昔話 下
前回のサブタイトルを変更します、悪しからず。
1本の木の下でピョンコピョンコ跳ねている獣が一匹。
どうやら枝からぶら下がる果物をとりたいようだが、とても届きそうにない。体高(地面から手の付け根までの長さ)の2倍は跳ねているのだが、そもそも元々の体が小さいので2倍といってもそこまで高くないのだ。
もう一度ジャンプっ!チョイチョイっと手を伸ばすがそれを含めても1mほどだろうか。こちらの世界の果物のことは良く知らないが、目に入った赤い果実へと挑戦状を叩き付けたのは30分ほど前だったか。疲労が貯まっていたのか、バランスを保って着地したはずだが、そのままコテンと倒れてしまう。四肢を地面に投げ出して先ほど聞いた話を回想する。
エイファさんは眉間に皺を寄せつつ、話の続きを紡いでいった。話が先へ進むほどその口調は重たく、沈んでいく。
「元々下級貴族、と蔑んでいたのもあって、言うとおりにならないセグルダさんにロゼナリア家は不満を募らせていったそうよ。セグルダさんは領主としてとるべき最低限の税金しかとらなかったし、国王様への不要な斡旋もしなかったそうだから。そんな期間が続く中でマーニ君が生まれたそう。ロゼナリア家との仲が険悪化していく中、家族3人は領地で慎ましやかに暮らしていたそう。マーニ君を産んで以来、体調を崩しがちになったシグノーさんのために村の人も協力し合っていた。マーニ君が6歳の頃かしら、セグルダさんの下にロゼナリア家から一通の手紙が届いた。この頃にはロゼナリア家との間には緊迫感が漂っていたから、シグノーさんでさえ手紙による召喚には応じないほうがいいと訴えていた。けれどセグルダさんは、シグノーさんが実家と絶縁のような状態になっているのを好ましく思わず、なんとか取り持ってみせるつもりだったんじゃないかって。ただ、セグルダさんは帰ってこなかった。途中の道で馬車が1台崖へと転落したと思われる轍の跡が見つかった。事実は不明だけど、シグノーさんは実家がなんらかの工作を行ったのだと思ったのかもしれない、セグルダさんの死と実家の行動へのショックから、シグノーさんも体調を崩してそのまま亡くなられてしまった。ロゼナリア家の家中のものが、押しかけて来てただでさえ質素な家から、家財を持ち去ったとか。それでいて下級貴族の、そもそも貴族ですらなかったセグルダさんの血が混じったマーニ君はロゼナリア家の血筋として認めないとして私児として扱い、いーえ、セグルダさんへの八つ当たりをマーニ君にしていたといったところかしらね?そしてしかも自らの領地でもあるかのように村に対してひどい税金をかけ始めたわ。折り悪く国王様はセグルダさんの死と、自分がきっかけを作ってしまったかもしれないとひどくお悔やみになられ、寝込んでしまわれた。突然の事態に混乱に見舞われた国でこんな田舎の村は重要視されるはずもなく、4年もの間圧政が続いた。名誉貴族であったセグルダさんの領地は国の直轄領として組み込まれロゼナリア家も処罰された。マーニ君はロゼナリア家から解放されたが、親族もなく孤児院に預けられたけど、ロゼナリア家の支配時代に多くの家族を亡くした村民の恨みは行き場を無くしてマーニ君に向けられたわ。若い子供にはマーニ君がロゼナリア家の一員として映り、大人は事実を知っているが、家族を亡くした辛さからかマーニ君との関係に悩むものも少なくなかった。結果として、15才の成人の儀まで居られるはずの孤児院を出て、ギルドに冒険者として登録した。冒険者はギルドの支援を受けられるけど、それでも借りられたのはあのボロ屋くらい。いーえ、きっと村から離れたかったのもあるのね。」
大方、話したかったことを話したのだろうと思ったが、私のほうへ再び目を向けると、
「ごめんね、こんなことアリスちゃんに言っても困るわよね」
ねこに向かって真剣に話したことを照れたのかごまかすように軽い口調でそう言って、
「あの子を、マーニ君をお願いね」
そう言って私を地面に降ろす。見上げた私の目に映ったのは、真剣な顔で、でもちょっと泣き崩れそうな気がした。エイファさんはどういう立場なのだろう?ともかく、託された私は(後ろ)足と、尻尾でバランスをとり、上体を起こす。転生前も合わせれば私はお姉ちゃんなのだから
弟(マーニ君)を守らないとね!拳をこめかみの横へ添えるように・・・。へにゃっとした手は締まらなかったけれど、敬礼のポーズで精一杯の了解の意を示した。エイファさんは少し驚いて、そして、笑みを取り戻して村へと向かっていった。
やっぱり、登るしかないか・・・。目の前の木は転生前ならそれほどではないが(多分)、今の私にはこのー木なんの木よりでかそうに見える。ボロ屋に帰らず、1本の木の前でひたすら格闘中なのであった。
香澄は一人っ子だったので
・ちょっとキツめだけど最終的には甘いお姉ちゃん
・うざったい振りをしつつも実は構われて嬉しい妹
・やさしいお兄ちゃん
・やんちゃ盛りで手がかかる目が離せない弟
に憧れていました。特に弟、妹なんて居た日には構い倒して休日が明けるなんて光景が目に浮かぶようである。が実際には居なかったので「お姉ちゃん」の仕方は分かっていませんが、内心大いに燃えている所です。




