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いつか素晴らしき未来で  作者: 輝血鬼灯
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2.御先祖様がやってきた

 大変なことになった。

「あ、アルケイド・エンスレイ? 本当に?」

 目の前の青年が本当にアルケイド・エンスレイだというのであれば、人が時空を越えるというタイムマシンの目的の一つは成功しているということになる。

「あの――」

 とにもかくにも、この事態に巻き込まれた目の前の青年が本当に本物のアルケイド・エンスレイなのか。詳しく話をしてみないとわからない。さっそく口を開こうとしたエコーディアだったが、シャストンに止められた。

「待て、エコー。ちょっとこっちに来るのじゃ」

「へ? おじいちゃん?」

「すまないな、そこの方。わしはちょっとこの孫と話があるので、もう少しここで待っとってくれ。すぐに話し終わるからの」

「あ、ちょっと」

 呆気にとられた表情で追いすがる青年の鼻先で扉をバタンと閉め、シャストンはエコーディアと共に自分たちだけ研究室を出た。しっかりと鍵までかけている。

「ちょっとおじいちゃん。いきなり何なの」

「よく聞け、エコー。大変なことになったぞ」

「それは言われなくてもわかっているわよ」

 祖父の失敗タイムマシンで推定御先祖様な偉人が目の前に現れたのだ。これ以上何を驚くことがあろう。

「いや、わかっとらん。彼に何を言う気だった? あれがご先祖様だとしたら、会話の一つにも注意せねばならんぞ。わしらがご先祖様に迂闊なことを言ってもしも過去が変わってしまったら、下手するとわしらまで存在しなくなるかも知れんのだ」

「あ……そうか」

 アルケイド・エンスレイは過去の人間だ。彼の行動が現在の歴史と少しでも違っていたりしたら、今のこの時代も自分たちの存在もなかったのかもしれない。

「滅多なことを口走るものではないということじゃ。一歩間違えば、兵器開発拒否の事実すら狂って、この世界が二百年前の大戦から大きく変わってしまうということも――」

「あのー、おじいちゃん? 言いたいことはわかったけれど……」

 いくら科学技術が発達しても、タイムマシンで過去の歴史を変える、そんな小説や漫画のような出来事が本当に起こるとはこれまでエコーディアも思ってもみなかった。

 祖父の危惧はわかる、だがこのタイムマシン開発者は、肝心なことを忘れている。

「あの人が本物のアルケイド・エンスレイだとしたら、あの人がこのまま元の時代に戻れなければそれで十分過去の歴史が変わってしまうんじゃない……?」

「……――そ、そうか!」

 エコーディアの指摘に、シャストンはぴたりと動きを止める。

「う、ううう。ま、まぁあの時空跳躍装置が成功しておるのじゃ! 必ず元の時代へ返してやれるじゃろ!」

「ほ、本当に大丈夫なの?」

 相当若く見えるあのアルケイドがまだ娼婦との間に子どもを作る前だったりしたら、下手するとシャストンもエコーディアも生まれないことになってしまう。今すぐ体が消えたりなどということはないようだが、今のままでは何を考えても不安しか残らない。

「あのー」

 そこに、二人の背後から声がかけられた。

「「わひゃあ!」」

「す、すまない。そんなに驚くとは」

「というかお前さん、鍵はどうしたんじゃ。わしはきちんとかけたはずなんじゃが」

 この時代この都市で鍵と言えば、電子ロックと血流認証の二重構造だ。鍵穴に金属の鍵を差して開けることはほとんどない。マグル・アルケッセでは日常の些細なものまで電子制御されているため、錠前を開ける物質として原義的な鍵など実は誰も見た事がない。

