袋小路
ーーー魔法。
それは一言で言うなら人間の手で再現できない現象を可能とする技術。
そう言えはしないだろうか。
ならばーーー
家くらい杖の一振りでキラっと出せるものだと思っても仕方ニャいでしょ?
ギルドの・・・図書館?で積み上げた本に囲まれながら1冊の本を真剣に読んでいる。
本当に賢い人は、こんな難しい、わかりにくい書き方をするはずがない、これはあまり優秀な魔法使いが書いたものではない。読むのを止めようと良いわけじみた三段論法(間違っている)を何度呟いたことか。
はっきり言えばこれは数学の教科書のようなものだ。
いろんな図形や数式で氾濫し、説明するはずの言葉は事態をより複雑にする。
結果的に私は眠ってしまっていたというわけだ。
これが"眠り"の魔法だよ、と言われれば納得してしまうかもしれない。
そんなわけでこの本から私が学び得たのは、私の考えていた魔法は絵本的なもので、夢見がちだったということ、実際にはもっと学問的なものでありそうなことが一つ。
そして、唯一読めた?「はじめに」の部分に書かれた図の"魔法系統図"である。
まず、"混沌"ありき、
"混沌"は"光"と"闇"に分かれ、
"光"は"火"と"風"を生み、
"闇"は"地"と"水"を育む。
これはどうも古代の遺跡か何かから発見された碑文によるものらしい。
その解釈として
そもそも魔法とは
"光"と"闇"の系統に分類できる。
"光"の系統には"火"と"風"の属性があり、
"闇"の系統には"地"と"水"の属性がある。
ということらしい。
そして続く。
人は"火"、"風"、"地"、"水"の属性のうち、一つは持っている。
つまり誰であれ、鍛えれば一つの属性の魔法は使える。
そして才ある者は二つの属性を持っている。
二つの属性を持つもので、系統が同じ属性を二つ持つならば修練によっては上位の系統魔法を使いうる。
4つの属性を持ち、上位2系統の魔法を使える人はいないのかな?
解釈からはなくなっているけど、上位2系統野間法をも使いこなせたら
"混沌"に関する何かも使えるようになる、ということはないのか。
多分"混沌"を魔法技能として解釈したんじゃないかな?
なんにせよ、だ。思っていたより魔法で建築作戦は困難だった。
ちなみに私が何属性を持ってるんだろう?水とかだったら水瓶に水を汲む作業とか楽になるんだけど。
建築に関する本なんかも読んだが、この体でどうこうするのはちょっと難しい。マジックバッグを使えば木材の運搬くらいはなんとかなるかもしれないが。切ったり組んだりは無理だろう。
そうそう!モンスターの辞典をみて、おもしろいことがあった。
スライムだと勝手に思っていた例の抉れゼリーの正式名称はは"スリーム”だった。まぁ確かにくびれてるっちゃくびれてるけど・・・ギャグか!ゼリー?部分を水に溶くことで接着剤のように使うことが可能。
食べても痩せることはない。その身を構成する酸により危険を伴うため注意、とか。誰か食べようとした人がいたのだろうか。
これはもう、自分だけではどうにもならない。
誰かに助けを求めよう。
「アーリースちゃんっ!」
誰かに呼ばれて目が覚める。
右手グシグシと顔を擦って・・・ってここどこだ!?
頭がポ~っとして思考が定まらない。
寝起きだ、間違いない。
なんでこんなところで寝てるんだろ?
周りには高くはないが、品の良い書架が並び、
私は書籍を周りに数冊積み上げ、1冊を枕に撃沈していたのだった。
少し意識が浮上して、視界に入ってきた"枕"の模様は前世の高校の数学に近いだろうか?なるほど、撃沈するのも仕方ない!
