瞳の先
遅くなりましたーすみません
アリスが目の前に表れ、その右前足を掲げている。
クロエは思わず目を閉じた。
かわそうにも身動きはとれない。どうやらこの束縛を解くことはできな
いとわかればせいぜいできるのはそのくらいだった。
アリスと呼ばれる半身は、その身体こそ普通のねこでしかないが、
ありあまるほどのアルルカナンをその身に秘めている。
炎で焼かれるのか、水で溺れさせられるのか、石にされるのか。
恐々と眉間?に皺を寄せてその時を待った。
《 アリス サイド 》
目の前でギュッと目を瞑って微かに震えるクロエを前にして
私は戸惑っていた。
クロエの言葉を信用するとして、私はこの世界の運営に携わる存在ら
しい。聞かされた今となってもその実感はまったくないのだけれど。
そして先代の・・・私のお父さん?お母さん?にあたる人は私たちに行く
末を託したそうだが、それは私とクロエが戦って勝った方が正しいとそ
う思っていたのだろうか。
そもそも人族への負の感情を与えられて生まれたクロエに選択肢はな
かったのではないだろうかと思うのだ。
もしかしたら私と立場が逆だったら・・・。
何より双子の弟(香澄にとっては決定事項)なのだ。
結局私にはまだ御使いという存在であるという実感もなかったし、
やりたいようにしよう!と思い、その手(前足)を振り降ろした。
1秒が1時間にもそれ以上にも思われるなか、耳の間、狭い額にふに
っとした感触が伝わった。今まで感じたことのない体感にますます身を
堅くして(すでに周囲からガッチガチに固められているが)いつまで経
っても痛みも衝撃もこないことに違和感を感じておそるおそる瞼を持ち
上げようとして
額をふにふにと揺れる何かの感触と
チリチリっとした音を立て、ドンっという鈍い音が通り過ぎて、
時間差かよ!と思いおもわず再び堅く瞼を閉ざした。
たっぷり数十秒の間をおいた気がして、まだ目が開く?と疑問に思いな
がらスパークが目に入り、異臭が鼻孔をくすぐり、反射的にに眉間に皺
が寄る。それはまだ生きているという実感であった。
鈍い音がする直前に”ごめんね”という声がした気がしてアリスの存在
を思い出す慌てて周囲を見渡せば目の前に小さく円形に陥没した地面が
あり、黒く焼け焦げた後があり、さらに遠くに目を向ければくすんだ白
と赤のまだら模様が地面に転がっていた。
何が起きたか呆然としているところに先ほどの音よりも大きい、大玉の
花火を打ち上げたような衝撃が周囲を駆け抜けた。