「ああ、ちょっと備え付けの端末からハッキングを。なかなか高度なプログラムを使っているな」

 アルケイド・エンスレイは歴史に残るだけあって、偉大なる天才科学者であり、天才技術者である。

「わしの力作が……」

 シャストンの研究室の鍵は彼自身の制作だ。密かに落ち込む祖父を無視し、エコーディアはアルケイドに話しかけた。

「え、えーと、あの……あなたはアルケイド・エンスレイさんなのよね? ちょっと、双方の現状把握に協力してもらえますか?」

「願ってもないが、何を言えばいい?」

「まずは落ちついて聞いてくださいね。……今はエレス歴六〇七六年、七月。ここはエルデンター地区の自治都市で……通称『機械都市』マグル・アルケッセです」

「エレス歴で六千年代? 馬鹿な。だいたいマグル……ってそんな都市聞いたこともない」

「率直に言おう」

 戸惑う青年に対し、やっと復活したシャストンがずばりと言った。

「あんたはわしの作った時空跳躍装置で過去の時代から未来へとやってきたんじゃ。わしらはあんたの子孫、エンスレイ家の者じゃ」

「子孫?!」

 年代を聞いた時よりもぎょっとした顔でアルケイドは叫んだ。未来へのタイムスリップより、自分の子孫の方が重大な問題らしい。

「子孫って、だって私は――」

「えと、ええと、その」

「信じられないことも多々あるだろうが、わしらはご先祖様に嘘は言わんよ。ただ、こちらが言えないことも多々あるということを察してほしい」

「あなた方の話が本当ならば、ここは私のいた時代よりも未来ということになる。――歴史の改変に関わることか」

「そうじゃ」

 シャストンが頷くと、アルケイドは顔を顰めた。二百年前に天才と呼ばれただけあって、アルケイドは冷静で話の飲みこみも早くシャストンの話がすらすらと通じている。エコーディアの方が目を白黒させて祖父とご先祖様の間で視線を行ったり来たりさせているくらいだ。

 と言うか、彼はもっと驚かないのだろうか。エコーディアだったらいきなり見知らぬ場所で見知らぬ人間に「私たちはあなたの子孫であなたは未来にタイムスリップしたんです」などと怪しいことを言われたら、相手の正気かもしくは何かの罠ではないかを疑うが。

「とりあえず、エコーや」

「え、何?」

「ご先祖様を連れて、ちょっと外の世界を案内でもしてきたらどうじゃ。未来へ来たという実感を得るためにはこんな家の中より街の中を見てもらったほうが早いじゃろう」

「え? そんな急に……」

 そこでシャストンは声を潜め、エコーディアの耳元に口を寄せて小さく囁いた。

「なんでもいい。とりあえずあの若者をこの家から外に出して、当たり障りない現状説明をしておけ。その間わしは家の中のご先祖様関連の書籍を片付けておく」

「なるほど。わかったわ」

 アルケイド・エンスレイが歴史の成功者として名を残しているのならいいのだが、彼は偉人は偉人でも、その「何もしなかった」という偉大な功績と引き換えに処刑されてしまった人物である。この時代でそれを知ってしまった本人に自棄になられても困るので、とりあえずシャストンはそれらの手掛かりを隠すことにしたらしい。

「いいか、エコー。ご先祖様の末路と、子どもを産んだ相手の話は厳禁じゃ。わかったな」

「うん、気をつける……」

 エコーディアもまだ少し混乱しているが、大体事情は把握した。タイムマシンの改良のこともあるし、ここで彼を外へ連れ出すのは自分の役目だろうことも理解した。

「えーと、ご先祖様?」

「できれば、普通にアルケイドと呼んで欲しいのだが。君は?」

「あたし、エコーディア。じゃあ、アルケイド。外でいろいろ見ながら話そうよ。とりあえず行こう!」


 ◆◆◆◆◆


 エコーディアが用意したエアバイクに二人乗りして、空を飛ぶように走りながら都市の中央部に向かった。

 エアバイクとは、文字通り空気を噴射して走る原動機付自転車のことだ。バイクに限らず車も何もかもが、今はエアを利用して走る時代だ。エアバイクは制御に関しても簡単で、旧時代の自転車のように免許のいらない手軽な乗り物として使われている。

「うわっ……!」

 高層ビルが立ち並ぶ都市中央部の風景が見えてくると、エコーディアの後ろに乗ったアルケイドが感嘆の声を上げた。彼の生きていた時代には、さすがにここまで技術は発展していなかった。特にこの都市マグル・アルケッセはもともと科学者と技術者が作った街であるため、これからどんどん新技術で誰もが便利に暮らせるよう、あらかじめ都市全体と各家庭が都市に付随する電子機能の恩恵を受けるように作られている。

 家庭に関する細かい話はともかく、都市に関して語れば、まず真っ先に目に入るのは道路とビルの様子だ。

「あの虹のような光はなんだい?」

 建物は素っ気ない灰色が多いのだが、それらの高層ビルを繋ぎ、あるいは回りこむように走っている光のライン。その様々な色が周囲の建物に反射して、都市の中心部は虹色に見える。惜しむらくは空の色だけはどこまでいっても灰色であることだろう。