今朝、いつものようにギルドへと出勤したところ、いつもとは違い、朝早くから小さなお客様が待っていた。
---この村、ベネトルニアは小さく、初心者向けのダンジョンでもなければギルドがおかれることはなかっただろう。
そんなわけで大した仕事もない当ギルドの酒場・宿・医療は村の施設と人を使わせてもらっている。
そうでなくとも冒険者も少なく、仕事がないのだ。
それでも緊急時に備えておかなくてはならないわけで。
率直に言って退屈していた。
王都からの連絡を確認し、"こちらは問題ありません"
と伝えるだけの毎日。
少し前に、初心者を出るかでないかと言ったパーティがメンバーが負傷したと言って飛び込んできたことがあったっけ。
それも結局なんともなかったわけだけど。
いや、そうでもないか。
バッグを担いでいるところを見たわけではないが、
多分彼らが見たのはアリスちゃんだと思う。
前に気まぐれで作ったギルドカー、もといギルドタグでダンジョンに入っちゃうとは思わなかった。
アリスちゃんにはいつも驚かされる---
と、その本人がギルドの裏口の前に座り込み、右手を挙げているわけで。挨拶かな?
「お早う、アリスちゃん。」
そういいながら鍵を取り出し、手馴れた動きで鍵を、扉を開けると
彼女は一目散に入っていく。
そして何歩か前に行くとピタリと止まってこちらを見る。
"早く行こうよ"そう言ってるような気がした。
ひとまず執務室へと向かい、荷物を置く。
窓を開ければ部屋の隅々まで視界に入る・・・とアリスちゃんが本棚の前
でジッと何かを・・・って本棚なんだから本よね?
彼女の元へ近寄ってみると彼女は本を叩いて私を見上げる。
・・・本が見たいということ?彼女は私に身を摺り寄せて仰ぎ見る。
おねだりされたのは初めてだ!だがかわいい!
とは言え、ギルドの本は私物ではない。ギルドの財産だ。
汚したり、傷つけたりされると困る。
「傷つけたりしちゃだめよ?」
私は結局拒めずに、絞った布巾で彼女の手をぬぐったのだった。
私はアリスちゃんをギルドの"勉強部屋"へと連れて行った。
"勉強部屋"は魔物の参考図書や薬草辞典など、依頼に必要なものから
そうでないものまで書籍をまとめた部屋だ。
アリスちゃんがポンポンと背表紙を叩いた本を明るいところに積んでおく。有名な冒険者にもここまでしてあげたことはない。
それにしても建築の本から歴史、地図から魔法書まで脈絡なさ過ぎる。
アリスちゃんは地面にお尻をつけて、座って?本を見ている。
傷つけないように恐る恐るページをめくっている様子はかわいらしい。
そのうち面白くなってきたのか段々顔が本に近づいて、体勢も変わっていき今はいわゆる"箱型"でページを開く左足だけが前に出ている。
慣れてきたのかページを開く動作もスムーズになってきている気がする。肉球の摩擦を利用してる?
ってアリスちゃん、それは近づきすぎではないかしら?ふふふ。
あら?よだれを垂らしちゃダメですよ?クスクス
"近代魔法概論"、それは有名な魔法師がまとめたものだが、
難解で、一部のもの以外には"枕のほうが有効な使い道"という評価を
受けている本だ。内容はよく研究されているが、言い回しがもったいつけられていて私もなんどか挫折しそうになった本だ。
今度は何をしてくれるのかしら?
ほっこりしながら私は受付へと向かうのだった。
名 前 アリス
飼 主 マーニ・フリームノート
クラス 御つかい猫
ステータス
生命力:008(±000) 魔 力:006(±000)
筋 力:???(±000) 知 力:015(±000)
器用さ:006(±000) 精神力:013(±000)
敏捷性:012(±000)
特技
ねこぱんち(Lv05) 発想 飛び(Lv11)樹上 走行(Lv03)
畑 ワーク(Lv04) ねこ かき(Lv04)狩猟豹走行(Lv05)
尾 行(Lv01) 登 攀(Lv02)頁 めくり(Lv02)
取得称号
飼い 九死一生 キレイ好き 銀露の狩人 果物大好き 鮭獲
重箱の隅 チャレンジャー ニャンタクロース 野良 畑の番人
ビギニャーズ・ラック 蛇 冒険猫見習 本のねこ 迷い
魔法使い入門 New! 山 ランニャング・ハイ