何も変わっていない
「ちゃーす」
「おは」
「こん」
「ちーす」
「ばんわ」
「よ」
「ういーす」
教室に誰かが来るたびに起こる挨拶の嵐、窓側の一番後ろの席に座り頬を付きながら外を見るアルは参加していないが皆やはりオンラインゲームをやっていた人たちだけあってほとんどの人が挨拶を返す。
ゲームにおいてコミニケーションは重要であり特に挨拶が重要で挨拶をしないものはギルドに入れられないなどギルド規約の中にそのようなことを書くギルドも多く、野良でのPTでも初対面から始まるので挨拶は重要なキーとなっていた。
もっとも初めからほぼソロ活動をしていたアルにとってそんなものはどうでもいいものであったが。
そして数分後。
「挨拶ぐらいしろよ?狐さんよ」
「って」
そんなアルに持っている魔道書で頭を小突き注意する魔族女性。
すらっとした体形にゆったりとしたローブを羽織その隙間から見せ付けるように出した脚、頭には魔族特有の灰色の角にそれと同色のストレートな髪、このクラスの担任のベベリアその人であった。
「毎回思うが教室の前から入れよ、後ろから入ってくるな」
「それじゃあ君をからかえないじゃないか」
アルの言葉に淀みもなく言うそのセリフはもう何回も聞いたことであり、もう何回目になるかわからないため息を吐き、アルは手で追い払うように向こうに行けとあらわす。
こんなことも学院が始まって人と関わらないアルに絡んだベベリアから始まったもので、いまでは毎朝の恒例と化しているほどだった。
それにしても実年齢何歳だ…と思うアルだった。
最初の1年目にリアルに現れたプレイヤーたちの実年齢のアンケートをとった結果中学生ぐらいの年齢は、ほぼいないに等しくアルを合わせ数人ほどだったらしい。
今では国から変わった人々のリストが渡され全員の個人情報もVRオンライン制作会社若社長の超有名人、城ノ内螢ことレベル700の蛍火が管理している。 が、姿が変わった今自身の年齢もばらす必要もなく、ばらしては恥ずかしい者が多いため暗黙の了解として年齢を聞くことはタブーとされていた。
「はい皆おはようございます、だ」
アルから離れ教卓の前に立ったベベリアは魔道書で一度手を叩くとそう言った、それに返ってくるのは毎度の挨拶の嵐。
「今日は一昨日言っていた模擬戦を午後からしてもらう、午前はいつもと変わらない基礎トレーニングだ、毎度言っているとは思うがここにいる者はある程度の常識があるものたちだと思っている、くれぐれも馬鹿な行為などはしないようにいつもどおりに頼む。 以上だ」
そう言って出て行くベベリア。
「ひゃー、いっつも見てもかっこいいわあの人。 自分も20過ぎの大人やけどあの人には見惚れてしまうは」
それを見てしゃべりだすビールと柿ピーという名の人間族の青年、皆からは柿ピーと呼ばれこのクラスの中心となっている青年はレベル387のランサーという300台が集められたこのクラスでは上位の実力者だった。
そんな彼の呟きに皆が同意をし会話を盛り上げながら実技のためのグラウンドへ出て行く中、アルともう一人の女性プレイヤーだけが教室に残っていた。 彼女は隠れ桜という名の獣人猫のレベル347のアサシンであり、長い髪をストレートに伸ばし首には桜色マフラーとゆったりとした忍び装束、頭には黒い猫耳とお尻に長い尻尾をだるそうにもった少女とも言える身長の彼女。
基本こういう基礎トレーニングのときチームを組むアルと同じめんどくさがりなプレイヤーだった。
余談だが、このLillianオンラインでは女性プレイヤーが多い、キャラクタービジュアルや、かっこいい可愛い種族も多かったためか他のゲームと比べその数が多かった。
その裏づけとしてアルも真昼だったっころに数回だけグループを組んでボス攻略へと向かうときVCをしないかという誘いがありしたことがあるが、数回のVCで基本一人か二人は女性がいることには少し驚いたのだった。
「行こう」
「ん?ああそうだな」
凛とした隠れ桜の声に反応したアルは一緒にフィールドへと向かうのだった。
■
場所は変わり学院最上階、通称社長の部屋にとある人物が訪問していた。
「これが今回のダンジョンの結果だよ」
「ふむ、お疲れ様だ」