「道路! 正確にはエアバイク・ラインって言うの。つまり、あたしたちが乗ってるこれのための道路。エアバイク自体は空中を自由自在に走れるけど、そうすると皆が好き勝手に走って事故が起きちゃうでしょ? だから街の中に入ったらあのラインのどれかに乗るの。乗ると言っても」

「別にアスファルトの道路を車がタイヤで直接走るのとは違って、あの光の線に沿って走るよう義務付けられているということだね」

「そういうこと! 橋みたいに光がどこにでもかかってるけど、あれはただの色つきの光であって下にある家やお店の日照権は侵害しないよ」

「面白い世の中になったものだな」

 エコーディアの腰に手を回して体を支えながら、アルケイドはあちこち見回した。運転するエコーディアはちょうど近付いたラインの一つに軌道を合わせる。

「おーい、そこのお嬢さーん!」

 ちょうど横から声をかけられた。

「け、警察?」

 白いエアバイクに乗った紺色の制服を着た青年だった。どう見ても警察だ。アルケイドは何故か不必要にぎょっとしているが、エコーディアは動じない。

「はーい、なんですかー?」

「そのエアバイク、使用許可出てない(タイプ)でしょ。駄目だよー、自作バイクは使用申請出さなきゃ」

「え? これおじいちゃんが作ってあたしがプログラム入れて、今走行テスト中のバイクなんですけど、使用申請出てないですか? シャストン・エンスレイ」

 エコーディアと警察官の青年はバイクを道の脇に止めた。

「エンスレイのお嬢さんか! ……えーと、新しい製品を作ったという噂は聞いていたけど、申請はまだのようだね」

「もう! おじいちゃんたら! じゃ、今から仮申請してもいいですか?」

 エコーディアはスカートのポケットから小さな端末を取り出すと、幾つか情報を打ちこんでから警察に手渡した。警察官がそれを自分の端末で読みこむと、新型エアバイクの使用申請はあっさりと完結する。都市柄、こういったやりとりは非常に頻繁で簡素化されているのだ。

「はい、どうぞ。それじゃお気をつけて。また次の発明も期待していますよー」

「はーい!」

 警察官と手を振って別れ、エコーディアは再びエアバイクを発進させる。

「君のおじいさん……シャストンさんは有名なのか?」

「え? まぁね。おじいちゃん昔は色々なもの作って街の発展に一応貢献したことになってるから。ついでにあたしもそれなりに有名。だって天才だもん」

「……」

 エコーディアは何も嘘は言っていないのだが、アルケイドは彼女の背後で沈黙した。

「だってあたし、“エンスレイ”だもん」

「……君たちは本当に私の子孫だというのか?」

「うん、そうだよ。もしかしたら違うかもしれないって説もあるけど、でもうちは代々発明家と技術者の家系だし、自分たちはアルケイド・エンスレイの子孫だって信じてるよ」

「確かに君の容姿にはいくらか私の特徴が受け継がれている。でも、私は子どもを持った覚えはないのだが……」

「えーと、じゃあこれからとか、あなたの知らないうちにできてたんじゃない?」

 アルケイドの子孫に関しては、彼が処刑されてから懇意の娼婦が生んだ子がそうだと言われていて確証はない。これ以上踏み込むとまずい話題になりそうなので、エコーディアは話を逸らすことにした。

「ほら見て! あれがマグル・アルケッセ最大のテーマパークだよ!」

 祖父からとにかく時間を稼げと言われていたエコーディアは、アルケイドを遊園地に連れていくことにした。遊園地といってもここの場合アトラクションだけでなく買い物もできるし食事もとれる、大型デパートと提携した複合施設の一部である。あらゆる場所に最新技術が使われ、マグル・アルケッセの科学技術の結晶とも言われている。

