エイファの選ぶ3シーン
総合ポイントが100オーバーしたことに感謝して番外編です。
総集編に近いところもあり、読まなくとも本編と関係はありません。
お暇な方・奇特な方はゆっくりしていってくださいね。
改めて皆様ありがとうございます。
ミ-ェ-ミ√ ̄\←こたつねこ
ギルドの執務室。
人気のないギルドの一角にして、主以外に入る者がますますいない部屋である。
今もギルド長であるエイファは一人、書類仕事と対面していた。
はっきりいって仕事のないこの片田舎に派遣された?エイファは、たった一人でー閑古鳥の鳴くギルドではあるがー切り盛りし、それでいてなお暇なはずだったのに、皮肉なことにその優秀さにより、ギルド本部からの相談などが頻繁に寄せられるのだった。
ふぅ、と一息ついて思う。
なんでこんな遠く離れた地でわざわざ運ばれた余所の仕事を私がしなければならないのか。
別に仕事がいやだというわけではない。
無理を言ってこの地に来た、という自覚もある。
王都の上司どころか幹部連中が揃いも揃って引き留めに来たのを思い出す。
一旦手が止まってしまえばなかなか向き合う気になれず、思い切って休憩をすることにする。
コルフェと呼ばれる黒耀豆を引いてドリップした飲み物。
ギルドで働き始めた頃はその苦さが嫌いだったのにいつの間にか無自覚に飲むようになったなぁ・・・。
月に一度、もしくは2週に1度でる月刊誌及び隔週誌。
王国内で起きた事件や注意事項、手配犯などが載った、誌と言っても一枚きりの印刷物は大抵の町にあるギルド経由で回される。そのためおふれ書きなどと呼ばれたりする。
この町にまで届けるのは正直負担だろうな、と苦笑しつつおふれ書きに目をやる。一度目を通しているので、新しい情報があるわけでもなく、ただ視界に入っている、というだけのものだった。
そういえば、と小さな"隣人"がおふれ書きを読んでいた様子を思い出す。
手でしっかりと押さえながら、始めは"お座り"して読んでいたが、しだいに"箱型"になり、最後には顔を地面につけるようにして眠ってしまった。人間のように印刷が顔に写らないのは幸いといったところだろうか。何故かあの奇妙なねこは本も読む。
傷つけては駄目だぞ?といったらおっかなびっくりでページをめくるのにも四苦八苦していた。
2冊ほど爪を出してしまいちょっと跡が残ったのをひどく気にしていた様子はかわいそうと思いつつもかわいかった。当人・・・もとい当ねこに言ったらふてくされそうなので言わないけれど。
そういえば、マーニ君が先日、家の様子がおかしいと言っていたな。
仕事から帰ってくると仕事にいく前と家の周りの様子がすっかり変わっているとか何とか。
依然アリスちゃんが読んでいた本の中には魔法について書かれた物もあったと記憶しているが、幾ら企画外のあの子でも魔法までは・・・。
あり得ないことではない、と思って眉間に皺が寄る。
魔道具も二つ所持しているとんでもねこなのだ。
だめだ、これではますます頭が痛くなり、休憩にならないではないか。
そう言えば、一緒にお風呂に入ったこともあった。
お風呂は贅沢品なのだが、私は前の職場で溜めた貯金をかなりの額使うことになったがお風呂を設置した。個人的な趣味だ。
入ったことがあるのはアリスちゃんだけだ。
普通ねこといえば水は苦手だと聞くが、アリスはむしろ気に入っているようだった。浴槽は深すぎるので桶にお湯をくんでやりそこにアリスちゃんを浸からせた。
あっという間もなく真っ黒になるお湯を前に、マーニ君に対する飼い主としての無責任さに殺気立ってしまったのはわれながら大人げなかったと思う。
それ以来アリスちゃんがギルドに遊びに?来る度に毛並みを確認して汚れているようなら一緒にお風呂に入るようになったのは言うまでもない。
桶の縁に顎を乗っけるようにして、目を細める姿は実に気持ちよさそうで私もついくつろいでしまうのが問題だ。
その間、ギルドは放置だったりするので。
まぁ大抵暇なので問題ない・・・ということにしておこう。
石鹸で洗うと1度目は全然泡立たず、2回目は全身泡でもっこもこになる。アリスちゃんのために用意した柔毛ブラシでこすってやるとやっぱり目が細くなっている。
頭は慎重に洗って、お湯で流してあげるとふるふるふるっ!
わかっていてもびっくりするのでできればやめていただきたい。
回想から現実へと帰還して、そう言えばときどきギルドにくる男の冒険者たちと同じような視線を胸元に感じるのはなぜだろうか?アリスちゃん、女の仔だよね?
しかも最近なんか妙にアリスちゃんの毛並みがきれいなのだ。
それなりにきれいだし。まさか、他の家でお風呂に入れるところを見つけた?いや、この辺じゃお風呂の習慣なんてないよなぁ。
今みたいに疲れてるような時や、来たとき帰るときは私のところに来てくれる。一応置いてある足ふき用のタオル、元々は私がふいてあげなきゃな、と思っていたのだが、アリスちゃんは遊びに来ると自分でゴシゴシと足の裏を擦る。いっそ人間くさくて困るほどだ。
それでいて私の背中を登って肩の上に座るのだ。
ちょっと爪が痛いし、大きくなったら重そうだ、とかそこで粗相はやめてね、とかいろいろと言いたいことはあるが、かわいいので仕方がない。人が来ると、賢いアリスちゃんは空気を読んでととっと降りてしまうので、私が不機嫌な態度で接してしまうのはまぁ仕方のないことだ。
アリスちゃんはただ座ってるだけのつもりなんだろうけど、しっぽがファッファッと反対側の肩を叩いてるのは気づいてるのかな?
ちょっと特徴的なギザギザしっぽだけど、体毛同様ふわふわな毛が首筋なんかに触れてとてもこちょがしい。
それに時折私が動いたときにバランスをとるのにちょこちょこっと動く足も気持ちいい。貧乏揺すりの癖がつくんじゃないかとちょっとビビっている。
おおっと!休憩が長引いてしまった。
そろそろ再開しないとね。私は無駄に残業なんてごめんなのだ。
休憩前に何故イライラしていたのか思い出せない、というかイライラしてたことすら忘れたようにスムーズに書類が片づいていく。
エイファの口角は自然とあがっていた。