そう言って座っている男性キャラに書類を渡すのは今朝あると邂逅した8英雄の一人TTYMSであり、それを受け取ったのは事実上この神白沢市のトップである8英雄の一人、エルフの蛍火であった。
「たぶんそろそろ、第9次魔大戦が起きるんじゃないかな? ダンジョンでね、ターニングポイントを見つけたからたぶん魔のほうも動いてくると思うんだ」
「ああ、起源点を見つけたのか………、なるほどなやはり起源点は今回のことに何らかの関係があることは確実となったか」
「十中八九そうでしょうね、起源点が見つかるたびに襲ってくる魔物、これで関係がないというのなら私たちはまた振り出しに戻ってしまう…ダンジョンを進めたという結果だけを残してね」
「…」
しばしの沈黙が続き蛍火が書類からその目線を離しふと思い立ったように言う。
「そういえば8人目は見つかったのか?」
「いえ…何の情報もなしですねぇ…」
8人目つまるところ8英雄の最後のメンバーの消息だった。 オンライン当初からいるといわれている古参キャラクターである8人目の名は広まらずその特有の職業のFUだけが出回っているのである。
ゲーム内において700レベに到達すると【とあるプレイヤーがレベル700に到達ました。皆さんで祝福しましょう】となり、その他の英雄たちがそうなった場合フレンドやギル員からゲーム全体で叫ばれ祝福されたものだったが、その某プレイヤーのレベル700突破は誰にも祝福がなかったため他のプレイヤーからの「700逝ったの誰だあああああ!?」「探せええええええええええ」「ギル員全員捜索開始だ!!!」「狩りなんてやってる場合じゃねえ! 見つけるんだ!」などと一風変わりまくった事件が起きたぐらいだった。
その理由は簡単レベル700がすごいというのは当たり前な話なのだが、Lillianオンラインでは600以降の壁が厚いとされ600~650では600になるための必要経験値の1・8倍が必要とされ650~700では2倍を超えるとされていたため、とてつもない時間と精神力、そして敵のレベルに合わせた装備がいるために600であきらめ、サブに走るプレイヤーが多かったからだった。
そのためこの神白沢市にいる6000人のプレイヤーでも600を超えるプレイヤーは1000人にも満たず、650を超えている人数は300にも満たなかったためダンジョン攻略では高レベ者1000人も引き連れていくこともできず別けることで調整を保つがそれでも人数の数で勝てるダンジョンではなく少しでも実力のあるプレイヤーがほしかったのだ。
「まぁないものねだりでも仕方ない…これは地道に行くしかない、だがダンジョン攻略前には見つかってほしいものだ」
「ですね…。 そういえば」
考え込む蛍火に何か思いついたように言うTTYMS。
「ん」
「今日はこの学院で午後から模擬戦があるのですよね?観戦させてもらってもいいですかね?」
「ああ、かまわんぞ。 できたらレクチャーしてくれてもいいんだぞ? 魔剣士よ」
「ははは…私でいいのなら構いませんけどね。 そういえば気になる生徒もいますし」
脳裏に今朝であった狐青年を思いながら。
「ほう…まぁ好きにするがいいさ」
「はい、好きにさせてもらいますね?」
そう言うと蛍火は書類を持った手でTTYMSを追い払うようにしTTYMSは苦笑いしながらその部屋を出て行った。
「あいつが気になる生徒か…名だけでも聞いておけばよかったな」
今朝の出会いによりアルにとってめんどくさいことが起きるのが確定された。 アルにとってめんどくさいことばかりが起きるのはアルになっても真昼のときと何も変わっていないのであった。
_to be continued.
今回の固有名詞?
野良PT=これは友達じゃないまったく知らない人とPTを組んでレベリングするというもの…という解釈でいいのかな?ちなみにレベリングはレベ上げって意味ですの
FU=重力魔法使い これはとあるゲームからの引用 知っている人は知っている
叫ぶ=これはオンランゲーム内においていろいろな呼ばれ方をするが、つまるところ自分で打ったチャット内容が個人や身内に表示されるのではなく、今やっているゲーム内のプレイヤーすべてに見えるようにするものなのだ!…たぶん
自己解釈多いので多大なる心を持って解っていただけたらうれしす!