 過去から未来へやってきたご先祖様にこの時代の最新鋭の技術を見せるためには最適な場所だろう。

「まずは服買って、軽いもの食べて、それから遊ぼ!」


 ◆◆◆◆◆


 あちらこちらの些細な光景にいちいちカルチャーショックを受けるご先祖様の手を引いて、エコーディアはアルケイドに遊園地の中を案内する。

 服も買ったし、昼食も摂った。あとはエコーディアが主にアトラクションに乗ると言うよりもその仕組みを説明しながら気ままに歩く。

「あれはナクロード社が百年くらい前に開発したシステムを使っててね、あっちのコースターはレムド鉱っていう新素材の性質が……どうしたの?」

「いや、楽しそうだなって」

 あちこちの施設やアトラクションを指さしながら説明するエコーディアをアルケイドは微笑ましげに見守っていた。

 偶然未来にやってきたというのにアルケイドは落ち着いていて、未来の光景に驚くには驚くのだが、どうもいまいち反応が薄い。それがエコーディアには不思議に思えた。

「君は発明や研究が楽しい? 新しいものを作り出すのが楽しい?」

「うん。楽しいよ」

「そうか……。私は自分の生きた時代で、人に天才とは呼ばれたけれど、何一つ後代に有意義なものを残せなかった。自動照準付きの銃を発明し、多くの人々を殺しただけ。それまでは物陰から飛び出してきたものを反射的に狙撃手が撃っても当たらないことが多かった。けれど私が作った銃を使うようになってから、戦場に引き出されてきた俄か兵隊の撃つ銃でも間違いなく目標に当たるようになってしまった。それがたまたま戦場に紛れこんでしまった小さな子どもだったとしても」

 アルケイドが語る二百年前の現実を聞いて、今度はエコーディアが絶句した。

「だから私はもう、何も作る気はなかった。どんなものを考えついても、それが人々を不幸にするために使われてしまうくらいなら、最初から存在させない方がいい」

 人殺しの武器を作り出した男は、それを後悔したのだ。最後まで結婚をしなかったアルケイド。彼は彼の生きた証を、この世に残す気はなかった。しかし彼がそういう人物であったからこそ、エンスレイ家はこの先祖をずっと誇りに思って来た。

「でも、でもあなたの場合は、それで――」

 二人の話を遮るかのように、あちらこちらから悲鳴が届いた。

「きゃあああああ!」

「うわぁああ! これは一体……っ!」

 アトラクションを楽しむ客たちの歓声とは明らかに違う。混乱と恐怖の声だ。

「なんだ? 動きが」

 悲鳴が聞こえてくるアトラクションの動きがおかしい。ジェットコースターやメリーゴーラウンドと言った乗り物だけではなく、ロボット製の着ぐるみまでもがプログラムにない動きをとっている。乗客を降ろさず高速で走り続けるコースターに、狂ったように暴れ出すロボット。

「きゃあ!」

 遊園地のマスコットキャラクターの姿をしたロボットが腕を振りまわして走り回る。少女が一人逃げ遅れて鉄の腕に殴られそうになったところを、アルケイドが手を引き助けた。

「……! あたし、管制室に行ってくる!」

「エコーディア?」

 アルケイドの戸惑いも気にせずにエコーディアは遊園地の管制室へと向かった。今ではアトラクションの動きは個別の機械で制御するのではなく、すべてが管制室と呼ばれるコンピュータ室で電子制御されている。

 すぐ近くで異変に気付いた警備員に強引に場所を聞きだすと、エコーディアは管制室へと飛び込んだ。

「何が起こったんですか?!」

「お、お客様ここは関係者以外立ち入り禁止で」

「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!」

 メインコンピュータの前に座っていた青年を強引に退かせると、エコーディアは勝手に制御プログラムの解析を始めた。

「前回のメンテナンスは?」

「き、昨日の夜です」

 脇目も振らずにコンソールを叩くエコーディアの気迫に押されて職員の一人が答えた。システムを解析しながらエコーディアはプログラムのエラー個所を探しだす。

「ここだ!」

 プログラム内の単純なスペルミスだが、そこからウイルスに侵入されている。エコーディアは舌打ちして、鞄の中から自分用の制御端末を取り出した。

「とにかく動きを止めて乗客を降ろさないと。強制終了は?」

「エラーが出て駄目なんだ! ハッキングをかけようとしてもセキュリティに弾かれて」

「あたしがハッキングをかけるから、制御を受け付けるようになったら停止プログラムを手動に切り替えて!」

「無理ですよ! ナクロード社のセキュリティにハッキングをかけるなんて! 本社に連絡してセキュリティを切るまで待って……」

 職員の青年の言葉に、エコーディアは強い意志の浮かぶ眼差しと共に答えた。

「あたしに不可能はないの! だってあたしは、アルケイド・エンスレイの子孫なんだから!」

 言うだけ言って、エコーディアは自分のマシンから管制室のプログラムに侵入しはじめる。彼女がすでに組んだプログラムは、非常時に備えて様々な働きをすることが可能だ。

「エコーディア!」

 アルケイドが管制室に辿り着いた頃には、エコーディアはすでに暴走したプログラムを終了させるためにハッキングをかけているところだった。指がピアノでも弾くように軽やかに、しかし猛然と動いてキーボードを叩く。

