウマものである。
その影響か、少年、マーニが呟いた一言に私の身体はビクッとしてしまう。それをどう勘違いしたものか、マーニは、
「お、気に入ったようだな」
なんていい名前をつけてやった~というような自慢げな表情で頷いていた。ま、まぁいいんだけどさ~。しばらくは呼ばれるたびにビクビクしてしまいそうだ。なんて一瞬上の空になっていたらエイファさんが表情を曇らせて、
「それって・・・うーうん、なんでもないわ」
と呟いていた。私の耳は小さな呟きを逃さなかったが、真意の程は読み取れなかった。まぁ、こちらの世界のことはまだよくわかってないのだ。なんかいろいろあるのだろう。そうしていると、この建物の主なのだろう、ヨルガンという医者が来て人目のないうちに出かけたほうがいいだろう、と言うのでバスケットに納められてマーニに抱えられてゆっくりと歩き出す。いや歩いているのはマーニ君なんですけどね。
いろいろと情報収集したい私は顔を出そうとするが、そのたびにマーニに中に戻され、
「ごめんね、もうちょっと待って」
と言われる。何回か繰り返して諦めた私は、揺られているうちに眠ってしまったようだ。最近身体に魂が引きずられているのか、妙に眠たい。眠っていたのはほんのちょっとのことで、道が粗くなったのか、揺れがひどくなり、頭を蓋のところにぶつけて目が覚めた私は頭でグッと持ち上げて顔を出す。今度は駄目って言われなかったので、眠気覚ましに一緒に歩こうと外へと飛び出したら、
「こらアリス、君は病み上がりなんだから、おとなしくしてなさい」
そういって首ねっこを摘まれると、じたばたしてもどうにもならない。ねこの泣き所か!手も届かない、おのれっ。諦めた私を、はしゃぎ疲れたとでも思ったのだろう、再びバスケットに入れられる。マーニ君、ちょっと過保護じゃないかね?仕方ないのでバスケットの淵に手をかけて顔だけ出す。そういえば・・・なんで村?町?から遠ざかっているの??出してもらえなかったので様子を見ることは適わなかったが、遠目に建物が密集しているのは見える。違う町から買い付けに来たとか?なんてぼんやり情報をまとめていたら目的地に着いた模様。
なんというかあばら屋!かろうじて屋根と壁(穴が開いている)があり、雨風がしのげるといったところだろうか?いや、ヨルガンさんのところが裕福なだけでこれが普通なのかも、いやそういうことにしておこう。
「アリス、ちょっと見た目は悪いけど・・・畑もあるし、周りに気兼ねも要らないから」
そういうマーニ君は、私をその手で抱えてそう言ったけど自分自身が自分の発言に納得していないように寂しげに聞こえた。もしかしたら私はいろいろな意味で凄いところに拾われちゃった?でも私は(元)日本人だ。命の恩人に加えて一宿一飯の?借りがあって、後ろ足で砂をかける(今の私に良く似合っているが)わけにもいかないだろう。この身体で何が出来るかわからないけどできることを精一杯やろうと思った。なにより、名前があって、誰かに呼ばれるのがこんなに嬉しいものなのだと改めて思い知らされた私はここにいたいのだ。