犬のおまわりさん、ねこの…
「あ、アリスちゃん、アリスちゃん」
下に向けた指をヒョイヒョイっと動かしながら私を呼ぶ声がしてそち
らに顔を向ける。
村のカリーナさんだ。
「旦那がお昼のお弁当忘れちゃって、悪いんだけど届けてくれないかしら?うふふ」
私の喉元を撫でながらそう言う。
ゴロゴロと喉を鳴ってしまうくらい気持ちいい。
もっとも自慢の毛並みを撫でるカリーナさんも気持ちよさそうなのでイーブンなのだ。なんの勝負なのか。
ともかく私は了解の合図に頭を上下に振る。
問題のお弁当が鞄に入るのかが問題だったけど(マジックバッグの入り口の大きさを越えるものはいれられない)、おにぎりの包みはなんとか通過した。
右手を頭の横に持っていき、
「行ってきます」
と挨拶する。
カリーナさんも満面の笑みで真似するようにくてっと手を耳の元にやる。
敬礼はもっとピシっとしないと締まらないぞ?と心の中で突っ込んだ。
誰しも自分のことはわかっているようでわかっていないもの、といういい見本になっているのだった。
私は小物専用の配達ニャんになっている。
私の存在が認知されているのがこの村だけなので、隣の村や町へとやりとりできるわけではないので正直に言えばあまり役に立っていない。
村のみんなに可愛がられているといったところだ。
家と家の間の狭い道を抜けて、塀の上を駆け抜けてちょこちょこと歩く。
村の周りの柵と壁の中間くらいのできの魔物対策のそれの、崩れたところがある。
耳を左右に向けて最大限の警戒をしながらといやっと飛び込みモゾモゾとくぐり抜ける。
警備上の関係で村の出入り口は2カ所しかなく、遠回りなので抜け道を通るのだが、見つかると補修されるので慎重に行かざるを得ないのだ。
段ボールでもあれば・・・
はっ!私は一体ニャにを!?
道中には罠もいっぱいだ。
日当たりの良さそうなところや、目の前を横切る虫やいい香りのする花や揺れる果実。
目を引き、身を引くものが周り中にあるのでついつい足を止めてしまうのだが、お弁当はお昼に間に合わせなければならない。
そう、真の敵は自分自身(本能)なのだ。
ふふん、私はプロフェッショナルニャんだぞ!
「おう、アリスじゃねーか。こんな山の中で遊んでるのか?」
失礼ニャ!これをみてもまだそんニャことが言えるのか!?
鞄に手を突っ込み・・・えっとこれ、これと。
「お、弁当を届けてくれたのか。ありがてぇ。今日は昼抜きのところだったぜ」
猟師のレントフさんだ。村の周りの害獣や魔物を狩って肉を卸しているらしい。
「でも気をつけろよ。獲物を狙ってるところに飛び出したら危ないんだからな」
と言ってちょっとゴツゴツの手のひらでグイグイと押し込むように頭を撫でる。ちょっと力強いですよ!
「せっかくだし、キリのいいところでお昼にするか」
そう言って包みからおにぎりを取り出して食べ始めるレントフさん。
うーん、どうせだし私も一緒にごはんにしようかな?
やっぱり一人で食べるのってさみしいしね。
******* レントフ サイド ******
折角持ってきてくれた弁当を食べようとしていたところでゴソゴソと音がするので見ていたらアリスが何か出そうとしているが、中のものを掴んでいると鞄が固定されなくて苦労しているようだった。
俺が鞄を掴み動かないようにしてやるとペコっと頭を下げる。
本当にかしこいっていうか人間臭いやつだな。
見ている間にでてきたのは魚だった。
思わずギョっとした。一緒の鞄に入ってたのかと思うとちょっと思うところがある。
幸い、焼いてあるやつだった。
丸っこい手を揃えて頭を下げる・・・のは何をしているのかわからないが思わず真似をして首を傾げた。
しっぽを勢いよく振りながらうまそうに食べるのを見ながら俺もおにぎりにかぶりつく。
たまにはこんな昼飯も悪くないな、と思った。
この日いつもより成果が上がったのは偶然だったのか。