「アルケイド! そっちの人たち補佐して!」

 ただのプログラムの問題ではなくアトラクションの動きを制御している部分だけに、適当に接続を切断するわけにはいかない。高速で動く物体に人間が搭乗しているのだ。急停止させたりしたら身体が空中に放り出される可能性、否もしかしたら人は飛び出さずとも、レールを外れた機体そのものが飛び出す可能性もある。

 他のことは職員とアルケイドに任せ、エコーディアは彼らが停止プログラムを作動させる隙を作るために、ウイルスに犯されて制御命令を弾くというセキュリティの解除に努めた。空中に浮かぶ画面、エア・ヴィジョンを四つ一気に立ち上げ、自作の演算プログラムでシステムを解析する。何十層にも渡って張り巡らされたファイアーウォールをエコーディアは次々に解除していった。

「は……はやい!」

 エコーディアの作業を見て、この事態に成す術もなかった職員の一人が呆然と呟いた。広い意味でプログラムが関わるものに関して、エコーディアに死角はない。

「第二十二層、二十三、二十四層……クリア! いけるわ!」

 エコーディアの合図を受け、職員たちがそれぞれのアトラクションに手動で停止命令を打ちこんだ。

 何十と並んだ監視モニタの中で、奇怪な動きをしていたアトラクションが次々とその特性に合わせて緊急停止していく。

「これで、あとはシステムをいつも通りに戻していけば大丈夫のはずよ」


 ◆◆◆◆◆


 関係者以外立ち入り禁止の場所に不法侵入したことは、エコーディアが再びシャストンの名を出したことで免責となった。

 エアバイクの件でもそうだが、エンスレイ家は祖父一人孫一人の小さな家だがマグル・アルケッセの技術に大きく貢献しているのだ。だからこういう場所では顔が利く。

「そういえばアルケイドは何してたの? なんかえらく感謝されてたけど」

「うん、まぁ。ロボットを蹴り飛ばしたり、殴り飛ばしたりして襲われた人を助けた」

 科学者のはずなのに何故か肉体労働で事態の収束に一役買ったらしい。

「どうでもいいけどあの管制室の人たちまで私の名前を知っていたね。私はこの歴史上で一体何をやったんだ?」

「え? そ、それはもぉー凄いこと!」

 ついにこの質問が出たかとエコーディアは内心冷汗をかきながら答えた。管制室の職員たちはエンスレイ家の孫だと言った途端にエコーディアを見る目が心持ちきらきらとしだしたのだ。自身の発明を悪用されることを拒んで処刑されたアルケイドの名は、この機械都市では英雄として残っている。だがそんなことをまさかこれから死ぬらしい本人に言うわけにはいかない。

 そう、この人は死ぬのだ。国家の手によって処刑される。

「危ない!」

 考え事をしながら歩いていたエコーディアは、突如アルケイドに腕を引かれ抱きこまれる。次の瞬間、金属が地面にぶつかりひしゃげる大きく鈍い音が響いた。

「な、な……」

 ちょうどエコーディアが歩いていたその場所を狙ったかのように、壊れたアトラクションの部品の一部が降ってきたのだった。危うくエコーディアは飛行機を模した機体で昇天してしまうところだった。

 アルケイドは顔を上げて近くの物陰を見回した。今日は事故の後始末のために遊園地はすでに閉園されている。帰る途中の二人の他に、人影はないはずなのだが……。

「エコーディア、大丈夫か?」

「こ、腰が抜け……」

 エコーディアは最終的にはアルケイドに抱えられてバイクまで向かうこととなった。エアバイクの運転には少しコツがいるため、帰りの運転こそエコーディアだったが。

「なんでアルケイドはあの状態で動けるの」

「私は発明家だけれど、同時に軍人でもあったから。体も鍛えなきゃ駄目だよ、エコーディア」

「……はぁい」

 家に引きこもりがちなせいでの体力のなさは、エコーディアのどうしようもない欠点の一つだ。がっくりと肩を落としながら、家路を辿ることとなった。


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